夫婦関係

「熟年離婚」の厳しい現実…60代パート勤務「離婚時の年金“3号分割”は思ったより少ない」

「熟年離婚」が増え続けています。自分らしい生き方を選択しやすくなったのはいいことですが、リスクについてもあらかじめ考えておく必要があります。夫婦仲コメンテーターの筆者に寄せられた経験者の声から、代表的な2つのリスクを紹介しましょう。

三松 真由美

執筆者:三松 真由美

夫婦関係ガイド

「あれ? 思ったより少ない……」熟年離婚後、お金について悩む声は多い

「あれ? 思ったより少ない……」熟年離婚後、お金について悩む声は多い

20年も一緒にいるなら、その先も愛より”情け”で添い遂げればいいじゃないかと思う人もいるでしょう。とはいえ、冷めきった男女がひとつ屋根の下で相手の存在を窮屈に感じ、舌打ちしながら暮らすことがどれだけ精神的によくないか……。筆者が運営する夫婦仲相談所でお悩みを聴いているとよく理解できます。
<目次>

過去最高! 増え続ける熟年離婚

2022年に厚生労働省が発表した「令和4年度 離婚に関する統計の概況」で、婚姻期間別に離婚した夫妻の割合を見てみると、統計が発表されている1950年以降一貫して、同居期間が「5年未満」の割合が、すべての婚姻期間の中で最も多くなっています。

人間の脳内では3年たつと恋愛ホルモンが分泌されなくなるといわれており、恋愛から醒めた後の2年間を乗り越えることができるかどうかが、結婚を継続できるかどうかの一つの境目となります。確かに、いつまでも相手を好きすぎて、ずっとドキドキしていると脳は疲れてきますから当然の現象です。

一方で、同居期間が「20年以上」の熟年夫婦の離婚数が全体に占める割合は、1950年当時は最も少なく約3.5%でしたが、その後はずっと上昇傾向にあります。1989年には13.6%となり、初めて同居期間が「15年~20年」の夫婦を追い越します。その後も着実に増え続け、2022年には約23.5%と過去最高となりました。つまり離婚した夫婦のうち、4組に1組が熟年離婚ということになります。

熟年離婚を選択する3つの理由

熟年離婚が増え続ける主な理由は、以下の3つによるところが大きいと考えています。

①離婚に対するイメージの変化
まず、「離婚」に対するネガティブイメージが日本社会の中で少しずつ減ってきたこと。離婚した人を「バツイチ」と呼び、どちらかというと「おまえもか」的な明るいイメージで反応するなど社会全体の離婚経験者への理解が広がってきています。

②女性の経済力が向上
二つ目は「女性の経済力が上昇してきた」こと。妻側の自立割合の上昇とでも呼びましょうか。
専業主婦にとって離婚の最も大きなハードルが離婚後の収入です。近年は仕事を持ち一定の収入がある、またフルタイムの仕事を継続してきたことで自分自身が厚生年金に加入しており、老後の年金額がある程度確保できる女性が増えてきています。

実際に2000年ごろを境に、「専業主婦家庭」と「共働き家庭」の割合は逆転し、以後、共働き家庭が7割近くを占めるまでになっています。働く女性は確実に増えているのです。

また厚生年金の「3号分割」制度により、2008年5月1日以降に離婚し、一定の条件を満たす場合は、第3号被保険者期間中の相手方の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を合意なく1/2ずつに分割することもできます。これもまた、収入基盤の脆弱な女性が、離婚に踏み切る後押しになっていると考えられます。筆者にも、分割制度に後押しされた妻たちの離婚報告が続々届いたのを覚えています。

③平均寿命が延びた
三つ目は「平均寿命が延びた」こと。

1955年時点で男性63.6歳、女性67.8歳だった平均寿命は、2023年には男性81.1歳、女性87.1歳と大幅に延びています。高齢期が長く続くようになれば両親や配偶者の介護に関わる期間も長くなります。愛情がある相手ならまだしも、すでに愛情を持てなくなった人を介護するのは避けたい。また、65歳以降の第二の人生(年金生活)の期間も長くなることから、健康なうちに自分の好きなように生きたい、という考え方をする人が増えたとも考えられます。

熟年離婚にはリスクがある

自分らしく、パートナーに依存しない生き方を選ぶチャンスが増えたことはよいことですが、熟年離婚にはリスクもある、という点は考えておくべきでしょう。

■健康・体力面のリスク
離婚して一人暮らしになった場合、重い病気やけがに見舞われたら自立した生活が成り立たなくなるリスクがあります。夫婦でいればパートナーの介助や看護を受けることもできますが、一人身では、いざという時に助けを求められる誰かを、あらかじめ準備しておくことが必要です。

介護のためだけに無理やり一緒にいるのは打算的と考える人もいますが、「孤独死が怖い」という言葉はこれまで多くの人から聞いてきました。物価高騰、平行線をたどる賃金、人口減、格差拡大など不安が多い環境下で、将来子どもたちが同居して世話してくれるという甘い思考は捨てたほうがよいでしょう。

例えば、みさこさん(仮名・60代)の場合は、一人暮らしの女性仲間数人で互いの家の合鍵と、万が一の連絡先を交換し合っているそうです。数日間連絡が取れないなど異変を察知したときには、合鍵を使って仲間の家に踏み込んで安否を確認するというルールを決めているのだそうです。

離婚後の孤独死回避策も考えねばならない案件です。

■経済的なリスク
仕事をしている女性が増えたといっても、フルタイムではなくパートなど短時間雇用の人も少なくないでしょう。自分の年金額が老後生活を支えるのに十分でない可能性もあります。また、配偶者の扶養から外れることを嫌って、働く時間をセーブしていた方もいらっしゃるかもしれません。

ただ、離婚時の「3号分割」も計算してみると「思っていたより少なかった」という声は多数。

くみこさん(仮名・60代)の場合は、子育ての傍らスーパーでパートタイム勤務をしていましたが、配偶者の扶養範囲内で働いていたため自分自身の厚生年金がありません。離婚による厚生年金の3号分割で増えたのは月額3万円程度で、「期待していた額は程遠かった」とのこと。このままでは生活資金が足りないため仕事を探していますが、60代で職歴パートのみの方の職探しは苦労が多いようです。

熟年離婚は他人事ではない

熟年離婚を考える際には、メリットだけでなくデメリットも考え、長い自分の老後をどう過ごすのか、多角的に検証しておくことが大切です。「うちは離婚なんてしない」と思っている人ほど、パートナーから決別宣言をされたときのショックが大きいものです。

最後にひとつ、破壊力抜群の熟年離婚事例を紹介しましょう。夫が数日泊まりがけの留守中に、自宅リビングの床の上に離婚届を投げ捨て、まるで夜逃げのように姿を消した妻がいました。当時、妻は68歳、夫は71歳。夫にとって、恐ろしい老後の始まりとなったのは言うまでもありません。

<参考>
・「令和4年度 離婚に関する統計の概況」(厚生労働省)
・「離婚時の厚生年金の分割(3号分割制度)」(日本年金機構)
・「令和5年簡易生命表の概況」(厚生労働省)
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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