ぺんてるの「マルチ8」は、2mm芯を8本内蔵した、芯ホルダー型のシャープペンシルです。最初に発売されたのは1982年、当時は「プリズメイト」という商品名でした。この「プリズメイト」は、海外では今も販売されています。
当初、子どもや学生向けの色鉛筆のバリエーションの一つとして売られていたのですが、編集者やイラストレーターなどが好んで使っていたこともあって、その後、1986年に「マルチ8」として中の芯の構成や軸のデザインを変えて発売。さらに、1988年には、事務用にボールペン芯などを入れた「スーパーマルチ8」も登場。今も続くロングセラー商品です。
アートマルチ8の開発経緯
今回、発表された「アートマルチ8」は、よりアート用途に向けて、芯の構成や軸のデザインなどをリニューアルした製品。「このたび行ったユーザー調査で、この『マルチ8』は、スケッチやイラストなど、アート用途として使っている方が多くいらっしゃると分かりました。当初想定した、編集などの専門用途や事務用途から、アート用途としての利用がユーザーによって見いだされていきました。これはまさにユーザー・イノベーションが生まれている、そんな商品でもあると捉えています」
12月12日に行われた発表会で、この製品の開発を担当したぺんてる株式会社製品戦略本部の小中真哉さんは、「アートマルチ8」の開発経緯をこのように話しました。 もともと、画材分野などの製品も多く、近年では、大人の絵画用に作られた「アートクレヨン」も発売。アート用品としての文房具や、画材の新しい可能性を持った製品開発や活動を「ぺんてるアーツ」と名付けて推進中のメーカーです。その一環として、今回の「マルチ8」の新製品へという流れなのでしょう。
一般的なシャープペンシルとは、少し違う芯ホルダーの使い方
ただ、「アートマルチ8」をはじめとする、「マルチ8」シリーズは、芯ホルダーという、一般的なシャープペンシルとは少し違った使い方を必要とする筆記具です。ロングセラー商品で、文具好きやお絵描き好きの人たちにはよく知られた製品とはいえ、初めて使う人には、少し注意が必要な製品でもあります。そのため発表会でも、試し書きなどの前にまず、その使い方の説明がありました。芯ホルダーは、シャープペンシルとは違い、ペン先を下に向けてノックすると芯がスルスルと落ちてきて、ノックボタンを離したところで芯が止まる構造です。知らずに押し続けると芯が抜け落ちてしまうのです。
なので、ノックと同時に指などをペン先に当てておいて、適度な長さに調整してノックボタンを離すという操作が必要になります。面倒ではありますが、この構造は、2mmなどの太い芯を扱う場合には、とても合理的なもの。海外ではスケッチ用のペンシルなどによく使われている構造ですし、日本でも多く販売されています。 さらに「アートマルチ8」では、8色の芯を切り替えて、好きな色の芯を出すことができます。クリップにスリットが入っていて、このスリットを通して見える芯が、ノックボタンを押すと出てくる仕掛け。なので、赤色を使いたいと思ったら、このスリットに赤が見えるように、クリップ部分を回転させて赤が見えるところで止めるという作業が必要です。
また、芯を戻して他の色に切り替えたいなどの場合は、いったん、ペン先を上にしてノックボタンを押します。そうすると芯が根元まで戻るので、そこでノックボタンを離し、またクリップ部分を回して、出したい色を選ぶということになります。やや面倒ですが、これ1本で、8色から好きな色を選んで絵が描けると思うと楽なものです。
絵を描く人たちに愛されてきた「マルチ8」が、よりクリエイターに寄り添った仕様に
たくさんの「マルチ8」ユーザーの作品が並ぶ中、トークセッションにも参加されていた、みきさんのInstagram「みき/土曜日の日記」(@miki_doyobi)で公開されている日記の原画も展示されていました
筆者の友人のイラストレーター・たかしまてつをさんも早くから、手帳に毎日絵を描くのに「マルチ8」を使っていましたし、旅先などでも気軽に色付きの絵が描ける「マルチ8」は、特にアート用ではなかった頃から、アート利用に盛んに使われていました。
今回、アート仕様の製品にするにあたって、まず、既存の19種類の芯から、お絵描きに向いた8色の芯を選んだそうです。選ばれたのは、赤、青、茶、橙、黄、黄緑、スカイブルー、ピンク。これは偶然だそうですが、現在、海外で販売されている、「プリズメイト」と同じなのだそうです。
どちらかといえば明るい色が中心になっていますが、発表会でも、「アートマルチ8」ならではの展開を考えたいと言っていたので、まずはここからということなのでしょう。 また、「アートマルチ8」は、本体+8色の単品タイプのほか、本体+8色+12色の専用替芯+芯削り器がセットになった「アートマルチ8 セット」4180円(税込)も用意されています。こちらは、前述の8色に加えて、黒、ペールオレンジ、緑、紫の4色が付属。好きな8色に入れ替えて使うこともできます。さらに、専用替芯は、他に、HBの鉛筆芯、蛍光ピンク・イエロー、油性ボールペン(黒・赤・青)もあります。
「色鉛筆のユーザーは、例えば16色しかなくても、重ねたりして、より深い表現をする方が多いんです。私も同じように、まず黄色を塗ったあとにオレンジを塗ったり、茶色を塗ったりと、重ねて塗るなどしています」と、トークセッションでハヤテノコウジさんが言っていましたが、実際、8色あれば、かなり幅広い表現ができるのも確かなのです。 「アートマルチ8」は、軸が透明になって、中の芯が見やすくなりました。従来のグレーなどの軸に比べて、用途を限定しない感じになったのも、このペンのユーザーが好きにカスタマイズして使える汎用性の高さによく合っていると感じました。
きちんと面が塗れる色鉛筆が8色、1本の軸に収まっていて、用途に合わせて蛍光マーカーやボールペン、鉛筆も入れられるというのは、あまり類を見ない製品です。今回の「アートマルチ8」の登場で、より広く知られるといいなと、古くからのファンとして思いました。