詐欺被害者のつもりが実は加害者だった?
「購入費用の半分が儲けになる」信じた末路
杉山雅浩弁護士(以下、杉山):携帯電話の副業詐欺の被害に遭ったとのことですが、勧誘されたのはいつ頃でしょうか?被害者:2020年か21年ぐらいですね。
杉山:どういう経緯で勧誘されたんですか?
被害者:Facebookで知り合った大学生がいるんですけど、その大学生から勧誘を受けました。
杉山:どのような流れで副業の勧誘をされたんですか?
被害者:そうですね。「携帯電話を契約すると報酬がもらえる」という話でした。「携帯ショップに行ってただ契約するだけ」という話です。
杉山:携帯電話1台で報酬はいくらという話だったのですか?
被害者:携帯電話の機種代の半分が取り分という話でした。機種代が10万円の場合、5万とかそういう感じでしたね。
杉山:携帯電話を契約するときには、お金がかかるものなんじゃないんですか?
被害者:(現金は)かからなかったですね。
杉山:それはローンとか?
被害者:そうですね。ローンを組みました。
杉山:自分の名義で携帯電話を購入し、そのFacebookで知り合ったという大学生に送るのですか?
被害者:いえ。その人に直接手渡しですね。
杉山:それで、実際お金はもらえたんですか?
被害者:はい。お金はもらえましたね。
杉山:しかし、組んだローンをその人が払ってくれるわけではないので、借金は残るんですよね?
被害者:はい。携帯電話の購入金額の全額が借金として残りました。
杉山:そうすると普通に考えて損するように見えるんですが。これ、「副業」でも何でもないような気がしますね。これでなんで儲かると思ったのですか?
被害者:自分も最初はそう思ったんですけど……。後から(ローン会社から)請求が来て、だまされたなと気づきました。
杉山:つまり、「請求は来ない」と大学生から言われたわけですかね?
被害者:そうです。「請求は3回目まで払ってその後はチャラ。支払わなくても大丈夫です」と言われたので契約したんです。
杉山:普通に考えれば、請求が来なくなるなんていうのは考えにくいじゃないですか。なぜそれで請求が来なくなると信じたんですか?
被害者:うーん。何とも言えないですけど、信じてしまいました。
1人で7台契約、携帯電話会社のザル審査
杉山:なるほど。話をまとめると、詐欺師側から「3回以上はもう請求は来ないので大丈夫です。だから安心して携帯電話を買って私に任せてください」と言われ、信じてしまったわけですね。結局、携帯電話を何台くらい契約したんですか?被害者:全部で6、7台ですかね。
杉山:借金はどれくらいの額になったのですか?
被害者:約80万円でした。
杉山:では、もらったお金は?
被害者:30万円か40万円の間ぐらいですね。
杉山:その詐欺師に「なぜ請求が来たのか」と言いましたか?
被害者:言いました。何回も言いましたね。
杉山:相手はなんと?
被害者:「自分で払う」と言っていました。
杉山:警察には相談しなかったんですか?
被害者:行きました。2回行きましたね。
杉山:なんと言われましたか?
被害者:そもそも、自分で携帯電話を契約したのだから、「あなたも加害者だ」と言われましたね。
杉山:携帯電話を購入するときに、他人に譲渡することを伝えず、携帯電話会社に嘘をついたということですね。しかし何個も携帯電話を買えば当然、携帯電話会社に理由を聞かれますよね?
被害者:理由は「自分が使う」と言いました。
杉山:7個も自分で使うのはなかなか考えにくいですよね。携帯電話会社には指摘されませんでしたか?
被害者:普通に「自分が使う」と言う理由で、全部契約できました。
杉山:1日で7台全部を契約したのでしょうか?
被害者:2日間でしたね。後は、また1カ月後に(契約を)したりしていましたね。
杉山:意外とザルですね。お勤めは会社員なんですか?
被害者:私は会社員で介護員の仕事をやっています。
杉山:介護員の人が携帯電話を大量に持っていても、携帯電話会社は不思議に思わない、と。
被害者:全然思われなかったですね。ただ、審査には時間が結構かかりましたね。1時間くらいかかりました。
詐欺の片棒を担ぐ想定外のリスクとは
杉山:これは法改正が必要ですね。今回、あなたはだまされたのかもしれないけれど、その携帯電話はおそらく犯罪に利用されている可能性が高いでしょう。今後はこのようなことをしないよう、気を付けてほしいと思います。警察が「あなたは加害者です」と言ったのも当然だと思いますよ。しかし携帯電話会社からしてみれば、こんなふうに転売利用するなんて、想定の範囲内なのでしょうね。
これは別にこの件に限った話ではありません。投資詐欺の被害者が消費者金融から借入をするときも、投資案件であることは伝えずに借入をする人がほとんどでしょう。
彼らが詐欺の被害者であることに違いはありませんが、消費者金融の側からしてみれば、消費者金融をだましてお金を借りているわけですから、加害者でもあるんですよね。
携帯電話にしても借金にしても口座にしてもそうなんですけど、こういった「副業」というのは、自分もまた詐欺に加担している可能性が高いということを覚えておいてほしいものです。
さらに言えば、警察が来ることもありえますよ。詐欺師が使用した電話番号を調べたら、あなたの名前が出てくるわけです。詐欺に加担することで、お金を取られるだけじゃなくて、場合によっては自分が犯罪に巻き込まれてしまうというリスクがあるということです。
もちろん被害回復に全力を尽くしますが、今後このようなことがないよう本当に気を付けてください。
(※本記事は、杉山雅浩弁護士が運営するYouTube番組「詐欺撲滅弁護士【杉山雅浩】」の内容を一部編集してお届けしています)
杉山 雅浩(すぎやま・まさひろ)
静岡県生まれ、東京都在住。上智大学法学部法律学科卒業後、弁護士法人V-spirits法律事務所代表弁護士を経て、東京、仙台に支店を持つ弁護士法人ワンピース法律事務所を開業。同社、代表役員弁護士として活躍中。得意分野は、離婚問題、残業代請求、相続問題、交通事故、企業法務、起業家支援など多岐にわたる。セナー事件、ジュビリーエース事件、OZプロジェクト事件等多くの有名投資詐欺事件の首謀者逮捕や被害金の回収に実績あり。詐欺撲滅YouTuberとして、活動中。詐欺に詳しい弁護士として、NHK、千葉テレビ、フジテレビ、日本テレビのスッキリ他、多数のメディアに出演。主な著書に「身近に潜む詐欺 あなたはもう騙されている」(みなみ出版)。