Q:60歳で退職後、厚生年金の繰り上げ受給を考えています。再就職して週24時間働く場合、60歳以降に納めた厚生年金分を65歳以降に繰り下げ受給できますか?
「60歳で現在の会社を退職し、厚生年金の繰り上げ受給を検討しています。再就職して週24時間働いた場合、60歳以降に納めた厚生年金分を、65歳以降に繰り下げ受給することはできますか?」(華さん)
60歳以降も働くとき、厚生年金はどうなる?(画像:PIXTA)
A:複数の制度を混同しているケースです。「繰り上げ」と「繰り下げ」は同時に選べませんが、60歳以降に納めた保険料は65歳の時点で再計算され、年金に上乗せされます
60歳以降に働きながら年金を受け取る人の中には、「繰り上げ」「繰り下げ」「在職老齢年金」の違いが曖昧なままになっているケースが多く見られます。華さんの質問も、いくつかの制度が混ざっている典型的なパターンです。順を追って整理してみましょう。
「繰り上げ受給」を選ぶと「繰り下げ」はできない
本来65歳から受け取る老齢基礎年金と老齢厚生年金を、60歳から前倒しで受け取ることを「繰り上げ受給」といいます。老齢基礎年金と老齢厚生年金は一緒に繰り上げをする必要があります。一度繰り上げを選ぶと、取り消しや繰り下げはできません。つまり、60歳で繰り上げて受け取っている人は、65歳以降に「繰り下げで増やす」ことはできない仕組みになっています。
60歳以降に支払った厚生年金保険料はムダにならない
一方で、60歳以降も働いて厚生年金に加入した場合、その保険料は65歳時点で再計算され、65歳から受け取る年金額に上乗せされます。「繰り上げ」と「再計算」は別の仕組みなので、たとえ繰り上げ中でも60歳以降に納めた厚生年金保険料分は反映されます。65歳以降は「在職定時改定」で毎年、老齢厚生年金に上乗せされる
65歳以降も働いて厚生年金に加入している場合、前年9月~当年8月までの加入状況に応じて年金額が見直され、10月分から増額されます(在職定時改定)。つまり、働き続ける限り、納めた保険料分は少しずつ年金に反映されていく仕組みです。収入が多いと老齢厚生年金が一部停止されることも
60歳以降、厚生年金に加入して給与収入があると、「在職老齢年金制度」の対象になります。給与などと年金の合計額(総報酬月額相当額+老齢厚生年金の報酬比例部分の月額)が、支給停止基準額(令和7年度は51万円)を超えると、老齢厚生年金が一部または全額支給停止になることがあります。
華さんのように、「60歳で繰り上げて受け取りたい」「60歳以降に払った分は65歳以降に繰り下げたい」というご質問は、実は繰り上げ・繰り下げが混ざった誤解パターンです。
繰り上げを選ぶと繰り下げはできませんが、60歳以降に払った保険料分は、65歳で再計算されてきちんと上乗せされます。
複雑な制度が重なるケースなので、受給を選ぶ前に一度、年金事務所で確認しておくと安心です。
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監修・文/深川 弘恵(ファイナンシャルプランナー)






