
三菱鉛筆「ZENTO」シリーズ。上段左から、「uniball ZENTO シグニチャーモデル」3300円(税込)、シルバー、メタリックブラック、「uniball ZENTO フローモデル」1100円(税込)、フローライト、アガット、ジェード、ヘマタイト。下段左から、「uniball ZENTO スタンダードモデル」275円(税込)、ラベンダー、クラウド、アドビ、シー、ミスト、コースタル、アイボリー、カナリア、「uniball ZENTO ベーシックモデル」275円(税込)、黒、赤、青。ボール径は、各0.5mmと0.38mmの替芯を用意
ユーザーの中には、今までに水性ボールペンは使ったことがない人もいるかもしれません。個人的には、「uni-ball AIR」などは、三菱鉛筆の水性ボールペンの大傑作だと思っているのですが(今も現役商品です)。
水性ボールペンといえば、40年ほど前、まだ油性インクの書き味が重く書きにくかった時代に、とても滑らかに書けることでブームになったこともあり、また、欧米市場ではボールペンといえば今も水性インクが主流だったりするのですが、日本ではゲルインクや低粘度油性インクの普及もあって、ボールペンのインクとしてはあまり一般的なものではなくなっていました。
現在、ブームにもなっている万年筆のインクは水性インクなので、決してなじみがないインクというわけではないはずなのですが、ボールペンのインクとしてはこの「ZENTO」がヒットしたことで、久しぶりに脚光を浴びたという感じがします。
「もともと、私たちは常にいろいろなインクを開発し続けていて、水性インクもずっと開発を進めていました。ただ、普段の私たちは新しいインクができたり、新しい機構が完成したりしたときに、それを紹介し皆さんに使っていただきたいと思って新製品を作ることが多いんです。ただ今回はそうではなく、お客さまが日常生活の中でどのようなことに喜びや価値を感じているのかという“客観的な視点”から新製品を作っていく、ある意味、チャレンジングな方向で生まれたものなんです」と、「ZENTO」の開発を担当した、三菱鉛筆株式会社商品第一グループの板津祐太さん。
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書くことに向き合う瞬間はデザートのようなすてきな時間
製品開発に当たって、ユーザーへインタビューを行う中で、仕事を終えて寝る前や子どもを寝かしつけた後、その日を振り返って手帳に書き込むのがとてもいい時間の過ごし方になっているという意見が多かったことが、今回の製品のきっかけになったそうです。「書くことに向き合う瞬間は、とてもすてきなデザートのような時間なのかなと思ったんです。そこで、そのような時間を少しでも心地いい時間にすることはできないかと考えたときに、新しく開発した水性インクなら、そういった“ご褒美の時間”を作るお手伝いができるスペックを持っていると思い付きました」と板津さん。
滑らかでスラスラ書けるという点だけを取れば、低粘度油性やゲルのインクよりもはるかに優れている水性インクなのに、現在あまり使われなくなっている背景には、にじみやすいとか、裏抜けしやすい(紙の裏にインクが染みやすい)、乾きが遅くて筆記時に手や紙が汚れやすいということがありました。
「水性」という言葉のイメージからも、水に濡れるとにじんで読めなくなるのでは?といった心配もあったようです(実際は、乾いてしまえば、多少濡れても読めなくなることはほとんどないのは、万年筆が宛名書きに使われているのを見ても分かると思います)。
「実際、水性インクに対してネガティブなイメージを持っている人は少なからずいると思いますし、そこが、水性インクがマジョリティーに足り得なかった理由だと考えているのですが、今回新しく開発した『ZENTO』のインクに関しては、にじみや裏抜けといった部分を極力解消するように作っています。加えて、水性インクが元から持っている書き心地の良さやインクフロー(ペン芯からペン先へ送るインクの供給量)がよくインクがたっぷり出る気持ちいい筆記感も、従来以上に向上させています」と板津さん。
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