Q:夫婦それぞれの年金受給開始時期や繰り下げ方針について、家計への影響を踏まえてどう判断すればよいでしょうか?
「現在62歳、1963年1月生まれの男性です。2025年1月時点の『ねんきん定期便』によると、私の65歳からの年金見込額は、老齢厚生年金が年額150万円、老齢基礎年金が年額80万円となっています。現在の年収は約450万円で、65歳までこの水準で働く予定です。その後も70歳まで働き、66歳以降の年収は500万円を想定しています。一方、妻は1968年10月生まれで年収は200万円です。妻の年金については、65歳から老齢基礎年金のみを受給し、老齢厚生年金については70歳まで繰り下げ受給するのがいいのではないかと考えています。
このような前提で、老齢年金の受給開始時期や繰り下げの方針、家計全体への影響を踏まえたアドバイスをいただけますでしょうか。今後の生活設計において非常に重要な判断になるため、専門的な視点でご助言いただけますと幸いです」(ココアパパさん)

老齢年金の受け取り方、どうしたらいい?(画像:PIXTA)
A:年金の受け取りは、働き方や家計に合わせて考えることが大切です。社会保険料や税負担を踏まえると、65歳からの受給は現実的な選択肢の1つ。奥さまも加給年金の終了に合わせて受給を始めることで、家計の支えになります
ココアパパさん、こんにちは。年金の受給開始時期は、人生設計の“分岐点”。ご夫婦の働き方や年金見込額、そして家計の流れを踏まえると、制度の活用次第で、安心感も手取りも大きく変わってきます。まずは、ココアパパさんご夫婦の年金と収入の想定条件を整理してみましょう。 この前提を踏まえて、ご主人・奥さまそれぞれの受給タイミングが、家計にどう影響するかを一緒に整理してみましょう。
■ご本人の場合:65歳からの受給開始が制度的にも金額的にも最適
65歳以降も高収入で働く予定の方でも、老齢厚生年金は65歳から受給するのがちょうどよいタイミングです。
その理由の1つが、加給年金(2025年度は年額41万5900円、特別加算含む)の支給。これは、配偶者が65歳未満で収入要件を満たす場合に加算されるもので、65歳以上で老齢厚生年金を受け取り始めることが条件です。加給年金は、在職老齢年金制度の「支給停止判定」に含まれないため、本人の収入が高くても支給停止の対象にはなりません。ただし、老齢厚生年金が全額支給停止となった場合には、加給年金も支給されませんので注意が必要です。
さらに、2025年度以降は在職老齢年金制度の支給停止基準額が引き上げられ、2025年度は51万円、2026年度は62万円となる予定です。これにより、ご本人の収入予定(月約41万6000円)では影響は限定的と見込まれます。
加えて、65歳以降も厚生年金に加入して働くことで、年金額が毎年見直されて増える「在職定時改定」のメリットもあります。
このように、制度の仕組みをうまく生かすことで、65歳からの受給開始は金額面でも制度面でも、最も合理的な選択と言えるでしょう。
■奥さまの場合:老齢基礎年金は繰り下げ、老齢厚生年金は65歳開始が最適
奥さまの年金受給においては、老齢基礎年金は繰り下げ、老齢厚生年金は65歳から受給開始するのが最も効果的な設計です。
老齢基礎年金は最大84%の増額が可能で、長寿リスクへの備えとして有効です。老齢厚生年金も同様に繰り下げによる増額は可能ですが、奥さまの場合は、ご主人が70歳でリタイアされる予定であることから、65歳時点では世帯収入が減少している可能性があります。老齢厚生年金は、このタイミングで受給開始することで、生活資金の安定につながります。
なお、年金額が増えることで、所得税や社会保険料の負担が増える可能性があり、増額分がそのまま手取りに反映されるとは限りません。制度の仕組みを理解したうえで、生活設計に合った選択が重要です。
加えて、万が一ご主人が亡くなられた場合には、奥さまには遺族厚生年金(非課税)+老齢基礎年金(繰り下げ増額)という組み合わせが可能になります。この設計は、手取りを最大化しつつ、税・保険料負担を抑えるという点で非常に有効です。
■制度の“活用方法”で、納得と安心を両立
ココアパパさんのように、収入見通しと制度の仕組みを照らし合わせることで、「納得感のある選択肢」が見えてきます。
年金は“もらう”だけでなく、“どう活用するか”を設計できる制度です。
例えば、ご主人は65歳から老齢厚生年金を受給し加給年金を活用。奥さまは老齢基礎年金を繰り下げて長寿リスクに備えることで、世帯全体としての手取りと安心感の両立が図れます。制度の特徴を理解し、生活に合った活用方法を選ぶことが、納得と安心につながります。
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