初恋にどんな思い出があるかは人それぞれ。思い出したくない人もいれば、今も初恋の人に静かな情熱を持ち続けている人も。ただ思っているだけならいいが、行動に移すと家庭生活に影響を及ぼすこともありそうだ。
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どうしても忘れられない

「高校1年のときに同じクラスだったナナさんが忘れられなくて……」

照れながらそう話してくれたのは、セイジさん(49歳)だ。入学式で一目惚れ、同じクラスだと知って心臓が高鳴った。生まれて初めての深くて濃い感情だったという。

「自分から積極的に話しかけて仲良くなった。だけど『つきあう』という発想がなくて。つきあおうとは言えなかった。週末に映画を観に行ったりしたことはあります。そういう事実の積み重ねが大事だと思っていたけど、彼女は『つきあってほしい』の一言を待っていたのかもしれません」

秋になって、彼女が他のクラスの男子とつきあっていると噂が立った。本当なのかと彼女に聞くと小さくうなずいた。

「どうして、僕はナナの何だったんだと聞いたら、『どうしてつきあおうって言ってくれなかったのよ』って。あ、それを言わないと女性は逃げていくものなんだと初めて知りました。今は笑い話だけど、当時は泣きましたね」

ところが高校2年生になる直前、彼女は引っ越していった。ある日突然、学校へ来なくなり、担任が彼女は引っ越したと言葉少なに告げた。何があったのか、誰もが呆然としたそうだ。

「あとから大人たちが噂していたんですが、両親が離婚したらしい。彼女は母親と一緒に母の実家に行ったとか。僕は西のほうの出身なんですが、彼女は北陸地方に行ったと聞いた記憶があります」

その後、セイジさんは東京の大学へ進学。ときおりナナさんがどうしているか気にはなったが、自分の人生を作っていくのに必死だった。勉強に同好会、アルバイトと忙しかったが楽しい学生生活でもあった。海外をあてもなく放浪したこともある。

それらすべてをひっさげての就活で彼はオープンに自己開示し、希望の企業に入社した。
 

子どもが大きくなって思い出すのは……

All About
29歳で1歳年下の女性と社内結婚。今は大学1年生の娘と、高校2年の息子がいる。

「1年ほど前、妻が、息子に好きな子がいるみたいと言ったんです。そのとき、自分の高校時代を鮮明に思い出して。もちろん、ナナさんのことも。思わず息子にエールを送りたくなりました。息子には『好きな子がいるなら連れてこいよ』と言ったんですが、『そんなんじゃないよ』と言われて(笑)」

そこからセイジさんの気持ちが乱れていった。子どもたちは親に見せない「大人の顔」を持ち始めている。妻は何年も前からパートで仕事を始め、習い事や友だちとのつきあいも充実しているようだ。

「コロナ禍でも僕自身は週4回出社していましたから、家で家族と顔をつきあわせてばかりということもなくて。妻もずっと働いていましたね。むしろ子どもたちのほうが家にいる時間が長くてかわいそうだった」

それでも以前と違って飲み会も残業もなくなったため、家で過ごす時間は増えた。書斎と称した小さな小部屋にこもり、彼はナナさんのその後を追おうと試みたこともある。

「SNSで検索したんですが、彼女のことはわからない。ただ、高校時代の友人たちとは急につながりができました。その中のひとりが、『ナナちゃんに会った』と言い出したんです。どこでと尋ねると、東京駅だという。どうやら彼女、今も北陸に住んでいるようだと。連絡先は知らないというんですよ。誰かナナさんを知っている人はいないのか、せめて北陸のどこに住んでいるのかだけでも知りたい。ずっと友人知人にそういう話をしていたら、約1年ほど前、彼女本人が突然、共通の友人を介してつながってくれたんです」

今すぐ会いたいと心が急いたが、彼女は「ひっそり暮らしています」としか返事をくれない。あれから30数年、彼女がどういう人生を歩んできたのか、今、どうしているのか。彼はどうしても聞きたかった。

「過去を振り返っても何もでてこないと彼女に言われました。でも過去じゃない、今、あなたも僕もこの世に生きているのだからとメッセージを送ったんです。それ以来、たまに彼女からはメッセージが来ます。でも会いたいという僕の気持ちには『今は無理』と。どうして無理なのか、いつならいいのかと、今、すがっているところですね」

どうしてそれほどナナさんに執着するのか、彼自身、自分の気持ちを分析しきれずにいるようだ。

「成就しなかった初恋という側面ももちろんあるけど、50代になろうとしている自分にどこか不安とかやり残したこととかがあって、このままだと後悔するぞランプが頭の中でときどきくるくる点滅するような気がするんです。人生、現状維持でいいわけではない、何か求めるものがほしい。そういう感じかなあ……」

やり残したこと。先への不安。ナナさんに会えばそれが解消できるというわけではない。だがこの先に何か「希望」が見えるのかもしれない。

人生100年時代といわれている中での50歳ではあるが、もちろん失われた若さは大きい。先は細っていくだけだとも感じているのだろう。今ここで、心に残っているものを再稼働させたい。そんな思いの表れなのだろうか。今年こそ、セイジさんはナナさんに会うつもりだという。

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