フリクション 3.0と銘打たれた大幅なリニューアル
パイロットの消せるボールペン、「フリクションボール」は、2006年にヨーロッパで発売された後、2007年に日本でも発売されました。その後、2010年には、ノック式の「フリクションボールノック」が文房具の歴史を変えるほどの大ヒットとなり、今や、定番のボールペンのひとつとなっています。パイロット「フリクションボールノックゾーン」。左上から0.5mmタイプのオールタイムブラック、ニュートラルクリア、ミッドナイトネイビー、ブレークタイムベージュ、ファーストライトピンク、0.7mmタイプのオールタイムブラック、ニュートラルクリア、ミッドナイトネイビー、どちらも「550円」(税込。以下同)。左下から、2200円タイプのディープレッド、ダークブラウン、ブラック、3300円タイプのインスピレーションレッド、インスピレーションブルー、インスピレーショングリーンは、各0.5mmのみ。
今回、「フリクション 3.0」として、久しぶりに大きなバージョンアップが行われ、「フリクションボールノックゾーン」という新しいボールペンのシリーズと、新しい替え芯「フリクションボールレフィルVer.2」が発売されました。
とにかく新しくなったインキに注目してほしい
「今回、特に注目してもらいたいのは、新しく開発した『プレミアムフリクションインキ』です」と、製品の開発を担当したマーティング部筆記具企画課の長田康暉さん。「ポイントは大きく2つ。ひとつは、現行のものからブラックは30%、レッドとブルーは15%、インキの濃さがアップしています。そして、レフィルを金属製にしたことで、従来と同じサイズのまま、インクの容量を70%増量しました。これまで、フリクションの欠点といわれていた、色の濃さの問題と、インキの消耗が速いという問題の、両方を改善したことになります」と長田さん。 これは、本当に試してもらいたいのだけど、特にブラックは、書くと明らかに濃くなっているのが分かります。しかも、インキの流出量が増えているせいか、筆圧を強くしなくても、かなりクッキリした線が書けるのです。まだ漆黒とまではいきませんが、十分に「黒い」筆跡になっています。特に、ボール径0.7mmの方は、薄さを感じずに使えました。 「この新しいレフィルは、サイズを従来のものと同じにしているので、現行のフリクションボールノックでも使うことができます。これまでも、少しずつ色を濃くしていたので、最初のフリクションボールからすると、現行品もかなり濃くはなっていたのですが、今回は、ステップアップの幅がかなり大きいので、『濃くなった』フリクションをたくさんの方に試していただきたいと思いました。それで、フリクション 3.0として大々的に打ち出すことにしました」と長田さんも胸を張ります。
新しいフリクションインキのための新しいボールペン
その新しいインキを搭載した新しいフリクションボールのラインアップが、「フリクションボールノックゾーン」です。従来の「消せる」機能に加え、筆記時にペン先のがたつきを軽減する「チップホールドシステム」と、ノック音を抑制する「ノイズカットノック」を搭載。グリップと口金の素材、形状の違いで、550円、2200円、3300円の3タイプを発売しました。 「ペン先のがたつき防止機能も、ノック音軽減機能も、他メーカーの先行製品があるのですが、どちらもオリジナルの機構を新開発しています。『チップホールドシステム』は、芯の先をギュッと締めつけるようなイメージの機構を搭載しました。『ノイズカットノック』は、レフィルの後ろのパーツで音を軽減しているのですが、音を消すというより、ノック音を残しながら、不快感を減らすというイメージで開発しました。ただ、このスプリングの分、軸の長さが従来のフリクションボールノックより少し長くなってしまいましたが」と長田さん。 軸が長くなったことと、レフィルが金属製になったことで、従来のものとはウェイトとバランスが変わって、重心がやや後ろになっています。550円のタイプでは、少しバランスが悪くなったと感じる人もいるかもしれません。ただ、筆者は、手の大きさや指の長さの問題もあるのか、この長くなった軸の書き味やウェイトバランス、さらに見た目など、全体的に気に入っています。
確かに、ウェイトとバランスについては、グリップが木製の2200円タイプや、樹脂グリップの3300円タイプの方が、グリップの重さの分、重心がペン先側に寄るので、バランスが良いと思われる方も多いと思います。
高級ボールペンのイメージもバージョンアップ
「これまで、『フリクションボール ビズ』などでも高級軸のフリクションを発売していたのですが、今回はデザインを大幅に変えました。従来は昔ながらの高級筆記具の流れで、金属軸で重厚に作っていたのですが、今回は、現代風のスッキリしたデザインに樹脂や木のグリップを組み合わせました。この樹脂のグリップのパーツはパイロットでは5000円や1万円の価格帯の製品に使われているものなんです。木のグリップは使い込むと手に馴染んで、経年変化も楽しめます」と、今回の高級ラインのデザインについて、長田さんが説明してくれました。また、従来のフリクションの高級タイプは、消すためのラバーにキャップを被せて、高級感を演出していました。今回は、ラバーの色を黒やグレーにして、形も角のあるタイプに変えることで、露出していても高級感を損なわないようにしたそうです。 「ラバーが見えていないと、フリクションだと気付かれないこともあるんです。文具店で高い筆記具としてガラスケースの中に収められていたりすると、フリクションだと思われなくて、見逃されたりすることもありました。ラバーにキャップがあると、サッと消すことができないということもあって、今回は、ラバーを目立たないようにして、露出させるデザインにしました」と長田さん。
筆者は、この木のグリップタイプのデザインがとても気に入っていて、普通のボールペンとして持ちたいと思いました。あまり金属軸のペンが好きではないということもありますが、高級万年筆でも主流は樹脂軸ですし、金属軸=高級筆記具というイメージも、もはやあまり一般的ではない上に、金属軸の重さは、普段使いにはあまり向かないと思うのです。 また、デザインでいえば、550円のタイプの半透明な軸の「ニュートラルクリア」は、金属のレフィルが透けて見える感じが、未来感があってカッコいいのです。パイロットさんとしては、透明軸はあまり売れないのではと考えていたところ、思わぬ人気色になって驚いたのだそうです。