食べ物としてだけではない? 知られざるうなぎの健康効果
カルシウムやビタミンDも豊富なうなぎ。実はうなぎの研究から生まれた薬もあるのです
うなぎに含まれる栄養分とその健康効果についての情報はよく見かけますが、今回は、私たちの体を支える「骨」とうなぎの面白い関係についてご紹介したいと思います。
健康な骨を保つために役立つ……カルシウムとビタミンDが豊富なうなぎ
少し専門的な解説をすると、私たちの「骨」は、基質タンパク質であるコラーゲンとオステオカルシンに、骨塩であるヒドロキシアパタイト(水酸化リン酸カルシウム塩)が沈着して形成されています。骨を強く健康に保つために、カルシウムが必要と言われるのはこのためです。ウナギは、カルシウムを豊富に含む食材としても知られ、100gあたり150mgのカルシウムが含まれていると言われています。一人の成人が一日に食事等から摂取して補う必要があるカルシウムの量は600mgとされていますので、うなぎを食べればかなりカバーできると期待されます。店によっては、うなぎの骨だけを揚げたものを提供しているところもあります(私がいつもお世話になっているお店もそうです)ので、お勧めです。
また、ビタミンDは、食材に含まれるカルシウムが消化管から体内へ吸収されるのを助けます。うなぎは、カルシウムに加えてビタミンDも多く含んでいるので、骨を強くしてくれる食材と言えます。
そして、うなぎと骨の関係はこれだけではありません。ほとんどの方がご存じでない豆知識をお話ししましょう。実は、骨粗しょう症の治療に用いられる薬の中に、うなぎの研究から誕生したものがあるのです。
「エルカトニン」とは……うなぎから生まれた骨粗しょう症の治療薬
骨粗しょう症とは、「低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増大する疾患」(WHO)と定義されています。簡単に言うと、骨がもろくなり骨折しやすい病態をさしています。特に女性の方は要注意です。若いときにダイエット目的で、無理な食事制限をしていると、年をとったときに確実に骨粗しょう症になってしまいます。年をとってから骨量を増やそうとしてもできないので、将来ひどい腰痛や骨折、背骨の曲がりなどに苦しまないためには、若いうちに十分に骨を蓄えておくことが大切です。骨粗しょう症になってしまった場合、薬を使った治療が中心になります。すでにたくさんの治療薬が開発されているので、患者さんに合った薬が選択されて用いられます。それらの薬のうちの1つが「エルカトニン」というもので、この薬は、うなぎの研究から見つかったものなのです。
私たちの体の中で働くホルモンの一つに「カルシトニン」があります。カルシトニンは、甲状腺の傍濾胞細胞から分泌され、骨に分布する破骨細胞(古くなった骨の部分を食べて取り除く役割を果たす細胞)に作用してその活動を抑制することで、骨量を維持するように働きます。このカルシトニンと同じ働きをする薬が作れたら、骨粗鬆症の治療に役立つだろうというアイデアで、日本の東洋醸造というメーカーが研究を開始しました。
カルシトニンは、32個のアミノ酸がつながってできたペプチドなので、人工合成するのはたいへんでした。かと言って、人の体内からカルシトニンを採取するのには限界があります。そこで白羽の矢が立ったのが、動物のカルシトニンでした。幸いカルシトニンは、哺乳類だけでなく、魚類、爬虫類、鳥類も有しています。また、研究の結果、サケやうなぎがもつカルシトニンは、活性が高いために薬の原料として適することが分かりました。
さらに、天然のカルシトニンには、ジスルフィド結合と呼ばれる構造が含まれていて、この部分が切断されると活性がなくなってしまうので、この部分を安定なエチレン結合に変換した合成ウナギカルシトニン誘導体が人工的に作り出されました。これが「エルカトニン」です。
勘がいい方はすでにお気づきかもしれませんが、「エルカトニン(elcatonin)」という薬の名前は、うなぎ(英語で"eel")とカルシトニン(英語で"calcitonin")をくっつけて名づけられています。
ちなみに、エルカトニンの研究を行っていた東洋醸造の社員は、材料として使われたうなぎの残りで、好きなだけうなぎの蒲焼きを食べられたという逸話を聞いたことがありますが、真偽は定かではありません。今のうなぎは、絶滅危惧種に位置付けられ、「蒲焼きが食べられなくなる日が来る」とも噂されていますので、時代の流れを感じますね。