蛇化:好きだから我慢して当たり前?
「誰かとつきあうときは、お互いに最低限のリスペクトが必要だと思うんです」そう言うのはマサエさん(28歳)だ。彼女は以前、恋人から精神的に我慢を強いられる状況があったという。好きだから、言われて当然だと思っていた時期もあった。
「彼が髪を伸ばせといえば伸ばしていたし、スカートをはいてほしいと言われればはいていた。それは彼の好きな私になりたかったから。その程度ならまだよかったんですが、つきあいが長くなっていくと、彼は私を人前でもバカにするようになったんです。『コイツ、本当にのろまでグズでさ』と言うように。私は彼にふさわしくない女なんだとずいぶん落ち込みました。彼の友人たちとの飲み会では、私は完全にオーダー兼取り分け係。挙句『みんなの飲み物がないのを見たら、さっさと作れよ、気が利かないなあ。どんな育ちをしてるんだか』と言われて」
彼の友人のひとりが「きみはそんなことしなくていいんだよ」と言った。自分の彼女をこんなふうに使うのはおかしい、バカにされてるんだよ、きみも嫌なら嫌と言ったほうがいい、と。そこでマサエさんは目が覚めた。
「彼にとって私は恋人でも何でもない。使い勝手のいい便利なだけの女。恋人ならもっと大事にされるはずですから。考えたら、私はどうしてこんな人とつきあってるんだろうと。ずっと違和感はあったのに、それをきちんと見ようとしなかった。それからすぐ別れを告げると、彼は鼻で笑って『おまえを拾ってくれる男がいればいいけどね』って。でも目を覚まさせてくれた彼の友人に、別れたことを話したら『よかった。あなたならもっといい男がいるよ』と言ってくれたんです。実際、1年後には素敵な人と巡り会えました。彼の言いなりになって、何でも受け入れればいいというわけじゃない」
恋愛も生き方も、ある意味では失敗の連続が当然なのだ。その中でこそ、自分なりの価値観が作られてもいく。自分の基準が見えてくれば、「蛙化」「蛇化」に流されずにすむ。その基準のベースは「違和感を覚えるかどうか」なのかもしれない。