団地の未来は子育ての未来。「集まって住むパワーの可能性」が見えたトークイベントをレポ―ト

現在、国立新美術館で開催中の「佐藤可士和展」では「団地の未来プロジェクト」の詳細を展示中。団地の未来とは何か。2021年3月2日、佐藤可士和さん、隈研吾さん、を始め、このプロジェクトに深く関わる各界のトップランナーの皆さんによるトークセッションが開催されました。イベントを通じて見えた「集まって住むパワーの可能性」と「子育ての未来」について、「子育てガイド」の河崎環さんがレポートします。

提供:UR都市機構

執筆者

河崎 環

子育て ガイド:河崎 環

1973年京都生まれ神奈川育ち。乙女座B型。桜蔭中高から、転勤で大阪府立高へ転校。慶応義塾大学総合政策学部卒。アカデミズムを目指して海外遊学後、予備校・学習塾講師を経て物書きの世界へ。 2002年よりAll About「子育て事情」ガイドとして各種メディア出演・連載など多方面での活動を経て渡欧。スイス、イギリス(ロンドン)を経て帰国。

paragraph_0_img_0

トークセッションにご参加された方々。左から順に、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授・大月敏雄さん、建築家・隈研吾 さん、UR 都市機構理事長・中島正弘さん、クリエイティブディレクター・佐藤可士和さん、ジャーナリスト・清野由美さん(今回のトークセッションではファシリテーターをご担当)、ブックディレクター・幅允孝さん。

『団地の未来プロジェクト』とは?

paragraph_1_img_0

URと、佐藤さん隈さんが、ひとつのチームに

「ダンチ」の「ミライ」。まずはその絶妙に歯切れのいい響きに、ワクワクがスイッチオンされませんか。1955年の発足以来、良質な住宅供給だけでなく都市再生や街づくりも担ってきたUR都市機構(旧:日本住宅公団)は、1970年に誕生した横浜市磯子区の「洋光台団地」において、「団地の未来プロジェクト」を進めています。それは、デザイン界の先頭を走るクリエイティブディレクター・佐藤可士和さんと、世界的に活躍する建築家・隈研吾さんらによる監修のもと、新しい住まい方や地域の活性化によって、「団地」の持つ魅力を再構築するモデルプロジェクト。その前身である「ルネッサンス in 洋光台」の取り組み開始から10年が経ったいま、洋光台団地は大きくリニューアルされ、団地の良さを残したまま、再びいきいきと活性化しているのです。

paragraph_2_img_0

UR都市機構・中島正弘理事長は、都市開発事業の観点からプロジェクト発足の背景をこう語ります。「かつて日本住宅公団として始まったURは、1960年代から日本各地へ団地建設を広げ、住宅の供給を続けてきました。数十年の歴史を経て、建て替えが行われる団地も出てきています。住民が高齢化し、商業スペースにも賑わいが失われ、住宅としての魅力がなくなって地域ごと衰退していく。これからの日本は少子高齢化が加速していきますが、UR賃貸住宅も例外ではなく、その姿は日本社会全体の縮図とも言えるのです」。 全てをただ建て替えるのではなく、いまある団地をどのように再整備、再活用していくか 、先人が残したレガシーを次世代のためにいかに再生するかは大きな社会課題であり、この課題に取り組むため、約3000世帯を擁する巨大団地である洋光台団地を舞台に、団地再生プロジェクトは始まりました。

paragraph_3_img_0

世界的にも貴重な日本の団地

そしてなんとそこへ「世界の隈研吾」がアサインされるのです。これまでに個人住宅から大規模商業施設、美術館や万博・五輪などのナショナルイベント会場まで、さまざまな建築を手掛けてこられた隈研吾さんですが、団地再生に興味を持たれたきっかけには「個人的な理由と、社会的な理由の2つがありました」と語ります。個人的な理由とは、隈さんが神奈川県の大船にある中高に通われていたとき、その隣駅である洋光台の山に大きな団地ができた衝撃を、昨日のように覚えていること。友人たちも移り住んだ、思い出のある洋光台団地の再生をオファーされ「絶対やらなきゃならないな」と思われたのだそう。

未来に継承すべきコミュニティの価値

もうひとつ、社会的な理由とは「日本の団地が、世界的に見ても例のないような集合住宅のあり方であること」。20世紀、団地という中高層の集合住宅の供給に最も成功していたのは、アメリカでもヨーロッパでもなく、日本でした。隈さんはその理由を「それは多分日本人と団地の相性の良い部分があったから。日本が比較的フラットな社会で、シンプルだけどかっこよく住むというスタイルが響いたから、日本人は団地で暮らすことを愛したし、誇りにすることができたのだと思う」と分析します。

「1970年代の団地は建物同士の角度を微妙にずらしたり、ゆったりした敷地や間取りを採用したりと、『ゆるさ』を追求する動きがありました。つまり、未来に継承していくべき住まいやコミュニティの核は70年代当時からすでにあったんですよ。

