家が健康に影響!ヒートショックなどから家族を守るには?

長く快適かつ安全に住める家を建てるには、住宅性能に対する知識を持つことはとても大切です。住宅性能の中でも、断熱性・気密性は、そこで暮らす家族の健康に大きな影響を及ぼすことをご存知でしょうか?そこで、体にやさしい家を建てる重要性について、井上恵子さんに伺いました。

提供:国土交通省

お話をうかがった方

井上 恵子さん

「住まいの性能・安全」ガイド:井上 恵子さん

安心・安全な住まいを見極め、女性視点でサポートする一級建築士。マンション設計に携わった経験を数多く持つ一級建築士が、住まいの性能を解説。性能評価申請に関わったマンションは20棟以上。設計事務所設立後は子育ての経験を生かし保育園の設計なども行う。その他に戸建て・マンション購入セミナー講師、新聞へのコラム連載など

“寒い家”は家族の健康に悪影響を及ぼす……

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現在、家族と一緒に暮らしている住まいについて、さまざまな不満や悩みを持つ方は多いでしょう。建築士の井上さんは、“家が寒い”という不満に対しては注意するべきといいます。

井上さん(以下省略)「暖房をつけても足元が冷える、暖房を切ると寒くて眠れない、浴室やトイレが寒くてつらいなどの不満は、実は家族の健康に悪影響を及ぼしています。例えば、部屋の中が寒いとこたつに入ってじっとしているなど、運動不足になりがちです。また、寒い寝室で寝ていると、子どもが布団をはいでしまって風邪をひいたり、親は夜中に何度も起きて布団をかけて寝不足に……ということもあるかもしれません」

「そして、最も注意したいのが部屋間の温度差です。リビングは暖かいのに廊下やトイレ、浴室が寒いと、移動のたびに血圧が上がったり下がったりするため、特に高齢の方には、健康への影響が心配されます」

実は交通事故よりも死亡者数が多い、入浴時のヒートショック関連死

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ヒートショックという言葉を見聞きしたことのある方は多いと思いますが、具体的にはどのような症状なのでしょうか。

「ヒートショックとは、急激な温度差によって血圧が大きく変動することにより、脳梗塞や心筋梗塞、不整脈などを発症する健康障害です。家の中では浴室でヒートショックを起こすケースが多いのですが、怖いのは入浴中に起こるケースです」

「もし浴槽内で意識を失ったり転倒したりすると、湯船での溺死事故につながる可能性があります。実際、消費者庁の調査によると、高齢者の事故のうちヒートショックが関連すると考えられる溺死は交通事故死の約1.5倍にもなるのです」

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消費者庁調べ(平成30年11月)

省エネ住宅なら、ヒートショックを防ぎやすくなる

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入浴中のヒートショックを予防するには、入浴前に浴室や脱衣所を暖める、湯温を41℃以下に設定し浸かる時間は10分を目安にする、浴槽から急に立ち上がらない、などの方法があります。

「入浴時にヒートショックを防ぐ方法を実践することは大切です。その上で、新築住宅においては、断熱性能の高い省エネ住宅により、住宅内の温度ムラをなくすことによって、ヒートショック予防に効果が期待できます。既存住宅であれば、断熱改修を行うほか、浴室に内窓や浴室換気暖房乾燥機を設置するリフォームをおすすめします。浴室が北側にある家は多いので、窓の内側にもう一つ窓を付けて二重窓にすれば冷気の流入を防ぐことができます。さらに、浴室換気暖房乾燥機のタイマー機能を使えば、入浴前に浴室内を暖めておけます。これらのリフォームを行えば、ヒートショックを防ぎやすくなるうえ、家族全員が温かい入浴タイムを楽しめるようになるでしょう」

