2023年秋の雑貨見本市は「素材感」と「手触り」を重視した製品がトレンド
東京では春と秋に雑貨関係の大きな見本市がいくつも開催されます。2023年秋も、ギフトショー、LIFE×DESIGN、大日本市、EXTRA PREVIEW、NEW ENERGY (ニューエナジー)などが開催されました。しかも、街に人が戻ってきたことを証明するかのように、出展者数も入場者数も多く、どの見本市でも面白い製品がいくつも見つけられました。特に、今回は久しぶりにコロナ禍以前のような規模での開催ができるようになった展示会が増えたこともあり、雑貨のトレンドもコロナ禍以降の生活や趣味を予見するようなものになっていたように思います。それは、例えば、「素材の質感」や「手触り」といった部分にフォーカスした製品に良いモノが多かったことにも表れていると感じました。
機能性や便利性といったことはすでに当たり前になって、その上で感じられる「人の手による仕事」や「従来の技術のアップデート」といったことが生かされた製品が、今後の生活雑貨や趣味・実用のアイテムの主流になっていくと感じさせる展示でした。出展している各メーカーも危機感を持って本気の製品を出してきているような気もしました。
そこで、今回の見本市で見つけた、質感や手触りといった部分に優れた、これからの雑貨の本流になりそうな、それでいて新鮮な製品を、2回に分けて紹介します。今回は日用品、生活雑貨の新機軸を感じさせる製品たちです。新しい技術がすごいです。
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カトラリーにおける伝統と進化の融合に目をみはる
個人的に、「本当に使いやすい、そしてカッコいいカトラリーとは?」が最近の研究課題になっていた筆者が、一つの正解ではないかと感じたのが、山崎金属工業の「YUEN」シリーズです。カトラリーで始まった燕市の金属加工の歴史を、柄のデザインの中で表現するというアイデアだけでも十分面白いのに、さらに、フォークやスプーンの使いやすさを追求している、その過剰なまでの情熱に感動します。フォークは豆腐を刺して持ち上げられるというのです。スプーンの形も、すくいやすいだけでなく口に入れたときのことも考慮した形状と大きさ。とにかく使ってみたいと思いました。
・Nogakel「スプーン&フォーク」 カトラリーでは、Nogakelの木材パルプとセルロースファイバーを配合したバイオマスプラスチック素材で作られた「スプーン&フォーク」も面白いと思いました。
美濃和紙の伝統とバイオマスプラスチックの融合が生んだ、軽くて丈夫で、不思議な質感のカトラリーや食器、マグカップは、安価に買えてラフに使えて、アウトドア用に最適。でも、使い捨てではない「持っていたい」と思わせる魅力があります。スプーンとフォークをまとめてスタッキングできるデザインも楽しい、未来を感じさせる製品でした。
おうち需要やアウトドアで身近になった飲み物をより楽しむためのカップたち
サカエ工業「ウエノスケ シタノスケ」Sサイズ2420円、Lサイズ2750円。透明度が高いのに落としても割れず傷も付きにくい素材を使った、水分補給用カップ。このように、大きさの違う2つのカップの片方がフタのように機能するのが特長
企画・デザインはザリガニワークスとTENTが担当。ガラスのような透明感ながら衝撃に強い樹脂「Tritan(トライタン)」を使ったカップを2つ、上下に被せて使うという新しい提案です。
・COCOO「真空漆 KISSUL」 カップでは、COCOOの「真空漆 KISSUL」に度肝を抜かれました。なんと、真空二層のステンレスカップの全面に漆でコーティングしているのです。つまり、真空二層の保温・保冷力に加え、飲み物の味や風味を損なわず、口当たりも良いという、なんだか理想的なカップになっているわけです。
タイガー魔法瓶で真空断熱ボトルを手掛けていた方と、京都の老舗漆製造店「佐藤喜代松商店」の出会いが実現した全面漆コートの焼き付けは、説明されてもなぜ可能なのかよく分からないのですが、これが6600円で買えるというのは、とても素晴らしいと感じます。
・schop「MAIKO」 焼き物系のカップでは、schop「MAIKO」も魅力的でした。1960年代に海外輸出用に作られた、極薄の白磁の美濃焼をモダンプロダクト化したもので、底に光を当てると、うっすらと女性の顔が浮かび上がります。とにかくカップが薄く、その薄さを利用したギミックは、白磁の美しさもあって、現代的なデザインに見えます。この作りだと、コーヒーなどを飲んだ後にうっすらと底に模様が見えるはずで、それもまた楽しそうです。
・小泉製瓦「螺旋」 伝統素材の新しい生かし方として注目したいのが、小泉製瓦の瓦の素材と製法を用いた生活雑貨の数々。中でも「螺旋」と名付けられた縦長のカップは、その質感といい、表面に施された漆喰細工的な模様といい、他の素材による陶器や磁器にはない、よりプリミティブな味わいのあるものでした。
他にも、水に濡れたところの色が変わるように、素焼き部分を残すことで模様を付けたコースターなど、瓦という素材を知り尽くしたメーカーだからできる製品がそろっていました。
アイデアと地場産業の結びつきが面白い製品を作る
エポックケミカルの「ゴツ盛りインクの蛍光ペン」は、単純なようで、実は高い技術が必要なマーカーペンです。軸の中は全てインクという構造は、通常のマーカーの6倍ものインクが入っています。便利だけどインクの消耗が速いマーカーペンですが、これなら、残量がすぐ分かりますし、たっぷりと使い続けることができるわけです。しかし、この軸の内部にインクがくっつかない構造を開発するのに、長い時間が必要だったそうです。この秋に文具マニアの間で大人気となった製品でもあります。・POT Dye & Designの「パンヤノバック」 POT Dye & Designの「パンヤノバック」は、パンを入れて持ち帰るための袋として開発された製品です。オーガニックコットンを柿渋で染めて、蜜蝋のコーティングで仕上げた袋は、カレーパンやガーリックトーストを入れても、その油分がしみ出ることがなく、バッグに入れたときでも、他のものやバッグの内側を汚す心配がありません。もちろん、何度でも洗って使えます。
福岡県香春町の名産である柿渋の余剰分を有効活用した製品でもあります。柿渋で染められた袋は、色も風合いも良い感じで、普通に小物などを入れる袋としても使用可能。東京で働いていたデザイナーの方が地元に戻って始めただけあって、サイズや形状などにも気を遣ったデザインも見事です。
・小山はとむぎ工房「ベッピンコーラ」 せっかく、カップなどをたくさん紹介したので、最後に、面白く、しかもおいしかった飲み物を2点、紹介しておきます。
ひとつは、小山はとむぎ工房の「ベッピンコーラ」。はとむぎの生産量が多いという栃木県のメーカーによる、はとむぎを中心に14種類のスパイスと3種の柑橘から作られたクラフトコーラですが、これがおいしかったのです。麦茶的な感じは全くなく、しっかりとおいしいコーラの味がします。しかもなんとなく身体に良さそうな気がするお得感も。
・しょうがのむし「発酵ジンジャーエール」 もうひとつは、『モヤモヤさまぁ~ず2』(テレビ東京)にも出演したというちょんまげ社長率いるしょうがのむしの「発酵ジンジャーエール」。しょうがを酵母の力で発酵させて作るというノンアルコールだけれど醸造している飲料です。埼玉のしょうが畑のそばにある工場で作っているという、地場産業の極みのような立地も良いのですが、何より、ほとんど黒ビールのような味わいの「coconut porter longicorn」が衝撃でした。その対極のような甘口の「honey bee」も柔らかい甘さがクセになる味。
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