髪を供養する「毛塚」
街を歩いていると、まぁ本当にいろいろな神様がいらっしゃることに驚かされます。さらに、普段お世話になっているものを供養するため、さまざまな塚が建てられています。和裁にちなむ「針塚」「筆塚」「歯塚」「虫塚」…。
そして、王子の関神社で出会ったのが「毛塚」です。
理容、美容業、かつら屋さんなどが髪の供養と恩返しから、昭和36年に建てたものですが、髪に悩む方も大勢お詣りされるようです。
お釈迦様が弟子を連れ、祇園精舎を訪れた際、みすぼらしい女性が自分の髪の毛を切って油にかえて明かりを献じました。その明かりは、どんな強風にも消えず煌々と輝き続けたという言い伝えに基づき、髪の毛の尊さに感謝する気持ちがこめられています。
カツラの祖?蝉丸
また、この塚の建つ神社が「髪の祖神」として、蝉丸を祀っていることにも少し驚きました。
蝉丸といえば、百人一首のこの句でおなじみですよね。
「これやこの行くも帰るもわかれては 知るも知らぬも逢坂の関」
しかし、お坊さんの蝉丸に、なぜ髪の祖神??と思って案内板を読めば、逆髪(さかがみ)に悩むお姉さんのために、侍女に命じて「かつら・かもじ」を作らせたとあります。なんでも、生まれつき天に向かって髪が逆立っていたとか(!)。この蝉丸姉弟の哀しいお話は、お能でも有名です。
これにちなみ、江戸時代に、滋賀県大津市逢坂山の「関蝉丸神社」を信奉する、かもじ業者を中心とする人たちがここに祀ったのが始まりと言われます。戦災で焼失しましたが<「かもじ・かつら・床山・舞踏・演劇・芸能・美容師」の各界に>呼びかけ、昭和34年(1959)に再建されたのです。
美容師さんや理容師さんだけでなく、芸能関係にも信仰が厚いことがわかりますね。
かもじ、っていうのは、添え毛、今で言うエクステンションのようなものでしょうか。 とすると、カツラやエクステの祖は、この蝉丸ということに。
また、蝉丸が琵琶の名人だったとされることから、芸の道にも御利益があります。
ただし、蝉丸という人は謎だらけ。醍醐天皇の第4子と言われ、生まれながらに盲目だったことから、逢坂山に捨てられたされるのですが、その生涯はよくわかりません。
余談ながら姉の<逆髪>というのも、実は逢坂の関の守り神<坂の神>だったのでは?という説もあるようです。
この関神社は、北区、王子神社の境内にあります。王子の地名の由来ともなった格式の高い神社。今年は終わってしまいましたが「槍祭」とも呼ばれる8月の祭礼、これからの季節は大イチョウの紅葉、そして熊手市。しかし、行事のない時でもいつ訪ねても、参詣する人が絶えません。
「東京十社めぐり」のうちのひとつでもあり、ぜひ訪れたい都内の神社のひとつです。
■関神社(せきじんじゃ)■
住所:北区王子本町1-1(王子神社境内)
電話:03-3907-7808
交通:JR京浜東北線・メトロ南北線・都電荒川線「王子駅」
地図:Yahoo!地図