浴室や脱衣所の寒さを解消することに加え、居室と廊下や玄関、トイレなどの温度差を少なくして、血圧が大きく変動するシーンをなくすことも重要になります。

国土交通省のスマートウェルネス住宅等推進調査委員会の調査では、断熱化を図ることで、居室の温熱環境が改善し、居住者の起床時の血圧の変化が小さくなる傾向がみられました(図1)。

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※図1


「なので、これから戸建住宅を建てるなら、断熱性・気密性が高い省エネ住宅がおすすめです。断熱性・気密性が高いと、冬の寒さや冷気、夏の暑さや熱気が入らず室温を一定に保ちやすくなりますし、部屋間の温度差が軽減されるため、ヒートショックの予防につながり快適に過ごせます。さらに、断熱性が高いと結露を防ぎやすくなるので、アレルギーや感染症の原因であるカビやダニを抑制しやすくなります」

「また、今の住まいでヒートショックのリスクを減らしたいなら、家全体の断熱性を向上させるリフォームがオススメです。例えば最も熱の出入りがあるのは窓などの開口部です。家全体の窓に内窓を設置すると効果があります。古いサッシは単板(1枚)ガラスで外へ熱が流出しやすく、また、古い家では窓枠が歪んでここからすきま風が入ることがありますが、内窓を付けることで暖房の流出を防ぎたいですね。浴室や脱衣室だけでなく家全体で行うことで、部屋間の温度差の解消につながります」

省エネ住宅にはヒートショックの予防や結露を低減できるほかに、エネルギー消費を抑制し家計に優しいというメリットもあります。

「省エネ住宅の特徴は、高断熱・高気密であるだけでなく、エネルギー効率のよい設備を用い、太陽光発電などの創エネ設備を設置していることです。例えば、エネルギー効率の高いエコジョーズやエコキュートなどの給湯器と、節水タイプの水栓を組み合わせれば水道光熱費を大幅に削減できます。さらに、太陽光発電などのエネルギーを創り出す設備を活用すれば、つくるエネルギーで消費するエネルギーをまかなうことも可能です」

省エネ住宅を国も後押し!気になる建築費用は?

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東日本大震災を機に、戸建住宅の新築時に耐震性を意識する方は増えていますが、省エネ性を意識する方はまだ少ないかもしれません。そこで、建築物省エネ法が改正され、提案中の家の省エネ性について建築士が建築主に説明する義務が2021年4月から始まる予定です。

具体的には提案中の住宅が省エネ基準に適合するかどうか、適合しない場合は省エネ性能の確保にどのような措置が必要か、などの説明が必要となります※1

「省エネ基準に適合しているかを確認することは、長く健康で快適に暮らせる住まいを手に入れるために大事なこと。必ず説明を受けて、分からないことは積極的に質問し、納得したうえで家づくりを進めましょう」

そして、省エネ住宅にする際に気になる費用。国土交通省によると、木造戸建て住宅の場合、省エネ基準適合にかかる費用※2※3は、新築時には約31万円、リフォーム時には約231万円という試算が発表されています。

「省エネ住宅は基準をクリアするために建築費用が少し高くなります。ただ、省エネ住宅なら光熱費は抑えられますし、家族が健康で快適に暮らせるなど、長い目で見れば、決して高い金額ではないと思います」


※1 分譲住宅・賃貸住宅の売主・仲介事業者等に対して購入者・賃借人への説明を義務づけるものではありません。
※2 【省エネ基準への適合のための追加コスト等の試算例】国土交通省資料より
◆計算モデルは、木造戸建住宅(6地域)を想定
 新築時の掛かり増し費用は、H4年省エネ基準(断熱等級3)に適合している住宅(複層ガラス)とH28年省エネ基準(断熱等級4)に適合している住宅との差額
※3 【住宅ストックの断熱性能と住宅の省エネ改修に要する費用】国土交通省資料より
◆省エネ改修に要する費用は、H4年省エネ基準(断熱等級3)に適合している住宅をH28年省エネ基準(断熱等級4)に適合させるための費用