風しんも飛沫で感染する!今「昭和37~53年度生まれの男性」が無料の抗体検査を受けるべき理由とは
お住まいの市区町村から「風しん」の抗体検査と予防接種が受けられるクーポン券が届いたという方もいるのでは? 実は過去に公的な予防接種を受ける機会がなく、免疫を獲得することができなかった人たちは、自身が風しんにかかったり、周囲に広げてしまうおそれがあるのです。
提供:一般財団法人阪大微生物病研究会
お話をうかがった方

小児科医・アレルギー専門医。京都大学医学部卒業後、日本赤十字社和歌山医療センター、京都医療センターなどを経て、大阪府済生会中津病院小児科・アレルギー科で診療に従事。論文・学会報告多数。診察室外で多くの方に正確な医療情報を届けたいと、インターネットやテレビ、書籍などでも数多くの情報発信を行っている。
昭和37~53年度生まれの男性の皆さん、「クーポン券」は届いていますか?

2019年以降、お住まいの市区町村から自分や家族に「風しん」の抗体検査と予防接種が受けられるクーポン券が届いたという方はいらっしゃいますか?
これは、子どもの頃に風しんワクチンの定期接種の機会がなかった昭和37年(1962年)4月2日から昭和54年(1979年)4月1日生まれの男性が、原則無料で免疫の有無を調べる抗体検査やワクチンの接種を受けることができるもので、国が行っている事業(風しん第5期定期接種)です。
ところが、全国で約1,500万人の対象者のうち、2020年10月までにクーポン券を使用した人は約263万人と、まだあまり活用されていないことがわかっています。
では、そもそもなぜ風しんの抗体検査と予防接種が必要なのでしょうか?
そもそも「風しん」とは?「風しん」にかかるとどうなる?

国立感染症研究所 発生動向調査年別報告数一覧https://www.niid.go.jp/niid/ja/ydata/10068-report-ja2019-30.html
国立感染症研究所 風疹に関する疫学情報:2021年2月24日現在
https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/rubella/2021/rubella210224.pdf
より作図
近年、日本国内で風しんが流行したことを覚えている方も多いのではないでしょうか。2012年から2013年にかけて全国で大流行し、2018年から2019年にも関東地方を中心に風しんの患者数が増加しました。
風しんは、風しんウイルスによっておこる病気で、新型コロナウイルス感染症と同様に、咳やくしゃみ、会話などの「飛沫」でヒトからヒトへ感染します。風しんウイルスの感染力は強く、免疫がない集団では1人の風しん患者から5~7人にうつると言われています。
感染してから発症するまでの潜伏期間は通常14~21日で、その後、発熱や発疹、リンパ節の腫れなどの症状がみられます。症状があらわれる約1週間前から感染力があるため、知らないうちに周囲に感染を広げてしまうことがあります。
風しんは子どもがかかる病気と思っている人も多いかもしれません。しかし、現在は幼児期に風しんのワクチンを定期接種するため、子どもがかかることは少なくなっています。
一方、大人が風しんにかかると、高熱が続き、関節の痛みも伴うなど、子どもより症状が強い傾向があります。また、まれに脳炎などの重い合併症を引き起こすこともあり、注意が必要です。
特に注意が必要なのが「先天性風しん症候群(CRS)」

風しんで特に注意が必要とされているのが、妊娠中の女性への感染です。
風しんに対して免疫がない女性が妊娠初期(20週頃まで)に風しんに感染すると、胎児も風しんウイルスに感染し、生まれてくる赤ちゃんは先天性心疾患、難聴、白内障などの症状を持って生まれてくる「先天性風しん症候群(CRS)」を引き起こすことがあります。