でも、その価値に日本人は気づいていない。だからなんとしてもカッコよく現代的に再生しなければと、それこそ僕がまさにやりたかったものなんです。そうすれば、世界遺産のように世界的にも特別な資産になるのではと考えました」(隈さん)。

paragraph_4_img_0

社会課題をデザインの力で解決したい

そこで隈さんは、団地再生に佐藤可士和さんを誘います。佐藤さんは「あの『世界の隈研吾』さんに『団地やらない?』と声をかけられて、ものすごいインパクトでしたね」と笑いました。「でも、なぜ団地なのか、面白いなと興味をそそられたんです。僕はジェネレーション的に、団地のでき始めの頃に小学生で。地元でも、すごく広い場所に大きなピカピカの団地が建ち上がっていくのを毎日見ていました。友だちが住んでいたその団地は、僕の普通の家とは全然違うデザインで、全然違う眺めで、広い団地の敷地で鬼ごっこや缶蹴りをしたのは、僕にとっては昭和の幸せな、ポジティブな記憶なんですよね」(佐藤さん)。

隈さんの誘いに「すごくポジティブなイメージが湧いた」と語る佐藤さんは、この社会課題の解決に「デザインの力、クリエイティブを上手く使うとすごく良いパワーになるんじゃないか」と直感したのだそう。「社会的課題をほんの少しでもお手伝いできたらと思ってご協力しました。楽しかったけど、長くもありましたね(笑)。10年くらいかかりましたが、 ようやく発表できる」と声を弾ませます。

>>団地の未来プロジェクト


未来はもう始まっている

paragraph_5_img_0

コンセプトは「ゆるさ」と「集まって住むパワー」

佐藤さん、隈さんの目から老朽化した団地という課題を見たとき、お二人が感じた強みとは「ゆるさ」そして「集まって住むパワー」でした。「広い土地に建物がゆったりと建っている、その『ゆるさ』にポテンシャルを感じました」(佐藤さん)。隈さんも、「周りの木も含めてその空間は自分のものという、そういう『ゆるさ』のある空間に住んでいる人はとても豊かだと僕は思う。戦後の日本がみんなで作ろうと目指したコミュニティの夢みたいなところに戻って行けたらと、考えたんだよね」と、魅力を語ります。

2015年に、団地の未来プロジェクトのロゴが完成

2015年、それまでの有識者によるアドバイザー会議と住民によるエリア会議での議論をまとめていく形でプロジェクトが始動し、佐藤さんが「団地の未来プロジェクト」とのネーミングとコンセプトを凝縮して作ったロゴを発表したとき、隈さんは「いろいろな意味が重層的に重なっている、こんなカッコいいロゴができたなら大丈夫だ」と、プロジェクトの成功を確信したといいます。佐藤さんは団地の「団」という四角くて堅い字から角を取り丸くして、中を●(丸)と+(プラス)にして、「一つでもいいアイディアをプラスしていこう」と考えたのだそう。

paragraph_6_img_0

「暮らしのクラウド」というキーワード

さらにそこへ導入されたのが、「オープンイノベーション方式」でした。それは、お二人が団地に対して感じた「集まって住むパワー」をまさに活かすアプローチでもあります。多世代の多様な人々が自由に暮らせる場を作るために、さまざまなアイディアを持った人々を招き、異なる価値観をスパークさせ、新しい発想を団地文化にプラスしていくことを考えました。

そこで生まれたキーワードが「暮らしのクラウド」。昨今はインターネットなどを介して不特定多数の人々から資金を調達する『クラウドファンディング』が広く認知されています。これと同じように、暮らしに必要なものや人々の知見などを団地を通してつなげたり共有し合ったりできるのではないかという考えです。

「団地のCCラボ」や「まちまど」がオープン

洋光台の顔とも言える、広く空に向けて開放された駅前中央広場には「縁側」をイメージしたひさしとデッキが設けられ、木目を配した柔らかな空間に生まれ変わりました。カフェや雑貨店などの新しい店舗が続々入居し、広場ではお祭りやマルシェなどのイベントが開催され、大人も子どもも集まって新たな賑わいが生まれています。

住民や地域の人たちのための共有スペースとして、コンサートやクラフトスクール、コワーキングスペースとしての実証実験などのさまざまな活動が行われる「団地のCCラボ」や、地域の情報を発信する「まちまど」など、「サードプレイスの提供となって、お年寄りから子どもたちまでこれらをクラウドサービスのように使うことで大きなパワーが使えるのではないか、快適さを増すことができるのではないか」と佐藤さんは期待を寄せます。


誰にとっても心地いい場所に

自然と交流が生まれていく

コンペ優勝作品である「OPEN RING」という建築プランによってリニューアルされた北集会所は、隈研吾さんが「マグネットでみんなを引き込むような」と評価する大きなサンクンガーデンが中央に位置し、もともとある広場を活かしているのが特徴。

