3年つきあっていたけれど
「3年つきあって、お互いに結婚の意志はある。でも彼いわく、『仕事が落ち着いたら結婚するから』と。落ち着くってどういう意味か尋ねると、『オレの中での区切り』と。今、むずかしいプロジェクトに取り組んでいるわけでもないし、私たち、そもそも結婚式を挙げるつもりもなかった。婚姻届を提出して、レストランで友だちを呼んでパーティーくらいでいいと思っていた。それにかかる準備なんてたいしたことありませんよね。私は飲食業だから、知り合いのレストランがいつでも貸し切りにするよと言ってくれていたし」彼の発言がまったくわからなかったと言うのは、サリナさん(32歳)だ。結婚したくないのならそう言えばいい。彼女はそう言ったが、2歳年上の彼は「いや、サリナと結婚したい」とまじめな顔で告げた。
「仕事上、よし、これでいいというポジションにまだいないんだ、と彼は言うわけです。そのポジションって、役職のことなのかと聞いたら、そうではない、と。つまりは自分が納得するまでってことですよね。『いつになるかわからないということね。わかった』と言って、私から別れを切り出しました。彼は『それなら結婚するよ』って。それならって何?とまたケンカになって……」
結局、サリナさんは彼と別れた。それが1年前。その後、彼女は仕事に邁進、1年でチームリーダーを任されるようになった。一方の彼は、共通の友人によれば、その後ひどく精神的に落ち込んで仕事にも身が入らず、数カ月間休職したという。
「失ってから、人は大事なものに気づくのよねと共通の友人が言っていました。一部では私が待ってあげなかったのがいけないと言われているけど、納得いく理由があれば待ったと思う。ただ結婚したくないだけにしか聞こえなかった」
女性側からすれば、確かにそうなのだろう。
気持ちの問題……
「仕事が落ち着いたら……僕はわかりますよ、その感覚」サダオさん(35歳)は頷きながらそう言った。彼自身も言ったことがあるという。
「そのときは本当にそういう気持ちだった。結婚するには、もうちょっと仕事でステップアップしてからのほうがいい、と。30歳になっていたけど、自分がこの会社で、所属している部署で、なくてはならない存在ではない、と思っていたんです。少なくとももう少し仕事ができると思われてからでないと、結婚しても周りから見下されると思ってた。公より私を大事にするヤツだと思われたくなかったんです。ほら、野球選手なんかで、まだろくに成績も出てないのに派手に結婚するといろいろ言われるじゃないですか。あんな感じ」
当時つきあっていた同い年の彼女に、「あと2年たったら仕事はどうあれ結婚する。待てないというなら別れるしかないけど」と告げた。
「せめてもの誠意だった。その2年間、必死で仕事をしました。僕は運がよかった。ちょうど引き立ててくれる上司が赴任してきたおかげで、急にやりがいのある仕事が増えた。2年後には課長補佐という肩書きもつき、無事に結婚しました。結婚式のスピーチでも先輩や上司がいいことを言ってくれた」
自分のエゴにつきあってくれた彼女には、心からお礼を言ったという。彼女には「あなたが自分のエゴだとわかっているから、よしとした」と冷静に言われたそうだ。
「彼女は、きみのために仕事をがんばっているんだと言われたら速攻で別れるつもりだった、と。ただ、男女問わず、仕事をしていこうと思ったら、やっぱりプライベートより仕事を優先させる時期はあるんじゃないかとも思います。もちろんみんながそうではないだろうし、そう考えない人もいるのはわかってるけど、少なくとも僕はそうだった」
3年前に結婚、昨年子どもが生まれた。ここはプライベートを優先すべきだと思ったサダオさんは、2カ月の育休を2回にわたって取得した。
「子どもとべったりの2カ月。これはこれで楽しかった。2度目の育休は、妻が仕事復帰したときにとったので、ワンオペのつらさもよくわかりました」
時期によって何を優先させるかが重要なのではないかと彼は言う。ただぼんやりと「仕事が落ち着いたら」と言っているのか、彼には彼の目標があるのか、女性としてはそこを見極めたほうがいいのかもしれない。