この記事では、修繕積立金と管理費の違いや、修繕積立金の引き上げの実態について株式会社さくら事務所の土屋輝之氏が解説します。
マンション購入で重要な「修繕積立金」の設定
大手銀行で住宅ローン固定金利の引き上げが相次ぐなど、金利上昇のニュースが続いています。これからマイホームの返済を始める上で、金利の動向に不安を感じる方も多いでしょう。しかし、その金利と同じくらい、将来の家計を左右する重要な要素が「修繕積立金」の設定です。というのも、新築時に支払い負担の軽さをアピールするために修繕積立金が低く設定され、入居から数年後に計画的に、そして大幅に引き上げられるケースが珍しくないからです。
近年では、国土交通省(国交省)のガイドラインを超える水準まで引き上げる事例も珍しくなく、「金利」という目に見える負担に、さらに将来の負担が重なる“Wコスト負担”は、ライフプランの前提を揺るがす大きな問題となりつつあります。
将来の値上がりリスクを抱えた物件を、購入検討段階で見抜くには、どこに注目すべきなのでしょうか。まずは修繕積立金の仕組みを正しく理解していきましょう。
そもそも「修繕積立金」とは? 管理費との決定的な違い
マンションの購入を具体的に検討し始めると、住宅ローンとは別に毎月支払う費用として「管理費」と「修繕積立金」を目にするようになります。実はこの2つ、似ているようでその役割はまったく異なります。・管理費
管理費とは、マンションでの快適な日常生活を支えるための、いわば日々の生活費にあたるもの。共用廊下の電気代や清掃、植栽の手入れといった、日々の暮らしに直結するサービスに使われますが、人件費などの値上がりを含め諸物価高騰の影響から上昇傾向にあります。
・修繕積立金
修繕積立金は、未来の資産価値を守るための費用であり、未来への貯金とも言えるでしょう。10数年ごとに行われる外壁の大規模修繕や、給排水管、エレベーターといった大型設備の更新など、建物の健康を維持するための将来の大手術に備える大切なお金です。
この修繕積立金も、近年上昇傾向にあります。さくら事務所の調査(図1:新築マンションの分譲年別ー管理費と修繕積立金の1㎡あたりの月額平均)によると、1㎡あたりの月額平均修繕積立金は、2019年の132.5円から2024年には173.0円へと上昇しています。
つまり管理費や修繕積立金は、月々の住宅ローン返済額と同じように将来変動しうる重要なランニングコストとして捉え、長期的な視点で計画に組み込む必要があるのです。
※編集注釈
メジャー7分譲とは、大手不動産会社7社のこと(住友不動産株式会社、株式会社大京、東急不動産株式会社、東京建物株式会社、野村不動産株式会社、三井不動産レジデンシャル株式会社、三菱地所レジデンス株式会社)
月2万円の負担増になるケースも! 購入から数年後に値上げが起きる理由
なぜ、未来への貯金であるはず修繕積立金が、購入から数年後という比較的早いタイミングで見直しを迫られるのでしょうか。背景には、社会全体に関わる構造的な課題があります。まずは、国内のマンションストックが増え、経年劣化した建物の修繕需要ニーズそのものが高まっていることです。さらに、2022年に始まった一般社団法人マンション管理業協会の「マンション管理適正評価制度」が、計画見直しの動きを後押ししました。
この制度は、管理状態や管理組合の運営状態を数値化し情報公開することで、マンション管理の健全性が市場でわかりやすく評価されることを目指す仕組みとなっています。評価対象のなかに組合の収支会計も含まれるため、将来の資金不足を未然に防ごうという意識が市場全体で高まったのです。
では、こうした市場全体の動きが、私たちの家計にどれほどのインパクトを与えるのかを考えてみましょう。
実際に当初1㎡あたり200円だった積立金が、数年後に440円や500円へと2倍以上に引き上げられた事例もあります。仮に70㎡の住戸で、積立金が200円/㎡から485円/㎡に引き上げられた場合、月々の負担額は1万4000円から3万3950円へと、実に約2万円も増額されることになるのです。
金利上昇で住宅ローンの返済額が増える中で、さらにこれだけの固定費が上乗せされる。これこそが“Wコスト負担”の現実であり、家計のシミュレーションを大きく狂わせる要因となりかねません。
「修繕積立金」の将来負担まで試算することが大切
新築マンションの購入は、ゴールではなく、長期にわたる資産形成のスタートです。そして、その資産価値を将来にわたって左右するのが、長期修繕計画の妥当性に他なりません。住宅ローンの返済計画だけでなく、その先に待つ「修繕積立金」の将来負担までをセットで試算することが、これからの時代の新常識と言えます。
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株式会社さくら事務所・マンション管理コンサルタント 土屋氏
株式会社さくら事務所 マンション管理コンサルタント
不動産売買及び運用コンサルティング、マンション管理組合の運営コンサルティングなどを長年にわたって経験。2003年に株式会社さくら事務所に参画。不動産、建築関連資格も数多く保持し、深い知識と経験を織り込んだコンサルティングで支持される不動産売買とマンション管理のスペシャリスト。メディア出演・講演経験多数。自身が取材協力した「マンションバブル41の落とし穴」(小学館)が発売中。