発言の底が「浅い」夫にため息
「うちの夫は本当に悪い人ではありません(笑)。むしろ善人です。ただ、だからこそ困ることが多々あるんですけどね」そういって苦笑するのはミズホさん(40歳)だ。同い年の夫とは結婚7年。5歳と3歳の子もいる。ところがこの夫、「発言の底が浅い」のだという。
「たとえばニュースで、子どもが犠牲になる事件などがあると、『かわいそうだね。うちの子には何もないといいね』と言うんです。わかりますよ、そう言いたくなる気持ちは。だけど同じ親として、見知らぬ人だけどその親御さんがどんなに悲しんでいるかは想像できるわけですよ。それをうちはそうならないといいねって、ずいぶん浅い発言だと思う。それだったら、子どもたちが事件に巻き込まれないようどうしたらいいか話し合おうとするといった姿勢がほしいところですね」
かわいそう、という言葉だけでは何も解決しないし、そもそも痛みを共有する言葉でもない。
「どこか対岸の火事だと思っている」とミズホさんは不愉快な気分になるそうだ。
「夫は苦労知らずで育った“いい人”なんです。本人もそれは自覚している。夫のお父さんは有名企業の役員、お母さんは専業主婦で趣味人、お兄さんも夫も有名私立中学からエスカレーターで大学を卒業、有名企業に勤めています。だからといって義父母も義兄も夫も、それを自慢することはなく、おっとりとした性格。近所の人からも『だんなさん、やさしいわね』と言われます。
確かにやさしいし、私にも子どもたちにも声を荒げたことすらない。でも、それだけに物事を深く考えたり、人の気持ちを深く想像することができない。私は母子家庭で苦労ばかりの人生だったんですが、夫はそういう話を聞いたとき、いたく感動して『がんばってきたんだね』と目を潤ませた。いい人だから、そこまではあるんだけど、私がどうやってがんばってきたかは問わない。とにかく深く知ろうとしたり深く考えたりしないんです」
ただ、そういう夫の性格ゆえに、今の平穏な生活があることはミズホさんもわかっている。だからこそ、夫に苦言を言いづらいのだ。
マンション自治会での発言も「浅い」
家の中だけで「浅い発言」をしているならまだしも、夫は昨年から住んでいるマンションの自治会長になったため、そこでの発言に疑問を投げかけられるようにもなった。「同じマンションのママ友に聞いたら、たとえばごみを分別しないで捨てる人がいるから、もうちょっとそこを強化したらどうかという話が出たそうなんです。そうしたら夫、『管理会社に問い合わせます』と。そうじゃなくて住民の意識を変えなければいけないという話をしているのにと彼女は思ったそうです」
それだけではない。廊下での騒音が発議されたときも、騒音の元が子どもだったため、「子どもならしかたがない。親御さんに注意しましょう」で終わってしまった。
「その家、周りから長い間、騒音のことを言われている。しかも子どもが元凶ではなく、いつも大声で夫婦喧嘩をしている親が問題なんですよ、もともと。犬のしつけもなってないし、周りはみんな迷惑してるけど夫婦とも聞く耳を持たない。家庭の問題にはなかなか介入できないのはわかります。でもどうにかして彼らの心を開かせることはできないだろうかと周りは考えてる。夫はそこまで考えがいかないんです」
人の上に立ったりまとめたりするのはむずかしいのに、いい人なので自治会長を押しつけられてしまったようだとミズホさんは言う。夫も一生懸命だし、問題がなければなんとかこなせるだろうが、問題が起こったときの対処が浅い。
「あなたはすべてにおいて浅い、と言いたいんですが、それも言いにくいですよね。もうちょっとこう考えてみたらどうかなとは私、よく言うんですが、夫は『きみは人を疑いすぎるよ』とか、『そこまで深く考えるような問題じゃないと思うよ』とか、簡単におさめようとするんですよね。人は意外な言動をとるものだし、人の悪意って怖いよと私は言っています。相容れないですね(笑)」
人を疑わない夫なのだ。それがいい方向に表れるかどうかは、そのときどきによるだろう。ただ、考えの浅さは指摘してもおそらく直らない。思考回路を変えるのは大変だ。
「人間ってそれなりに経験を積むと深みが出るというけど、そうでもない人もいるということですよね。こういう夫と私はどうやってつきあっていったらいいか、これから年齢とともに考えていきたいと思っています」
たまにイラっとするくらいならまだしも、ずっとイライラモヤモヤし続けているというから、ミズホさんの精神的安全を図るのも必要ではないだろうか。