佐藤可士和さんがデザインを手がけた北団地のエリアリニューアルでは、隈研吾さんデザインによる駅前中央広場のトーン&マナーを踏襲。住棟には隈研吾さんのシグネチャーデザインともいえる木目を施し、広場は柵をなくしフラットで開放的な芝を敷き詰めることで、誰もが安全に快適に過ごせる空間を作りました。

「ニュートラルで誰にとっても心地いい場所にしようと思いました。子どもでも大人でもシニアでも日本人でも外国人でも、心地いいという感覚は同じ。みんなが心地いいと思えば、自然に交流が生まれると思う」と言います。

paragraph_8_img_0

子育て中のお母さんからも「芝生になって、赤ちゃんもハイハイできるし、子どもたちが安全に遊べるようになった」と声が上がる広い芝生のあちこちには、団地ロゴを引用した形状のベンチや舞台など、佐藤可士和さんならではの楽しい仕掛けが散りばめられています。

芝生の上もライブラリーにしてしまおう

そしてコミュニティカフェに併設されたライブラリーでは、一つのバスケットにテーマ別に選ばれた3冊ずつの本とレジャーシートを入れて貸し出すという斬新な手法が取られているのが、本当にユニーク。たとえば、「おやつの時間」というバスケットには、おやつ関連の本が入っているんです。

paragraph_10_img_0

「団地のライブラリー」を担当し、「クラウド」という佐藤さんの考えを「本」を媒介として具現化したのは、さまざまな場所でライブラリーの制作をしているブックディレクター・幅允孝さんです。「団地全体をライブラリーと考えて、芝生の上などの外の空間もライブラリーとしてしまおう、ライブラリーから染み出していくようにして本を楽しんでもらおう、と発想しました」(幅さん)。

paragraph_11_img_0

街をリスペクトした隈デザインが印象的

『町を住みこなすー超高齢社会の居場所づくり』などの著書があり、コミュニティの社会課題を考察されている東京大学教授・大月敏雄さんは、洋光台における「クラフトマルシェ」「まちまど」などのコンテンツを受け止める中央団地の広場のあり方を特に評価され、「街のエネルギーや味わいをリスペクトした隈デザインが印象的。デッキという仕掛けによって、2階住居という街ではなかった部分を街の中に参加させた」と絶賛。

>>洋光台団地のリニューアル


子育ての未来

paragraph_12_img_0

多様性が子どもたちの生きる力を育む

いいもの、いい街をたくさん見て知る有識者たちの発想や、住民のアイディア、街の声が集まって具現化した、洋光台の再生。まさにデザインコンセプトとなった「団地のゆるさ」「集まって住むパワー」がオープンイノベーションとなって生んだ、有機的なまとまりのように見えます。

この柔らかく体温のあるコミュニティにある人間関係、適度に快適に関わり合うような「人の気配」こそが、住む人をゆるやかに連帯させ、自由と安心感という、豊かな感情や体験を与えていくのではないでしょうか。

多世代が集まる団地は、それ自体がひとつのライブラリーであり、人の知見が集まる場、まさに世代を超えて「集まって住むパワー」の姿です。この環境で、親世代や年配世代などの優しい大人たちに囲まれる安心感とともに、子どもたちはわくわくしたりドキドキしたりする体験から多くを学ぶでしょう。何事も強制されることなく自由な状態で得られる「フロー体験」の蓄積、そして日々の暮らしで育む、あらゆる意味での「読解力」や「非認知能力」は、必ず子どもたちにとって生きる力となるはずです。「団地で育つこと」は、現代の子どもたちにとって財産となりうるのです。

多世代が有機的に混ざり合ったコミュニティ。そんな団地の未来は、きっと子育ての未来になる。「団地の未来」の取り組みは、洋光台団地からまた有機的に染み出るようにして、ゆっくりじっくりと、でも確実に広がっていくのでしょう。


洋光台団地以外でも始まっている団地の未来をチェック!

paragraph_13_img_0

緑に囲まれたテレワークスペースがオープン!

千里青山台団地(大阪府吹田市)では、2020年5月から新型コロナウイルス感染症拡大防止の一環として、MUJI×URモデルルームを活用し、お住まいの方が利用できるテレワークスペースを開設。入居をご検討中の方もテレワークの体験が可能。

テレワークスペースを活用!千里青山台団地でくらすパパにインタビュー

paragraph_14_img_0

誰でも立ち寄れるコミュニティサロンもオープン!

大島六丁目団地(東京都江東区)の集会所の一角にオープンした、コミュニティサロン「カフェ06(ゼロロク)」。UR自治会や団地にお住まいの方、地域の方々とともに話し合いを重ね完成。団地や地域の方が気軽に立ち寄れる「みんなの居場所」をつくりたいという思いがつまった場所となっている。

おなかも心も満たされる!カフェ06の魅力をレポート


>>団地やタワーマンションなどURの物件の魅力とは?
>>URの物件検索はこちら