仕事・給与

74.7%の人が自己実現を目指している?自己実現至上社会の中で「お金が儲かる」仕事とは?

アメリカの心理学者であるマズローは、人間の欲求には5段階があるとし、その最上位が自己実現欲求だとしました。現代の社会では、自分が理想とする仕事に就く、「天職」に出会うことは自己実現の1つと言えそうです。ところが理想の人生を実現していると自認する人は8.4%。多くの方にとって自己実現を達成するのは容易なことではありません。どのように仕事と向き合えばいいのでしょうか。※サムネイル画像出典:PIXTA(ピクスタ)

執筆者:All About 編集部

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マズロー5段階説の最上位が「自己実現」の欲求

これは自分探しに疲れた20代および30代の方に向けたメッセージです。

アメリカの心理学者であるマズローは、人間の欲求には5段階があるとし、その最上位が自己実現欲求だとしました。これは、自身の能力を最大限発揮して、自分らしく生きる欲求とされています。現代の社会では、自分がやりたい仕事に就く、「天職」に出会うことは自己実現の1つと言えそうです。
人間の欲求には5段階があり、その最上位が自己実現欲求(図は筆者作成)

人間の欲求には5段階があり、その最上位が自己実現欲求(図は筆者作成)

戦前の自己犠牲社会から、わが国は自己実現至上社会に

自己実現はいつ頃からわが国に広まったのでしょうか? 戦前はそれとは真逆の自己犠牲社会でした。その究極の形が、多くの若者が戦死することとなった陸海軍の特攻作戦であったと言えます。

戦後に価値転換が起こります。すなわち、憲法第13条において、国民は個人として尊重されます。幸福の追求権は国政の上で最大の尊重が必要とされることになります。自己実現の欲求は憲法上の強力なバックアップを得ました。

それでも教育の分野で、筆者が学校に通っていた時代には、まだ「詰め込み教育」の全盛期で自己実現に向けた指導を受けた記憶はありませんが、1989年の学習指導要領から「個性を生かす教育」という文言が使われ始め、自己実現に向けた取り組みが進むこととなりました。1985年には男女雇用機会均等法が成立し、女性も男性と同様に仕事の中で自己実現を図ることが可能となりました。

文芸評論家・三宅香帆の著作『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』によると、作家の村上龍の著作『13歳のハローワーク』(2003年)により、好きなことを仕事にすることが理想的な生き方とする考え方が広まったとされます。

こうした状況を踏まえ、企業経営の側からも、従業員の自己実現欲求を満たすことが最終的に良好な企業業績につながるものと考えられるようになっています。

理想の人生を実現していると自認する人は8.4%。74.7%の人は諦めていない

では、実際どのくらいの人々が自己実現できていると言えるのでしょうか。どうやら全ての人間が自己実現できるわけではなさそうです。

例えばプロ野球の世界を考えてみると、毎年多くの素質と実績に富んだ若者がドラフトを通じて各球団に入団しますが、一軍で活躍できるのは努力を怠らず、能力と運に恵まれたほんの一握りの選手だけです。

アクサ生命が2024年に発表した『理想とする人生とライフマネジメント®に関する調査』でも、理想の人生を実現していると自認する人は8.4%に過ぎません。一方で、74.7%の人(実現容易、必要なアクションで実現可能、または諦めていない、を選択した者の合計)が実現を目指しています。

現代日本人は全世代にわたって自己実現を達成しなければいけないものと考える傾向がありそうです。
出所:アクサ生命「理想とする人生とライフマネジメントⓇに関する調査」、2024年

出所:アクサ生命「理想とする人生とライフマネジメント®に関する調査」、2024年

自己実現にこだわる人が多ければ多いほど、お金が儲かる仕事がある?

本当に自分に合った「天職」を探し、何度も転職を繰り返す、という人も自己実現を目指す人と言えるのではないでしょうか。

残念ながら、多くの方にとって自己実現を達成するのは容易なことではありません。筆者は、自己実現を目指すことから「降りる」のも選択肢として正しいものであり、後ろめたさを感じることではないと考えます。

ここで考えていただきたいのが、自己実現から「降りる」ことはお金になるということです。例えば、育児、介護、ハウスキーピングといった仕事は、自己実現を目指す人の目標とする仕事ではないかもしれません。ところが、そういう仕事を請け負ってくれる人に対して、自己実現を目指す人は喜んでお金を払うでしょう。人が困っていることを解決するのは商売の有力な手法の1つです。

自己実現にこだわる人が多ければ多いほど、こうした仕事の経済的価値は高まり、お金が儲かるようになります。

歴史家の司馬遷が観察しているように、社会は分業によって機能します。需給によって価格調整が行われるのが資本主義経済のよいところです。

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自己実現をやめ、人の困り事を解決する人は資本主義社会の強者?

アクサ生命の調査をよく見ると、70代になると理想の人生を実現できている人が30代の3倍弱に達しています。これは仕事から離れることで自己実現が可能となることを示唆しており、それを後押しするためにも、老後にお金は持っておいたほうがよさそうです。

俯瞰した視点から眺めると、自己実現を目指す人と自己実現を降りた人とのWin-Winの関係によって真の自己実現至上社会に到達する、という美しい絵柄になるでしょう。加えて、そのような状況下では子育て環境の改善によって、出生率の回復も期待できるのではないでしょうか。

自己実現を断念して、人が困っていることを解決する仕事に就く人は、決して自分の夢に敗れたわけではありません。社会にとって経済的価値のある役割を担い、資本主義社会をたくましく生きる「強かもの(したたかもの)」であると筆者は考えるものです。

教えてくれたのは……
陣場 隆(じんば たかし)さん


京都大学法学部卒業、ペンシルベニア大学ウォートン校MBA、三井信託銀行入社、国際金融部、国際企画部、融資企画部付、年金企画部、年金資金運用研究センター出向、三井アセット信託銀行公的年金運用部次長、証券営業部次長などを経て2006年末に同社退社。2007年より年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に勤務。調査室副室長、運用部長、調査数理室長を経て2020年定年退職。GPIF勤務の13年間で、運用機関構成の決定や基本ポートフォリオの策定を統括した。GPIFを定年退職後「今を生きる若い人たちに向けて年長者の知恵を伝えたい」という気持ちが強くなってきたため、執筆活動を開始
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