「WOW!」を生んだ試作インキ「ヌル3」
アメリカの社員が「ヌル3」を試しているときの写真。何度か行ったモニター調査の中で、本当に「WOW!」という言葉が実際に発せられたという。
「でも、この『ヌル3』にたどりつくまでに、方向性自体も違うサンプルを多数作っています。とにかく、『書いた瞬間に皆さんが驚く』ということを大事にしていたので、ずっと『驚きって何だろう』というところを探していった感じなんです」と、インキの開発に携わった研究開発本部 技術研究所の山崎あかりさん。
「インキも水性、ゲル、油性を全部試作で作って、それぞれに油性っぽいチップや水性用のようなチップなどを全て組み合わせて、その結果、一番驚きがあったのが『ヌル3』という油性インキとゲル用のようなチップの組み合わせでした」と、チップの開発に携わった研究開発本部 開発部の太田直樹さん。
「ヌル3」という名前も、3番目に出来たという意味ではなく、何百という試作を重ねたうえで3番目に最終候補に残ったインキという意味だそうです。そして、外国人が本当に「WOW! WOW!」と言ったことで、この方向は間違っていないという地点にたどりつきました。
低粘度インキでたっぷりインキを出すことの困難
ボールベアリングに左から従来の油性インキ、低粘度油性インキ、FLOATUNEインキ模擬液体を塗って同時に回したところの写真。従来の油性インキが止まって、低粘度油性インキも止まりかけているが、FLOATUNEインキのものは書かれた文字が見えないくらいの勢いで回り続けている
インキをたくさん出すための低粘度インキを実現するには、インキとボール部分をつなぐ成分が必要だということなのでしょう。
そして、当然ですが、クッション成分のような新しい成分を入れると、その分、粘度が上がってしまったりもします。また、低い粘度のインキを大量に流すと、従来のチップではインキの特性が引き出せずに、かえって書き味が悪くなってしまうということになります。
FLOATUNEのインキとチップの構造をイメージ化した図。チップに低粘度のインキをしっかりとまとわせるための工夫が重ねられてたどりついた構造だ
インキの膜が切れやすいと、全然、書き味が悪くなるんですよ。ある程度ドバドバとインキを出した状態で書くほうが良さが出るインキなんです。そういうことも、試作しては試して、また試作してを繰り返していて分かったことなんです」と太田さん。
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