安心して使えるサイズとデザイン的な面白さの両立
「ピンのサイズは、一般的な住宅で壁に使われている石こうボードの厚みを基準に考えました。通常、12.5mmくらいのものが使われていますが、規格で決められている最薄のものが9.5mmなんです。それで、最薄のものが使われていても大丈夫なように約8mmに設定しました。他の部分もそこに合わせて、上から見ても下から見ても同じ長さになるように設計しています。フック部分の幅は、LPレコードやCDケースを置くことも想定しながら、大きさの美しさも加味して考えました。製品がもしあと3mm大きくなったら、それだけであの形の面白さはなくなってくるんですよ」と赤崎さん。このあたりは、実際に作ってみて、使ってみながら、細かく調整したそうです。「あと、フックの使い方を考えたときに、壁を楽しめるものにしたいという最初のアイデアに立ち戻ると、フック1個での使い方だけでなく、例えば2個組み合わせるとどうなるか、3個、4個ならという風に組み合わせでバリエーションが生まれると面白いんじゃないかと思ったんです。それで、棚のように乗せられるといった視点も入れてみました」と赤崎さん。
この複数使って、例えばLPレコードやタブレットなどを壁に設置することができるというのは、コの字型だからこそ実現できたこと。つまり当初から、こういう使い方も想定されていたということなのです。また、コの字の端が折り曲げられていて、引っ掛けたり乗せたりするものが傷つかないようになっているのも、細かいけれど見事なデザインだと思いました。
「安全性もありますが、指や手が当たっても痛くないということも考えました。それに、デザイン的にもこういう形の方がロジカルで面白いんです」と赤崎さんが教えてくれました。
針先のキレイな円錐形は手作業によって実現
驚いたのは、このピンの先端の壁に刺す部分です。ここが尖っているのは壁への刺しやすさからだと思うのですが、この部分は実は手作業で研いでいるのだそうです。「先端を尖らせるための道具を作って、1本1本、手で削っています。画鋲などでは、一般的には、機械で切断したりして作っているんですけど、それだと先にちょっと角が出たりするんです。それだと刺しにくいし美しくないので手で削っています。だから、キレイな円錐形になってるんです。僕らとしては日本での初めてのプロジェクトだということもあって、日本の、メイド・イン・ジャパンのクオリティーを世界に発信できるものにしたいという思いがありました。なので、多少コストが上がったり、作業が大変だったりすることはあるんですが、何としてもこの円錐をキレイにしたかったんです」と赤崎さん。実際、ここが開発で一番大変だった部分なのだそうです。 当初、この「Pli」は、とても面白い製品なのですが、ピンが3本で1100円(税込)というのは、かなり高いのではないかと思っていました。しかし、お話を伺っていると、その価格も当然なのだと理解できました。
また、赤崎さんによると、「ピンが3本だと思うと高いようですが、僕らにしてみれば、これは“ウォールフックが3つ”というつもりなんです。それなら1100円はとても安いんですよ」ということでした。確かに、ウォールフックは1個で1000円以上するものが普通にあります。
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