コイルドウェーブスプリングで生活を便利にしようという試み
しかし、この特殊な形状がバネとして面白い特性を持ったものになるわけです。通常のバネは、押しても引いても、元の形に戻ろうとする力が働きますが、コイルドウェーブスプリングは、押す方向には反発力が生まれますが、引っ張ると簡単に伸びてしまうという特性があるのです。ただ、押す方向に関しては、従来のバネと同じ力を約半分のサイズで実現することができます。また、丸い棒を平らに延ばし、火入れして加工するので、剛性が高いことも特徴。スペースがないところで活躍する強じんなバネなので、新幹線のブレーキや車のミッションなどに使われています。
この、剛性の高さと、弱い力で引っ張れるという部分に目を付けて開発されたのが、この「スマートキーリング」。本来はバネなのですが、それを単にリングとして使うという発想の転換が素晴らしいのです。実際、よく思いついたなと感心します。
「このバネで別事業を始めようという話が持ち上がったのは10年ほど前でした。最初はバネの応用製品として、ヨーロッパ製の折り畳み自転車のサスペンションを交換部品として作ったんです。自転車に元々付いていたサスペンションが樹脂製で劣化しやすかったので、剛性の高いコイルドウェーブスプリングで作ったわけです。これがSNSなどで拡散されてヒットしたのが始まりでした」と斉藤さん。
その後、ポストカードなどを挟んで立てておけるカードホルダー(販売終了)や、車のダッシュボードに付けて駐車券などを挟んでおくグッズなどを作った斉藤さん。前者は美術館のミュージアムショップやホテルなどで扱ってもらい、後者は、今もイエローハットのオリジナル商品として販売されているそうです。
ただこれらは、先行商品として通常のバネで作られたカードスタンドや名刺立てもあるように、あくまでもバネの構造をそのまま使った製品です。
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