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高額なお布施は「ぼったくりバー」と同じ構造か? 悪質請求トラブルと「坊主丸もうけ」の実態

高額請求されるお布施は「ぼったくりバー」と同じ構造だった? 一方で「坊主丸もうけ」は嘘? 悪質な勧誘への法的対抗策と、多くのお寺が抱える経営のリアルを紹介します。※サムネイル画像:PIXTA

All About 編集部

高額なお布施はぼったくりバーと同じ構造?一方で「坊主丸もうけ」は嘘?※画像出典:PIXTA

高額なお布施はぼったくりバーと同じ構造?一方で「坊主丸もうけ」は嘘?※画像出典:PIXTA

「坊主丸もうけ」というのは本当? 葬儀でのお布施に関する悪質な高額請求トラブルの実態と、多くの寺院のリアルな台所事情を知っていますか?

弔いの値段 葬式、墓、法事……いくら払うのが正解か?』(鵜飼秀徳・大久保潤著)では、ジャーナリストであり現役住職が弔いの現場のリアルを明かします。

今回は本書から一部抜粋し、「高額お布施」事例とともに「寺の経営」実態について紹介します。
<目次>

「坊主丸もうけ」と言われるけれど

法外な布施を要求された実例として、「枕経だけで30万円。戒名から初七日、四十九日の法要まで総額で600万円近く」というケースがありました。

私の元にも、それに類似する事例が寄せられることがあります。ですが、まずもって「あまりにも法外な金額」であることを申し上げておきます。

本件は構造的には、「ぼったくりバー」と同じです。

「飲み放題で3000円」などとうたっておいて、会計時に10万円以上も脅し取られる。「檀信徒に寄り添います」などと言いながら、お金の問題になると態度を豹変させる。こういう「ぼったくり寺(僧侶)」には、いずれ仏罰が下ることでしょう。

ひと昔前であれば、泣き寝入りしていた事例かもしれません。ですが今は、そうしたあこぎな宗教法人に対する「制裁」の動きが起きています。本論に入る前に少し、説明したいと思います。

仮に、「しつこく布施を要求され続け、身の危険を感じた」「霊感商法的な寄付の要求があった」「一括払いが無理ならば、ローンや親戚から借りてでもいいから払え、と住職に言われた」などの事実がある場合、一連の旧統一教会問題をきっかけに成立した「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律(被害者救済法)」に抵触する疑いがあります。

同法では「不当な寄附の勧誘行為」を以下のように定義(第4条、要約)しています。

・しつこく勧誘されるなどして、帰ってほしいと伝えても退去しないケース
・同様に帰りたい意思を示しているのに帰してくれないケース
・勧誘することを告げず、寄附者が退去しにくい場所に連れて行く行為
・勧誘を受けた相談を第三者にした時に、威迫する言動を交えて妨害行為をすること
・恋愛関係を利用して、寄附しなければ関係解消するなどの告知をすること
・霊感商法

さらに、同法第5条では、

・借金させたり、不動産を売却させたりして寄附させること

を禁止しています。こうした行為にたいして、勧誘を受けた者が「困惑」した場合、寄付の取り消しができる可能性があります。

なお、命令に違反した場合は1年以下の拘禁刑や100万円以下の罰金が科されます。

不当な行為が積み重なっていけば、「宗教法人解散命令請求」も視野に入ってきます。人々を苦しめる悪質な寺は即刻、「退場」してもらわなければならないと思います。

寺のリアルな経済力

次に菩提寺側の視点に立った弔いにまつわる経済指標を示しましょう。

「菩提寺における年間葬儀発生率」という興味深い指標があります。ある寺が1年間に執り行う葬儀数の目安です。これは、檀家軒数の5~6%と言われています。つまり、100軒の檀家を抱える寺院は平均して年間に5~6件の葬儀が発生します。

私の寺(檀家数100軒)に当てはめても、それくらいの数字です。檀家数と年間葬儀発生率によって、その寺院の経済力がある程度はわかります。100軒の檀家数を持つ寺院において、20万円の布施が5回あれば葬儀収入(布施)は年100万円ということになります。

年忌法要の実施数は1葬儀あたり4回程度と言われています。法要のタイミングとしては、四十九日法要から三十三回忌法要まで数えると計10回(四十九日、百箇日、一周忌、三回忌、七回忌、十三回忌、十七回忌、二十三回忌、二十七回忌、三十三回忌)になります。

檀家100軒の寺院での年忌法要数は、年間20回ほどが平均値です。年忌法要の布施は3万円から5万円が相場ですから、仮に間をとって4万円とするならば法要収入(布施)は80万円です。

檀家数100軒の寺院で、葬儀と法要の年間収入はおよそ200万円。

ほか、檀家1軒あたりの墓地管理費が1万円(計100万円)とすると、年収は280万円ほどということになります。これが、檀家100軒の寺院の基礎的な経済力です。

坊主丸もうけはごく一部

そこから、光熱費や水道代、修繕費、人件費、墓地や庭園の維持・管理費、法衣や仏具などの購入やメンテナンス料などの経費を差し引けば、赤字経営になるケースが多いでしょう。

檀家100軒クラスの寺院では到底、生活していけません。寺としてギリギリ自立できるのは檀家300軒以上といったところ。

よく揶揄される「坊主丸もうけ」の寺院は、全体の1%あるかどうかです。
  鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)プロフィール
僧侶、ジャーナリスト。1974年、京都・嵯峨の正覚寺に生まれる。成城大学文芸学部卒業。日経BP記者を経て独立。2021年に正覚寺住職に就任。主に「宗教と社会」をテーマに執筆、取材を続ける。大正大学招聘教授、東京農業大学、佛教大学非常勤講師。公益財団法人全日本仏教会時局問題検討委員会委員(学識経験者)。

大久保 潤(おおくぼ・じゅん)プロフィール
1963年生まれ。国際基督教大学教養学部卒。日本経済新聞社入社後、社会部、証券部、那覇支局長、新潟支局長を経て、現在は東京本社くらし経済グループ・シニアライター。自治体や大学、経営者団体などでの講演も多数。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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