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昭和の名脚本家から選ぶ名作ドラマベスト5(3ページ目)

今では女性や若者向きがほとんどのテレビドラマですが、昭和50年代には大人向きの味わい深い名作ドラマが制作されていました。その時代の「脚本家ビッグ5」から5作を選んでみました。

黒田 昭彦

執筆者:黒田 昭彦

ドラマガイド

1位:山田太一『早春スケッチブック』

早春スケッチブック DVD-BOX
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日常を否定する実の父・沢田とマジメに働く育ての父・庄一という二つの生き方を、二人の間を揺れる和彦で対比させるという構成です。沢田竜彦を演ずる山崎努が魅力的で、和彦ならずとも惹かれます。印象的なセリフがたくさんありますが、その一つを紹介します。

治療を勧める和彦に対して、「体が丈夫だって長生きしたって、何にもならねえ奴はいくらでもいる。なにかを、誰かを深く愛することもなく、なんに対しても心からの関心を抱くことができず、ただメシを食らい予定をこなし習慣ばかりで一日を埋め、くだらねえ自分を軽蔑することもできず、俺が生きてて何が悪いと開き直り、魂は一ワットの光もねえ。そんな奴が長生きしたってなんになる? そんな奴が病気治したって何になる?」

そして、いつものトドメは「ありきたりなことを言うな、お前らは骨の髄までありきたりだ!」

それに対峙する育ての父・庄一を演じるのは河原崎長一郎。まじめに働く普通のお父さんを演じては日本一! でハマっています。

そして二人の男に挟まれるもう一人、都を演じるのが岩下志麻。かつては沢田と暮らし、今は望月の妻として平凡に暮らす主婦というを演じています。名女優の名の通り、『極妻』との両極端な役柄を見事に両立しています。

連続ドラマは、途中の盛り上がりを重視するため、その反動で最終回でみんなを納得させるようなドラマはそんなにありません。ところが、『早春スケッチブック』は最終回放送前には「どうやって結末をつけるんだろう?」とまったく予想できませんでしたが、終わってみると「これしかない!」という完璧な終わり方でした。

死を目前にした沢田の危険な魅力により、和彦ばかりか娘の良子、さらには妻の都まで竜彦の方に惹かれていくという状況に追い込まれた庄一はある決断を下します。その決断がすごい! それはドラマを見てのお楽しみということで……。

ちなみに『早春スケッチブック』はあまりヒットしたドラマではありません。それは放送時間が金曜22時、TBS金曜ドラマの裏で、しかもその時に放送されていたのは大ヒットした『金曜日の妻たちへ』パート1だったため。

1983年は他にもテレビドラマ史上最高視聴率の『おしん』や『積木くずし』、また『スチュワーデス物語』などメガヒットが相次いだ年。ここで紹介したテーマ重視のドラマからエンターテイメント重視のドラマへと変わっていった転換点の年でした。


望月家は私生児の和彦(鶴見)を連れた都(岩下)と、先妻に先立たれ良子(二階堂)を連れた庄一(河原崎)が再婚した血のつながらない家族だが平穏に暮らしていた。
しかし和彦が大学受験を控えたある日、突然謎の女・明美(樋口)があらわれ、写真家の沢田竜彦(山崎)のところに連れて行く。日常を否定する竜彦に和彦はひかれていくが、実は二人は父子であり、また沢田は病気で余命三ヶ月だったのだ…
(1983;フジテレビ)
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