ぺんてる「製図用シャープペンシル60周年 3本セット」4950円(税込、以下同)。「製図用シャープペンシル60周年 限定グラフギア500」1100円、「製図用シャープペンシル60周年 限定グラフ1000<フォープロ>」1650円、「製図用シャープペンシル60周年 限定グラフギア1000」2200円の3本と、ぺんてるの製図用シャープペンシル60年の歴史をまとめた年表をセットにしたモデル
ぺんてるの公式Webサイトには、「製図用シャープペンシルとは、主に技術者や建築家が図面を書く際に用いられ、安定した書き心地、線のブレにくさ、視認性の良さなど優れた性能を備えたシャープペンシルです」とあるように、修正できる筆記具として鉛筆が主流だった時代に、「研がずに」「長時間書き続けられる」「プロの道具」として考えられたシャープペンシルです。
ぺんてるの最初の製図用シャープペンシル「グラフペンシル」
もっとも、もう随分前に製図などの仕事はデジタルに置き換えられていて、製図に使われることはほとんどなくなっています。ただ、長くプロの現場で愛用されていただけあって、その信頼性の高さや、先端の長いパイプによる筆記部分の視界の広さ、入れている芯の硬度を表示できること、カッチリとしたブレの少ない筆記感など、一般のユーザーが使う筆記具として、今も高い人気を保っています。 1965年に発売された「グラフペンシル」は、ぺんてるの製図用シャープペンシル第1号。以来、ぺんてるでは「グラフシリーズ」として、現在までずっと製図用シャープペンシルを作り続けています。
実際、まだ高級シャープペンシルといえば、ファーバーカステルの製品や、ステッドラーの製図用シャープペンシルなどの海外製のものが主流だった筆者が学生の頃でも、高級感とカッコよさに惹かれて、ぺんてるの「グラフペンシル PG5」を愛用した記憶があります。
製図用シャープペンシルが60年、人気を保ってきたわけ
今回発売された3本の60周年限定モデルは全て黒に統一されている。上から「グラフ1000<フォープロ>」1650円、「グラフギア500」1100円、「グラフギア1000」2200円。芯径はどれも0.5mm
「ぺんてるが最初に発売した製図用シャープペンシル『グラフペンシル』は、筆記具というよりツール、専門家が使う道具として売り出されたところがあります。削る必要がない、パイプが長くて芯の先が見やすい、芯を一度に12本入れられる、金属製のグリップといった、製図作業に必要な機能を盛り込んだものです」と、ぺんてる株式会社商品企画課の小林悠馬さん。
その製図のプロが必要とする性能や機能は、そのままシャープペンシルの使いやすさにつながっていたこともあって、もはや製図用にはほとんど使われなくなっても、愛用しているユーザーはたくさんいるし、ぺんてるも60年、ずっと継続して作り続けています。 「この最初のモデルがよいプロトタイプになり、現行の製品も根本は大きく変わっていないんです。先端にある4mmのステンレスパイプが長いため視認性が高かったり、定規で線を引きやすかったり。そして、例えば今のモデルでいえば、芯の硬度表示がついていたり、グリップに少しラバーが入って使いやすくなっていたりはするのですが、初代の時点で製図用シャープペンシルとしてのアイデンティティーが確立されていて、それは、いい意味で普遍性のある特徴になっていると思うんです」と、小林さん。
高級シャープペンシルと製図用シャープペンシル
そういうシャープペンシルの基本的な部分が、高い精度で作られていて、デザインもカッコいいというのは、今の小中学生にもウケているといいます。ただ、製図用シャープペンシルは、最近の高級シャープペンシルとは、少し違っています。「シャープペンシルは、書いたものを消せるということもあり、ずっとオフィシャルな場面で使われることが少ない製品だったと思います。それでもシャープペンシルを好きだという人たちが、より高機能、高性能の『オレンズネロ』(3300円)などを求めたのではないかと。木軸などの高級シャープペンシルも、スーツに似合う筆記具という方向ではなく、学生や文具好きに人気になるようなコレクション性の高さや、工芸品的な魅力に高価格の要因があると考えています」
という小林さんによる現在の高級シャープペンシル人気の背景からすると、製図用シャープペンシルも、「オレンズネロ」などの路線のようにも思えますが、新機能、新技術による新しい便利ではなく、基本性能と製図に必要な「キレイで正確に書く」に特化した仕様が特徴で、その分、最近の高級シャープペンシルの中にあると、かなりリーズナブルな価格に見えます。
今回、改めて「グラフギア500」の60周年記念モデルを使っていて、そのカッチリ書ける性能の高さに驚くと同時に、これが1100円(限定仕様でなければ550円)で買えてしまうことにかなりビックリしたのです。
「高性能で高単価なのか、ラグジュアリー路線で高単価なのかというのは別ものだと捉えていて、やはり製図用シャープペンシルは、ラグジュアリーで評価を得てきたカテゴリではないという認識があります。比較的硬派な“ツール”として使われてきた製品の中でどのようなことができるか、そして60周年記念の限定モデルという枠の中でどういうことができるかというのは、かなり考えながら企画していきました」(小林さん)
