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ウイスキー&バー/この店の、この一杯

この店の、この一杯 第28回 言葉はボストン・シェーカーの音

横浜『カサブランカ』の山本悌地は寡黙なバーテンダーだ。彼のボストン・シェーカーの振りを、私は世界一美しいと思っているのだが、その響きが伝えたい気持ちのような気がしてならない。静かな夜に音は染みていく。

協力:サントリー
達磨 信

執筆者:達磨 信

ウイスキー&バーガイド

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横浜ベイスターズ・ファンの私は、かつては『カサブランカ』によく行った。
とくに1998年、33年ぶりだったか、日本一に輝いた年はかなり顔を出した。試合終了後、関内駅や桜木町の駅には向かわず、足は『カサブランカ』へ、馬車道通りをスキップして行った。
ここ最近、横浜球場にあまり出かけなくなった。今年は一度も出かけていない。するとどうだ。断トツ最下位ではないか。
オーナーバーテンダー、山本悌地氏は阪神タイガースファンである。今年は優勝である。これは山本氏に「球場にこない、店にこない、すると結果はこうなります」と、教訓を受けたようなものだ。
これからは来年の成績のためにも『カサブランカ』へ行かなければならない。

山本氏はまだ30代半ば過ぎ。寡黙な男前で、若かりし頃の三浦友和に似ているのだが、実はボストン・シェーカーの達人である。
大型のメタルカップとグラスからなるこのボストン・シェーカーを扱う若手バーテンダーが増えたが、これは山本氏の影響が強い。
ほれぼれとする。ボストン・シェーカーを右手でくるりと一回転させながら持ち上げる。左手を添え、背筋を美しく伸ばし、脇をしっかりと締めて振る。おそらく世界一美しい振りだと思う。

フルーツ・マティーニが流行する、その随分前から彼はフレッシュフルーツを使ったカクテルをボストン・シェーカーを操ってつくっていた。
大きく弧を描いたカウンター左奥にはその夜の旬の果物のリストが小さな緑のボードにチョークで綺麗に書いてある。つねに果物を10種類ほど用意していて、アルコールに弱い客、酒呑の道を歩む者、どちらにも臨機応変に対応している。
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