場所は神奈川県箱根町宮ノ下。既存の宿は町家の歴史や建具を受け継ぎ、古都の街並みに溶け込む趣ある宿に再生されましたが、箱根の宿は土地の歴史も環境も全く異なるエリア。どんな宿が完成したのか? 期待を胸に試泊してきました。
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「Nazuna 箱根 宮ノ下」は箱根登山鉄道宮ノ下駅から徒歩15分。国道1号宮ノ下交差点から約400m、国道138号から坂を登った高台に佇みます。企業の保養所、温泉旅館を経て、5月15日に開業しました。 飛び石を配したアプローチの周囲には箱根の早川から切り出された銘石と玉砂利が配され、京都の龍安寺垣が植栽を囲い、京都の寺院の石庭のような造り。かなたには箱根連山が映え、豊かな自然を肌で感じられます。 アプローチから続いてエントランスにも玉砂利の中央に飛び石が埋め込まれた廊下が続き、まるで京都の路地に迷い込んだかのようで気分が高揚します。 フロント内の壁を飾るのは、箱根の主要道(国道1・138号)をモチーフにしたアート。箱根山は三重の複式火山であり、土地へのリスペクトを込めて火の要素を取り入れたいと、金属の表面にバーナー加工を施したアートを製作、展示しているのだそう。 まずはウェルカムドリンクとスイーツをいただきながらチェックイン。食事処でスタッフ自ら、京都「矢野園」の煎茶・幸せ緑茶を炒り、お手製のほうじ茶を淹れてくれます。なんてぜいたくなんでしょう! 香ばしい香りに旅の疲れが抜けていきます。福岡「廣八堂」のわらび餅とともにいただきました。 17時まで食事処でフリードリンク&フードのサービスも。ソフトドリンクのほか、小田原みかんわいん、京都「佐々木酒造」の日本酒、スパークリングワインなどのアルコールも用意され、つい手が伸びます。小田原産の蒲鉾ピンチョス、温泉卵チップス、八ツ橋、京都のナッツと、フードも箱根と京都のいいものを。 こちらのコーナーでは13~17時に寄木細工体験も開催。寄木のピースを自由に組み合わせコースターなどを作ることができます(有料)。箱根旅の思い出作りが滞在中にできるので時間を有効に使えます。客室は7タイプ・9室。全室に趣の異なる露天風呂付き
宿泊したラグジュアリーツイン「松原」はひとり泊可能。ソファセットが配されたリビングルームとダブルベッドが2つ置かれた和室、広々とした洗面室とシャワーブースからなるゆとりの広さ。 ベッドの壁際にはアンティークの欄間と竹製の格子が設えてあり、雅な気分に浸れます。 そして極め付きは露天風呂。全室に天然温泉の露天風呂が付いています。箱根の早川から切り出された石組みの湯船には絶えず源泉が注がれています。石灯籠や金閣寺垣が古都の風情を醸し出し、目の前を覆う木々の緑に癒されます。 露天風呂にはブランコが付く遊び心も。足湯を楽しみながらお酒をいただくのもいいでしょう。木賀温泉からの引湯はアルカリ性単純温泉。柔らかな肌当たりで浴後は肌がツルツルに。湯船の横にはソファもあり湯上りに休むことも。モミジの木々が秋には真っ赤に色づき、冬には落葉樹の奥に山陵が浮かび、四季折々に異なる風景が目を楽しませてくれます。 冷蔵庫内はフリードリンク。地ビールや地酒、小田原みかんサイダーなど、箱根や小田原のご当地ドリンクを存分に楽しんで。こちらのタイプのほか、4名まで宿泊可能なデラックスツイン「三条」、ひとり泊も可能なキング「四条」も見学させていただきました。 「三条」は檜造りのワイドな露天風呂の魅力もさることながら、京都の路地を思わせる廊下の設えもすてき。床に飛び石を配し、天井から華やかな提灯が下がり、客室にいながらに旅気分が味わえます。 和室には早川で採取した石を転がして描いたという掛け軸が掛かっています。 一方、キング「四条」はやや高い位置に檜造りの露天風呂を配し、緑の息吹が間近に感じられます。
囲炉裏カウンターでいただく朝食で箱根と京都の美味を味わう
2食付きプランなら夕食に相州牛と箱根山麓豚を使用した出汁を用いたしゃぶしゃぶが提供されますが、今晩は外で済ませ翌朝食は囲炉裏での朝食をいただくことに。カウンター奥の囲炉裏でスタッフが焼き立てを提供します。まずは湯葉、小田原「山安」の鯖のみそ煮、「鈴廣」の海のスフレ、小松菜のお浸し、麩饅頭がテーブルに並び、つや姫のご飯としじみのみそ汁が供されます。 炭火焼のメインは肉か魚を選択。今回は相州牛のモモ肉に。朝からガッツリお肉もたまにはいいですね。表面を香ばしく焼き上げ、中はレア。一口サイズに切ってくれて食べやすいです。 食後には京都「利休園」の抹茶アイスと小田原「スズアコーヒー」のコーヒーで締めくくり。食事も箱根、小田原、京都の厳選食材がバランスよくチョイスされ、既存の箱根の宿にない個性の光る内容でした。
チェックアウトの11時まで部屋にこもって、心ゆくまで温泉を楽しみました。「Nazuna 京都 東本願寺」で体感した風雅な建築意匠やスタッフの気配り、京都の食材を使った料理に、箱根の自然や大地の恵み、名湯、箱根・小田原の食材がうまく融合し、居心地よく過ごせました。似ていないようでどこか似ている2つのエリアの親和性を強く感じました。
「Nazuna 箱根 宮ノ下」
・住所:神奈川県足柄下郡箱根町木賀1013-63
・電話番号:0460-83-3915
・アクセス:箱根登山鉄道宮ノ下駅から徒歩15分