実際に使ってみた印象をフィードバッグして、細部はメーカーにお任せ
また、把手部分も「Nothing」と比べると平たくなっています。これは、「Nothing」を使っていて持ちにくいような気がしたということでの変更なのですが、その後、秋田さんは「元の把手の方が、重い荷物を入れたときはむしろ軽く感じて持ちやすくなるんです。でも、荷物が軽いときは平たい方が持ちやすい」ということに気が付いたのだそうです。このあたりは、実際に使ってみたからこそ気が付く部分です。意外かも知れませんが、実際にハードに使わずに、製品開発をするケースが世の中にはそこそこあるのです。自分で作った製品は自分で使うのが秋田さん流です。 この「Nothing トート縦型」は、例えば、型崩れしてしまう可能性があるにもかかわらず、薄さや軽さを優先した裏貼りをしない構造や、革の柔らかさで押し込めばそれなりに荷物が入ることを踏まえた薄いマチなど、従来のカバンの設計からすると考えられないような構造になっています。それでいて、底鋲もないのにしっかりと自立するなど、設計上の仕掛けがとても多いカバンなのです。
ただ、トライオンの製造責任者に聞いたところ、以前に「Nothing」を作っているので、今回は特に難しいことはなかったという返事でした。これをサラリと言えるトライオンの技術があってこそ、このバッグの美しさと機能性が実現したのだと思います。 着脱式のショルダーベルトをバッグに固定するための金具、ギボシは、バッグの表側にあるビス状の金具で留められているのですが、この金具がまた、目立たないけれどカッコいいのです。ここは秋田さんが指定したわけではありません。
「細かい部分は、大体メーカーさんにお任せするようにしています。その方がうまくいくことが経験上分かっていますから。きちんとコミュニケーションが取れていれば、私が何か言うより、現場の方々のアイデアの方が良い結果になるんですよ。それを見てビックリするのもデザイナーの仕事の楽しい部分なんです」と秋田さんは笑う。
そうして出来た「Nothing トート縦型」は、とても普通の見た目をしているのに、サイズ感や使い勝手も含め、なかなか他にはないバッグに仕上がっています。
荷物が少ない人向きではありますが、ショルダーベルトがあるので、タブレットや小型のノートPCを入れて持ち歩くのも苦になりません。カバン自体が革製としては圧倒的に軽いのです。
そして、スタイリッシュなデザインですから、使う側も無意識にスタイリングを意識します。そういう、使う人も少しだけ背筋が伸びるようなデザインを秋田さんは心がけているのだそうです。