今回は、この方針にスポットを当てたいと思います。「この方針で具体的に何が変わるのか?」「生活にどんな影響があるのか? 今後、どうなっていくのか?」などの疑問にQ&A形式でご説明したいと思います。
日銀が決めた「国債買い入れ額の減額」、私たちの生活にどんな影響があるのでしょうか
Q:そもそも「金融政策決定会合」って何ですか?
A:日銀が開催する日本の金融政策の方針を議論・決定する会議のことです金融政策決定会合(日銀会合)とは、日本の中央銀行である日本銀行が年に8回開催する日本の金融政策の方針を議論・決定する会議です。米国では米連邦公開市場委員会(FOMC)、欧州では欧州中央銀行(ECB)理事会が、日銀会合に該当します。各国のこれらの会合で決定する重要な議案に政策金利があります。各中央銀行は政策金利をコントロールして、経済状況のかじ取りを行っています。
Q:そもそも日銀は国債を購入していたの?
A:2013年から実施しています。国債を買い入れることで、市場に資金が供給し、企業や個人が投資や消費を行いやすくするのが狙いでしたはい。スタートしたのは2013年ですので今から11年前です。デフレと低い経済成長から脱却することを目的に、植田氏の前の日銀総裁である黒田東彦(はるひこ)氏による「異次元の金融緩和」によって、国債の大量買い入れとマイナス金利政策などが実施されました。
日銀が大量の国債を市場から買い入れることで、市場に大量の資金が供給され、企業や個人がその資金を利用して投資や消費を行いやすくなるという構図です。金融市場に資金があふれることで、経済全体を活性化させるのが狙いでした。狙い通り、株式市場では、今年の1~3月に日本株の上昇が見られました。異次元の金融緩和は、とくに株式市場に大きなインパクトを与えたことから「黒田バズーカ」とも言われています。
Q:なんで日銀は減額する方針を決めたの?
A:インフレに転じ、「デフレ脱却のためのカンフル剤」としての役割を終えるタイミングを迎えたためです平たく言いますと、その役割を終えつつある、という表現が適切かと思います。中央銀行である日銀が日本の国債を購入し続けたことで、日銀の国債残高は2023年末時点で581兆円と発行残高に占める保有割合は54%を超えています。欧米の中央銀行より大幅に高い割合となっています。国債を日銀が大量に購入することから、市場で取引される国債の流通量は極端に減少し価格は安定しましたが、同時に金利が低くなったことで、国債を運用している生命保険会社、銀行など金融機関の収益悪化が続きました。
しかし、日本経済がデフレからインフレに変化し、賃金も上昇傾向に転じたため、異次元の金融緩和という「デフレ脱却のためのカンフル剤」はその役割を終えるタイミングを迎えました。マイナス金利は2024年3月に撤廃され、同時期に金利を特定の水準を維持させるために導入した「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)」も撤廃されました。3月に続き、今回、金融政策の正常化に向けて残っていた最後のカンフル剤を終わらせることを日銀が決断したということです。
Q:国債の買い入れ額を減額したらどうなるの?
A:徐々に金利が上昇する見込みです。銀行預金や住宅ローンの金利が影響を受けるでしょう今後、7月30、31日に開催する日銀会合で、今後1~2年程度の具体的な削減計画を決めると日銀は公表していますので、早ければ、8月1日から日銀による国債の買い入れの減額はスタートすると思われます。減額の規模やペースなどスケジュールはまだわかりませんが、現在の月間6兆円の買い入れ額は月間で1兆円ほどは減額される可能性はあります。
また、今後、日銀は政策金利もどこかのタイミングで引き上げると予想されていますので、国債買い入れ額の減額と政策金利引き上げによって、徐々に短期金利、長期金利は上昇すると思われます。銀行の普通預金、定期預金や、住宅ローンが影響を受けるでしょう。
もっとも、いきなり金利が1~2%上がるわけではありません。ゆっくりゆっくり経済情勢を見て日銀はコントロールしてくると思いますので、金利と上手に付き合っていく術を身につける時間は十分あると考えます。