面白いのは、その「硬派なシャープペンシル」が、ずっとシャープペンシルの大きなジャンルとして続いていて、人気も高いということです。
「製図用シャープペンシルとして引き継がれているものを変にアップデートしてしまうと、製図という枠からはみ出してしまうんです。それこそ、『クルトガ』や『オレンズ』といった機能的なシャープペンシルのユーザーとは真逆の方に好まれる製品だと思うんです。筆記をアシストしてくれる機能は要らず、“自分の手で使いたい”ユーザーに愛されるといいますか。その2つの潮流が今のシャープペンシルの状況だと分析しています」
ハイコストパフォーマンスな「グラフギア500」
そうした状況分析の中で、今回、60周年記念モデルに選ばれたのは、全て現行製品の中で人気の高い3種類。2001年発売の「グラフギア500」は、樹脂製の六角形軸に金属製のグリップ、筆記時に邪魔にならない短いクリップ、先金とグリップ一体型で4mmのステンレスパイプ搭載、硬度表示機能付きと、製図用シャープペンシルに必要な機能を全て備えた、ハイコストパフォーマンスなシャープペンシルです。
その60周年限定モデルは、初のオールブラック仕様。ステンレスパイプ以外全て黒いボディーで、もはや高級シャープペンシルの佇まい。単品での販売は1100円となっています。
完成度の高さに驚かされる「グラフ1000<フォープロ>」
「グラフ1000<フォープロ>」は、1986年の発売以来ずっと人気が高いモデルです。金属とラバーのグリップによる低重心+高いグリップ力、筆記時の目が疲れ難いマットブラックの塗装、シンプルなストレートの樹脂軸と、製図用シャープペンシルを洗練してプロ仕様にした製品は、ぺんてるの製図用シャープペンシルの完成形と言えるでしょう。その60周年限定モデルは、クリップまで黒にして、より精悍(せいかん)な印象。ノックの感触、芯を引っ込める時のスムーズさなど、使い心地は今回の限定モデルの中で、最も筆者の手にしっくり来るモデルでした。発売から39年もたつのですが、改めて、その完成度の高さに驚かされました。
オール金属軸のモデルの「グラフギア1000」
「グラフギア1000」は、2002年発売。先端の長いステンレスパイプがペンケースやポケットの中でうっかり折れてしまわないよう内部に収納できる、オール金属軸のモデルです。他の2本が、製図用シャープペンシルの歴史を踏襲した先にある完成形と入門編とすれば、この「グラフギア1000」は、製図専用ではなく、書きやすい高級シャープペンシルとして製品をバージョンアップしたものと言えるかもしれません。60周年限定仕様ではこれも「グラフギア1000」の標準ラインアップにはなかったブラック仕様。クリップとノックボタン以外は真っ黒です。同じ黒軸でも軸がアルミ製ということもあって質感がかなり違うのが面白いですね。
「今回、この3本を選んだのは、今のメインになっているモデルだからというのが大きいです。例えば、重心や握りやすいラバーグリップ、軽さがいいということで『グラフ1000』を選んだり、単純にコストパフォーマンスが高く、先金とクリップが一体になっている質実剛健な感じがいいということで『グラフギア500』を選んだり、クリップでペン先を収納できて、金属軸がいいといった理由で『グラフギア1000』を選んだりと、製図用シャープペンシルが好きな層の中で好みは分かれているんです」と小林さん。
芯の出し入れの感触など、それぞれ微妙に違っているのですが、内部機構などに違いはないのだそうです。ただ、材質の違いや塗装の違い、軸の内径と外径の違いといった細かい違いが少しずつ影響し合って、操作音や感触が違ってくるというお話でした。
60周年記念モデルに託した、製図用シャープペンシルへの思い
また、今回の限定セットについて、実はパッケージやぺんてるの製図用シャープペンシルの歴史を一望できる年表が、とてもよくできています。細長い1枚の紙なのですが、この資料的価値はとても高いもの。ネットで調べても出てこないであろうシャープペンシルの歴史の大きな一側面がまとめられています。小林さんは「できるなら、いつか冊子を作りたいという気持ちはある」とおっしゃっていました。また、年表の表紙がぺんてるのもう1つの製図用シャープペンシルのラインである「メカニカ」のパッケージデザインになっていたり、3本セットの箱を開けた状態で飾ってもカッコよくなるように作られていたりと、細部に、“分かる人だけがニヤリとする意匠”が込められているのも面白いところです。 「しっかりした箱を作りたいと思いながらも、高級品的なラグジュアリーな方向にはならないようにというのも同時に意識して作りました」と、製品戦略本部マーケティング課の小中真哉さん。
今回の60周年記念モデルは、既存品に比べると価格を上げた特別仕様ですが、現在の高級シャープペンシルブームを考えると、もっと高級路線を狙った高価格の記念モデルを作るという方向もあり得たはずです。それをせずに「ラグジュアリーな方向にはならないように」したという姿勢に、「道具としてのシャープペンシル」として長く愛されてきた製図用シャープペンシルという製品への誇りが感じられます。















