韓国

「食堂はおしゃべり厳禁」「108回連続で五体投地」韓国のお寺に泊まる“テンプルステイ”で感じたこと(2ページ目)

韓国では、全国にある200以上の寺院で、韓国仏教体験ができる「テンプルステイ」を行っている。観光旅行とは違う、心と体を癒す旅ができると人気だ。今回は世界遺産の「海印寺大蔵経板殿」がある海印寺(ヘインサ)のテンプルステイを紹介する。

松田 カノン

執筆者:松田 カノン

韓国ガイド

2日目

海印寺テンプルステイ

早朝4時の風景も美しい

2日目が始まる。まだ辺りは真っ暗な4時に起床。アラームを設定していたはずなのに、なぜか鳴らなかった。時計を見て焦った。偶然にも起きるべき時間にふと目が覚めたのが幸いだった。
海印寺テンプルステイ

早朝の祈りの時間

毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)が安置されている大寂光殿に移動し、4時40分から朝の礼拝。厳粛な雰囲気の中、大勢の和尚さん、お弟子さんたちに混ざって祈る。筆者にとっては、完全なる非日常の空間。お経が美しい音楽のようで感じ入る。いつまでもこの空間に座っていたい気持ちだったが、テンプルステイのメンバーは20分ほどだけ参加をしていったん宿舎に戻り、しばし休む。
海印寺テンプルステイ

各テーブルの上には묵언(黙言)と書かれた表示がある。静かに黙って食事をする

6時5分から朝の食事。昨日と同じく、食事の時間は15分。食堂内は写真撮影が禁止であったためメニューはお見せできないが、 白米、キムチ、きゅうりの漬物、大豆の煮もの、果物が入ったサラダ。そしてトックグク(小さく切った餅が入った韓国の伝統的なスープ)。トックグクが抜群においしかった。

昨年、初めてのテンプルステイに出かける前までは、かなり食事のことを心配していた。シンプルな味付けの、シンプルなおかず、当然肉類はないし、何か物足りなさを感じるんじゃないだろうか。お腹がすごく空くんじゃないだろうか、と。

ところがこの心配は杞憂(きゆう)に終わった。お寺の食べ物はとてもおいしい。大好きな肉類がなくても全く平気なぐらいに。上手に、丁寧に調理されているからというのもあるだろうし、今ここでいただけるものを食べておかなくてはいけない、という状況もまたプラスに作用しているのかもしれない(夜中に小腹が空いても、コンビニなどないのだから!)。

おかずを1つひとつかみしめて食べる。しかもおしゃべりをしないから、食べることだけに集中している。集中することで、しっかりと目の前の食材の味をかみしめることになる。今日もこんなにおいしい食事ができてなんとありがたいこと! そんな気持ちにさせられる。
海印寺テンプルステイ

大蔵経板殿の中には8万1340枚の経版が収められている

さて、いよいよ「八万大蔵経板」が収められた大蔵経板殿の見学の時が来た。海印寺大蔵経板殿は、韓国の国宝第52号であり、ユネスコ世界文化遺産にも登録されている。

「八万大蔵経板」とは、8万枚以上の版木に経典が刷られているもので、現存する版木の大蔵経の中では最も古い。しかも高麗時代に完成した当時の状態のまま大蔵経板殿の中に保管されているのだ。

大蔵経板殿は、扉、窓などの位置や大きさを工夫することで殿内が常に適正温度に保たれており、それでいて風通しもいいという。近代的な保管システムではない、限りなく自然の知恵を生かした大蔵経板殿を目の当たりにし、先人の知恵に驚かされた。

一歩中に入っただけで、歴史の重さをずんっと感じる。膨大な量の版木が整然と並ぶ様子に圧倒された。きちんとラベルが貼られており、経典の順番に並んでいる。そこに刻まれた文字が見えるが、1つひとつの繊細さは目を見張るものがある。700年以上前に行われた緻密、かつ膨大な量の作業を想像すると気が遠くなりそうだ。

多くの見学者が嘆声を漏らしていた。見学は立ち止まってみることはできず、ゆっくりと歩きながらごく短い時間だけだったが、充実のひとときであった。

現在、毎週土曜日と日曜日、1日2回ずつ完全予約制で見学ができるほか、今回筆者が参加したテンプルステイの海印寺大蔵経板殿見学が含まれているプログラムに参加することで実物を見ることができる。
海印寺テンプルステイ

印刷した紙はお土産として持ち帰り可

最後は「八万大蔵経」が刻まれた経版に墨をつけて紙に写す体験だ。ローラーで墨をしっかりとつけ、薄い紙を載せ、上から均等にこする。紙をゆっくりと剥がすと、文字が印刷されている。

学生のときに学んだ版画を思い出しながら、まんべんなく圧力をかけたつもりだったが、ある文字は濃く、ある文字は薄く、とても印経本にはできないレベルで仕上がった。均等な濃さで文字を写し取るのは意外と難しく、そこにもきっと技術が必要だったのだろう。
海印寺テンプルステイ

鍵を閉めて退室。また来るぞ、と心に誓って

2日間の日程も終わりのとき。最後は部屋の片付けをして、布団からカバーを外し、指定の場所に返却する。ごみは自分でごみ捨て場に捨てに行く。

自分が2日間過ごした宿所を去るのはなんだか寂しい気がするから不思議だ。たった2日なのに……。規則正しい過ごし方が良かったのか、仏教の世界に身を置くことで自分の中の何かが変化したのか、あるいはおいしかった精進料理に未練があるのか……。

今回筆者が体験したテンプルステイのプログラムは1泊2日で成人10万ウォン(※約1万700円)、1人部屋の使用料は13万ウォン(※約1万3900円)だった。金額は寺院やプログラムにより異なる。

予約は各寺院のホームページから、あるいはテンプルステイのホームページから可能だ。人気がある寺院の予約は早く埋まってしまうため、常にチェックしておくことをおすすめする。
 
「自分のことを見つめ直したい」、そう思ったときが出発のときかもしれない。
 
※レートは2024年8月7日時点のもの

<参考>
テンプルステイ(https://www.templestay.com/
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※海外を訪れる際には最新情報の入手に努め、「外務省 海外安全ホームページ」を確認するなど、安全確保に十分注意を払ってください。

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