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「ハマス」ヤシン師殺害の衝撃

イスラエルのパレスチナ解放組織「ハマス」の最高指導者ヤシン師がイスラエル軍によって殺害されました。ハマスの基礎知識とこれからのパレスチナ情勢について解説します。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【ヤシン師殺害で揺れる「ハマス」とは何か】
2ページ目 【ヤシン師殺害でハマスは弱体化するか】
3ページ目 【中東和平めざすアメリカはどうすべきか】

【ヤシン師殺害で揺れる「ハマス」とは何か】
PLOとは異なり、イスラム原理主義に根ざした反イスラエル組織


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イスラエルのシャロン首相の命令で、イスラエル軍はハマスの創始者で精神的指導者といわれるヤシン師を殺害してしまいました。イスラエル軍はこれまでもパレスチナゲリラ組織指導者の暗殺作戦を行ってきましたが、とうとう、PLOのアラファト議長にならぶ最大級の人物を暗殺してしまいました。

パレスチナ解放運動を「世俗」、つまり民族主義の立場からアプローチする代表がアラファト議長なら、イスラムという「宗教」からアプローチする代表がハマスのヤシン師だったのですね。ハマスは、PLO(パレスチナ解放機構)とは直接の関係はありません。独自にできた組織です。

くわしくいうと、エジプトで始まったイスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」(ムスリム=イスラム教徒)でガザ地区(現在のパレスチナ暫定自治区、下地図参照)のリーダーだったのがヤシン師です。ガザ地区は、今はパレスチナ自治区とされていますが、1967年の第3次中東戦争でイスラエルに占領されるまで、エジプトの領土だったのですね。イスラム原理主義とは、「イスラム教の教えに忠実な生活・政治・社会をめざそう」とする考え方です。

4次にわたる中東戦争におけるアラブ諸国の敗北、そしてイスラエルのレバノン侵攻などによって固定化されつつあったイスラエルのパレスチナ支配に対し、1987年、パレスチナ人の民衆蜂起的、自然発生的な抵抗運動「インティファーダ」が始まったときに、政治部門としてハマスが独立し、ヤシン師が指導者となったのですね。

つまり、1960年代以降、イスラム教とは関係なく民族主義的なところから解放運動をはじめたPLOと違い、ハマスはイスラム教の原点に帰ろうという原理主義運動から生まれ、イスラム教にもとづいた活動をしようとはじめたのですね。パレスチナ解放、という目的は一緒なものの、PLOは世俗的(非宗教的)に、ハマスは宗教的に、活動をしてきた組織なわけです。

ハマスはモスク(イスラム寺院)を拠点に活動を行い、教育や医療などの社会福祉運動を展開して人びとから支持されてきました。と、同時にテロ活動も行うようになり、数々の自爆テロをイスラエルで展開し、イスラエル人に対する抵抗活動を行ってきたのでした。

そして1990年代以降、冷戦が終結し、社会主義勢力からの援助が途絶え、どうしようもなくなってイスラエルとの和平への道を模索しはじめたPLOにかわって、ハマスが対イスラエルの抵抗運動の矢面にたつようになり、多くの人びとの支持を受けるようになってきたのですね。

イスラエルと和平の道を選んだPLOに対し、ハマスはイスラエル国家そのものを否定します。和平もありえない。ありえるのはイスラエルを消滅させ、そこにパレスチナ国家を建設すること。こういった主張が、イスラエルの過酷な支配に対し絶望に瀕しているパレスチナ民衆に、大きなインパクトを与えてきたのです。

さて、そんなふうにパレスチナ民衆の支持を受けてきたハマスのリーダー、ヤシン師を殺害するに至ったイスラエル。今後の情勢がどうなるのか、もう少し見ていきましょう。

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