身近になったタトゥー
先日、家族ぐるみで交流のある友人一家と久しぶりに会ったとき。友人の20歳になる大学生の息子の腕に、前回会ったときにはなかった大きなアルファベットのレタリングが施してあった。タトゥーシールかと思いきや、実際にタトゥーを入れたのだと言う。もちろん保護者公認だ。「ちょっと新しいことをしてみたくて」とはにかみながら教えてくれた。筆者が少し前に利用したネイルサロンの店員は10本の指に小さなアルファベットのタトゥーが入っていたし、ピラティスの講師の背中にもちょっとした絵柄のタトゥーがある。近所の花屋のかわいいお嬢さんの腕には犬の絵が彫られている。日々あちこちでタトゥーを見かけるので、小さめのデザインのものならオシャレの感覚で入れているものだと分かる。
だから、ごくごく普通の大学生の体の一部分にタトゥーが入っていても特に驚くことはなくなった。これはあくまで筆者の感覚だ。もちろんそうではない人もいるし、オシャレでタトゥーを入れる若者が増えているからといって、“韓国社会がタトゥーに寛容なのか”というと決してそうではない。
タトゥー施術の法的位置づけ
タトゥーの種類や大きさに関係なく、タトゥー自体に拒否感や恐怖を感じる人は少なくない。特に肌の一部を埋めるようにびっしり紋様が彫られているような、どちらかというと“入れ墨”という表現がふさわしそうなタイプのものはなおさら。もともと韓国のタトゥー文化は、日本のヤクザ文化が流入したことにより始まったと言われており、タトゥーが反社会的な立場の人を想像させるのは、韓国も日本と同様である。タトゥーに関する問題はたびたびニュースにもなるが、多くは違法な施設で施術を受ける人が多いことや、公共の場におけるタトゥーの露出に関する問題を報じるものだ。
韓国では、1992年に医師以外がタトゥーを施すことは違法という判例が出て以降、タトゥー(半永久的な眉毛入れ墨を含む)は医療行為に分類されている。そのため、非医療院での施術は基本的に違法となる。
ただ、すでに韓国社会にもタトゥー文化が浸透しているだけに、違法に行われているタトゥー施術などを公衆衛生業務に含めて合法化すべき、という声も多く上がっており、国会でもタトゥー法案の通過に向けて議論がなされている。過去には、タトゥーや半永久的な化粧を施す労働者の職業分類コードである「42299」という数字を腕に刻み、タトゥー合法化の法案を国会だけでなく、世間にもアピールするパフォーマンスを行う女性議員もいた。
課される制限
このような動きがあることはさておき、タトゥーのある人が、公共の場でその利用を制限されるケースは増えているようである。韓国は大衆浴場を利用する人が多いが、体の広い範囲にタトゥーがある人は入場できないとしている場合がほとんど。中には10cm以上の大きさのタトゥーがあると入場不可、という風に具体的な大きさまで提示している施設もある。大衆的な施設では大きなタトゥーを露出すべきでないという認識が一般的だ。
最近は、大衆浴場だけでなく、フィットネスクラブでも、タトゥーが入った利用者は衣類などで隠すことを求めていたり、ホテルのプール、海水浴場など、肌の露出が考えられるその他多くの施設で、タトゥーがある顧客の利用規定を明確にし、条件を満たさなければ利用不可としている。タトゥーがある人はあえて入ることができない“ノータトゥーゾーン”を設ける施設もある。
そのためタトゥーを入れたことを後悔し、タトゥー除去の施術を受ける若者も増加の傾向にあるという。就職でタトゥーがネックになるのも日本と同じ。タトゥーがマイナスイメージにつながる職種もあり、面接の際にその有無を確認されるケースもある。
タトゥー施術に関する法律的な扱いは国会で議論されることもあるだけに、今後変化することも考えられるが、公共の場での露出に関して世相が大きく変わることは、タトゥー人口が増えつつある韓国でもまだそうそうなさそうである。
※レートは8月19日時点のもの