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『スモール・ベースボール』とは何か?(2ページ目)

2005年ホワイトソックスのワールドシリーズ制覇や、『スモール・ボール』を標榜した日本代表チームのWBC優勝などで、にわかに脚光を浴びる『スモール・ベースボール』について解説する。

執筆者:コモエスタ 坂本

『マネー・ボール』の位置づけ


アスレチックスで有名な『マネー・ボール』戦法は、今世紀初頭においてはビッグ・ボールの廉価版であり、亜種だった
アスレチックスで有名な『マネー・ボール』戦法は、今世紀初頭においてはビッグ・ボールの廉価版であり、亜種だったということができよう。特に当時のアスレチックスは、出塁率を重視し、盗塁を殆どしない・守備を重視しないなどの極端な戦法を採用して、それでもある程度の成功を収めたことが評価されている。

しかしその方法論は、もちろん永久普遍のものではなく、守旧派の戦術・戦法の裏をかいたという点でメリットを享受できた面もある。計算の複雑さのゆえに走塁・守備という要素を排除した点は、数字面には現れにくい暗黙の要素(進塁や守備範囲などは、主に走力に由来する)を無視したということであり、この点からスモール・ボール回帰への流れができたと考えられる。

またベースボールの美学から考えても、アスリートの一要素である「走る」という面を欠損させた点は美しくなく、例えば3安打で1点も入らないという状況を是とすることは、多くの野球ファンにとって納得のいかないところだろう。

もっとも、セイバー・メトリクス派の分析手法も年々進化しており、上記に述べたことはあくまで今世紀初頭当時の話であると断っておきたい。以前の記事でも書いたが、『マネー・ボール』を読んで目からウロコのあまり、当時のアスレチックス手法だけを盲信するという愚だけは避けたいところだ。

日本における『スモール・ボール』


日本のプロ野球チームの多くは、従来スモール・ボール的だと言うことができよう。歴史的に言えば川上巨人のV9時代にドジャース戦法を輸入したことや、高校野球などのアマチュアで培われた小技・機動力戦法がベースになっていると言えるだろう。

日本のスモール・ボールの特徴としては、盗塁・バント・エンドランの多用と、アウトカウントを賭する(与えがちな)手法が目立つ。2番に小技のうまい打者を配するのも伝統的で、強打者の少ないラインナップで、最少得点で勝つ方法論に偏っている。正確に言えば、これはスモール・ボール「的」ではあるが、伝統手法に依拠しすぎており、新しいものではない。

日本で成功したスモール・ボールのチームと言えば、2005年の千葉ロッテであろう。常に主軸を打つ大砲を配さず、日替わり打線と投手力でシーズンを乗り切った。従来の日本的な小技・足などを絡めた細かい野球に、セイバー・メトリクス的なデータ分析手法を応用し、成功を収めることができた。

一方、WBCの日本代表が『スモール・ボール』のチームだったかという点には疑問符がつく。個々のプレーヤーは、打力・出塁率・守備力・走力などの面から粒ぞろいのスモール・ボール的な選手が揃っていたが、戦術面でそれが完全に生かされていたとは言い難い。打線の選手起用や采配には柔軟性がなく、伝統的な日本野球だったとも言える。ただし投手を中心とした個々の能力は高く、また運もあって栄冠を手にすることができたと言えよう。采配には難のある王監督だが、その人格がもたらした勝利なのかもしれない。

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『マネー・ボール』を検証する
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