ジョギング・マラソン最新コラム

更新日:2010年05月11日

ロンドン五輪へ始動—シューズの三村仁司

日本女子マラソン陣が復活の兆しをみせた今年のロンドンマラソン。そこには「シューズの名工」三村仁司氏の姿もありました。ロンドン五輪に向け、金メダルシューズ作りのスタートです。

選手の足にフィットするだけでは不足

足に何の障害も起きなかった。思い通りの結果に頬もゆるむ
足に何の障害も起きなかった。思い通りの結果に頬もゆるむ
シューズ制作において選手の足にフィットさせるのは当然として、その走り(キックを効かすのか、足を運ぶのか)や、小崎選手に対するように、体型、骨格まで知り尽くし、さらにコース状況、レース時の気象までも想定して素材を組み合わせ(時には新素材を開発し)、求める機能を織り出すのが三村流。

「選手が要望するシューズを作るだけではいかんのです。選手が自分のシューズについて先入観を持っていて、選手が要望してくるシューズがその選手にとって本当に良いシューズとはいえないことがあるんです。そんなときは、あなたは、こうなんだからこういうシューズを履いたらもっと記録が伸びるよ、故障が減るよと説明して、本当にその選手にとって必要なシューズを提供してやらんとね。でも、それが選手の意識と食い違ったときに、選手がそのシューズを履くかどうか。それは選手との信頼関係ですよ。疑心暗鬼で履くのではなく、こちらに全幅の信頼を置いてもらえるかどうか。それにはこちらも徹底的に全力を傾けんとね」

フル2時間28分台のランナー経験が生きる

今回のシューズは、硬い路面を考慮して幾分クッション性を高めたという
今回のシューズは、硬い路面を考慮して幾分クッション性を高めたという
三村仁司氏には、42年間アシックスで積み重ねてきた経験とともにもう一つの強みがある。それは、三村氏がアスリートとして活躍していた事実だ。高校時代に長距離の名門高校で長距離選手だった三村氏は、オニツカ株式会社(現アシックス)に入社してもランニングを続け、24歳の時にはフルマラソンを2時間28分台で走っている。

「フルマラソンを走るといっても、選手として勤務で優遇されるわけでもなく、仕事が終わってからフェリーで別府大分マラソンに向かうなんていう生活でした」

そんな経験が、特注部門をまかされてからものをいった。シューズの耐久性に関して持っていた不満、それまで常識とされていた足型やサイズについての疑問。マラソンランナーの体についてもわかるし、選手の心理的な状況もわかる。そして選手の要望に応えるだけでは本物のシューズはできないという考えが、次第に確固としたものに育ち結果も出していった。

「三村さんに作ってもらうシューズは、レース用だけでなく練習用にもずっと履いていますから、他のシューズを履いたときはとっても違和感があるんです。ちょっと急いでコピー取ってきてなんていわれても、違うシューズだったら怖くて小走りもできないです」と小崎選手。まさに脚の一部になっているのだ。

パフォーマンスを高めるだけでなく弱点補強も

今後、より質の高い練習に移行するとなると、ますますシューズの重要性が増してくる
今後、より質の高い練習に移行するとなると、ますますシューズの重要性が増してくる
「今度のロンドンマラソン対策シューズを作り始めたのは2月に出場が決まってから。時間はなかったけど、小崎選手の足と走りを知り尽くしていたのとロンドンマラソンのコース状況もわかっていたので、試作は2種だけ」

それでもぴったり合ったシューズができた。小崎選手も三村氏のアドバイスに全面的に信頼を置いているという。野口みずき選手がアテネ五輪で優勝したときシューズにキスをして、三村氏に最大限の感謝の気持ちを示した。ヤクルトの青木宣親選手は、三村氏スパイクを制作してもらうようになってからケガもなくホームランがグンと増えたという。選手のパフォーマンスを高めるだけでなく弱点をサポートできるのが三村氏だ。

「レースだけじゃないんです。練習しなきゃ強くなれない。その練習が十分にできるシューズも作らないと」厚労省から「現代の名工」の表彰を受け、「神の手を持つ男」(『オニツカの遺伝子』(ベースボールマガジン社)と呼ばれる男は、単に手業に優れた職人ではない。技術、知識と経験に加えて選手への愛がある。

今回のロンドンマラソンにおける小崎選手へのシューズ提供は、小崎選手にとってもロンドン五輪代表の座への第一歩であると同時に、三村氏をチームに加えたアディダスにとっても、ロンドン五輪を制覇するための始動のステージであった。その意味でも、小崎選手の走りに三村氏は改めて手応えを感じた様子だった。



<関連リンク>
現代の名工、三村仁司氏が生み出すシューズ
三村仁司さんインタビュー
ロンドンマラソン 公式ホームページ
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