Q. 混乱する株式市場にどう向き合えばいい?
「米国と日本の市場の乱高下をどう見てますか? また、日米の関税交渉が市場に与える影響や、今後に向けてどのように備えるべきかも教えてください」(regent seasonさん/66歳)<金融資産>現金預金:500万円、リスク資産:5000万円
A. 短期的な株価の上下に過剰な心配をせず、長期目線で考えることが大事
田村:株価が上下に動くと、やっぱり気になりますよね。そこで次のグラフを見てください。下側の黒い線は、2007年5月から2009年4月までの、全世界株の動きを円ベースで示したものです。2008年9月のリーマン・ショックの直後、株価は半年でほぼ半分にまで下がりました。当時、「どこで投資を始めればいいのか」と悩んだ方も多かったと思います。
一方、上のオレンジの線は、2023年5月から2025年4月までの株価の動きです。足元では“トランプショック”の影響もあり下がっていますが、この2年間の動きだけで見れば、株価が半分になるようなことはなく、高いところと安いところがあったにすぎません。

全世界株指数の推移
ですから、運用期間をしっかり取れる人であれば、短期的な上下に過剰に反応する必要はありません。ただし、今回のご相談者は66歳ですので、今後新たな収入が見込めない場合は、万が一の下落局面に備えて、5~6年間生活できるくらいのお金を持っておいた方がよいとも思います。
中野:今もお仕事をされているのか、すでに引退されているのかがちょっと分からないので、詳しくは言えませんが……。今の時点ではあえて動かない方がいいでしょう。慌てる必要はありませんし、年齢的にも、まだまだ落ち着いて構えていられる世代です。
リーマン・ブラザーズが破綻した直後、マーケットは急落しましたが、本当の影響が出てきたのは、その4~5カ月後。実体経済が一気に凍りついたんです。金融市場も麻痺状態になり、一時的には銀行も資金調達がほとんどできなくなりました。もし当時、各国の中央銀行や政府が即座に動いていなかったら、もっと大きな危機になっていたかもしれません。
マーケットのどん底は、半年くらい先に来るわけです。ですから今回も、実体経済への影響がこれから少しずつ出てきたときに、本当の意味での市場の調整が起こる可能性はあります。
田村:そうですね。ただ、一つ救いなのは、アメリカの政策金利がこれまで高く引き上げられてきたので、金利を下げる余地がまだ残っているという点です。
もちろん、今後「二番底(さらなる下落)」のリスクはあると思います。でも、政策的な手段があるので、極端に悲観する必要はないと思いますね。特に、長期で投資するつもりであれば。
中野:ただ、一つ注意したいのは、インフレの再加速です。アメリカのインフレが予想以上に再燃すると、利下げの余地が一気になくなってしまうかもしれません。何が起こるか分からないのが、今の相場環境です。ですから、冷静さを保ちながら、柔軟な備えをしておくのが大事ですね。
※本記事の内容は、2025年4月23日に公式YouTubeチャンネル「All About マネー」で配信された内容に基に作成しています。
回答してくれたのは……
中野晴啓(なかの・はるひろ)なかのアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長。
元セゾン投信創業者。長年にわたり「長期・分散・積立」投資を提唱し、日本の個人投資家に向けた資産形成の啓発に尽力。2023年、なかのアセットマネジメントを設立し、個人投資家本位の資産運用をさらに追求している。温かく率直な語り口と、実直な投資哲学に定評がある。著書に『ほったらかし投資はやめなさい』(宝島社)など、資産運用に関する書籍を多数執筆。
田村正之(たむら・まさゆき)日本経済新聞 編集委員。
金融・経済分野を中心に、個人の資産形成やマネーリテラシーに関する記事を多数執筆。分かりやすく実践的なアドバイスに定評があり、多くの読者から信頼を集めている。各種メディアや講演活動などでも活躍し、生活者目線の情報発信を続けている。著書に『間違いだらけの新NISA・イデコ活用術』(日経BP日本経済新聞出版)など、他多数。
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