先天性風しん症候群の児に見られる主な症状
2012年から2013年にかけての全国的な風しんの流行では、45人の赤ちゃんがCRSと診断されました。また、2018年から2019年の流行では2019年に4人、2020年に1人の合計5人のCRSが報告されています。
残念ながらCRSには決め手となる治療法はなく、予防が重要になります。女性の多くは過去に風しんの予防接種を受ける機会がありますが、何らかの事情で予防接種を受けることができない人や、なかには予防接種を受けたものの免疫がつかない人もいます。また、妊娠中の女性は風しんの予防接種を受けることができません。
妊娠中の女性への風しんの感染を防ぎ、子どもたちをCRSから守るためには、社会全体で風しんに対する免疫を持ち、予防していく必要があるのです。
40~50歳代男性の抗体保有率の向上がカギに
風しんはワクチンよって予防できる感染症です。
現在、風しんワクチンは1歳児(第1期)と、小学校入学前1年間の幼児(第2期)に、定期接種として2回の接種が行われていますが※、今後も免疫を持たない人の間では、風しんが流行するおそれがあります。
なかでも、最初に紹介した昭和37年(1962年)4月2日から昭和54年(1979年)4月1日生まれの男性は特に注意が必要とされています。風しんワクチンの定期接種の機会がなかったため、風しんに対する抗体保有率が低いのです。
※2008年度から2012年度の間、第3期として中学1年生、第4期として高校3年生相当年齢に定期接種が行われていましたが、現在は終了しています。
そこで、昭和37年(1962年)4月2日から昭和54年(1979年)4月1日生まれの男性の抗体保有率を、2022年3月までに90%に引き上げることを目標に、国が風しんの抗体検査と予防接種を無料で受けられるクーポン券を配布する事業(風しん第5期定期接種)を実施し、風しんの流行を終息につなげようとしているのです。
実施期間は2022年3月31日まで。対象となる人は、ぜひこの期間に風しんの抗体検査を受け、免疫がない(十分な抗体がない)場合は予防接種を受けておきましょう。※
※ クーポンの対象でない方も、自費で抗体検査を受けることができます。妊娠を希望する女性とその同居家族であれば、市区町村で抗体検査を無料で受けられる場合もあります。
無料のクーポン券を活用し、風しんの感染拡大を防止しよう

⾵しん第5期定期接種の対象となっている年代の男性には、風しん抗体検査と予防接種のクーポン券が、お住まいの市区町村から段階的に送付されています(送付された対象者は市区町村によって異なります)。
お住まいの市区町村から、すでにクーポン券が届いていて、まだ使っていない人は、近くの医療機関などで抗体検査を受けましょう。クーポン券はお住まいの市区町村以外でも使用でき、全国4万か所以上の医療機関で抗体検査を受けることができます。また、健康診断などで抗体検査を受けられる場合もあります。
抗体検査を受けて免疫がある(十分な抗体がある)ことがわかれば、予防接種は不要です。免疫がない(十分な抗体がない)ことがわかった場合は、無料で予防接種を受けることができます。
「自分は子どもの頃に風しんにかかったから大丈夫」と思っていても、実は記憶違いなどで免疫がない場合もあります。また、風しんにかかっても症状が現れない場合もあり、気がつかないうちに、職場など身の回りで妊婦さんたちにうつしてしまうおそれもあります。
自身が風しんにかかってしまうことや、誰かにうつしてしまうリスクを考えると、この風しん第5期定期接種の機会を利用してきちんと抗体検査を受け、免疫がない場合にはワクチン接種を受けることが望まれます。自分と社会の未来を守るために、風しんクーポン券を有効活用してください。
風しん抗体検査・風しん第5期定期接種受託医療機関(厚生労働省)>>
・検査の際に、クーポン券と住所が確認できる書類が必要になります。住民票の住所が変わっている場合、転居後の市区町村にクーポン券を再発行してもらう必要があります。
・クーポン券が未送付でも、市区町村に申し出ればクーポン券を発行してもらい、抗体検査を受けることができます。
・クーポン券をなくした場合、お住まいの市区町村にお問い合わせください。
・有効期限の延長が決定されたため、2020年3月有効期限のクーポン券は2021年3月まで使用できます。
※本記事の掲載内容は2021年2月作成時点のものです。