「私はオイではありません」
ひと昔前は、こんな会話がリビングで飛び交っていました。現在では筆者が運営する夫婦仲相談所に「夫が私のことをオマエと呼ぶのが偉そうで、すっごく嫌です」という相談がくるほど、“上から夫”は敬遠されるようになりました。
自分や相手のことを「どう呼ぶか」問題
こんざい / PIXTA(ピクスタ)
夫婦のパートナーシップが透けて見えることも多いこの問題。時代とともに何が変わったのか、何が変わらないのかを振り返ってみましょう。
夫婦の呼称を考えるとき、考えられるシチュエーションは三つあります。一つ目は「夫婦同士がお互いを呼ぶ」とき。二つ目は「人前で(他人に対して)自分のパートナーを呼ぶ」とき。三つ目は「他人のパートナーを呼ぶ」ときです。それぞれについて、具体的なアンケート調査とともに見てみましょう。
シチュエーション1.「夫婦同士」で相手を呼ぶとき
2021年8月に発表された「夫婦関係調査2021(リクルートブライダル総研調べ)」によれば、女性も男性も4割以上が「名前やニックネーム」で呼ぶと回答しています。年代別に見ると男性は50代以下、女性は40代以下が「名前呼び世代」で、それぞれその上の世代が「役割呼び世代」といえます。「役割呼び=子どもが小さい世代」というイメージもありますが、実際は子どもの年齢とはあまり関係がない点が興味深いところです。
子どもが大学生になっても結婚しても、「パパ、ママ」「父さん、母さん」と呼びあう光景は珍しくありません。テレビドラマでも、いまだに見かけます。
また、2011年の類似の調査と比べると、夫・妻ともに「名前」呼びが増加し、「パパ、ママ」など役割で呼ぶ人が減少していることが見てとれます。特に40代夫の「名前」呼びの増加が20.3ポイントと顕著です。
海外では、Netflixなど海外ドラマで描かれる夫婦の会話を耳を澄まして聞くに「ジョージ、あなたが殺したの」「スーザン、違う。俺を信じてくれ」「おー、ジョージ、アイラブユー」的に、名前で呼ぶ会話が主流ですね。加えて、ダーリン、ハニー、ベイビーなど日本人が苦手とするストレートなラブラブ表現。
シチュエーション2.「他人に対して」自分のパートナーを呼ぶとき
前項はシンプルに夫婦間の話でしたが、このシチュエーションでは、相手に対して自分たち夫婦の関係性やジェンダーへの考え方をどう示したいかが重要になってきます。さらに会話する相手の、夫婦の関係性に対する考え方も配慮すべきポイントです。意識すべきことはぐっと増えますし、呼称の選択肢も増えてきます。
調査結果をみると、トップ3は以下のとおりでした。
・女性:旦那(33.7%)>主人(20.2%)>夫(13.0%)
・男性:嫁(29.8%)>名前(13.5%)>妻(13.1%)
ただし、60代女性は「主人」呼びがトップ、20代男性は「名前」呼びがトップという世代による特徴も見られました。
こちらも2011年の調査と比べてみると、「嫁」は20代・30代で大きく減少し、代わって「妻」や「名前」「ニックネーム」が増えています。逆に40代以降では「嫁」が増加し、「女房」や「家内」といった古典的な言葉が大きく減少しています。
また、「主人」は全世代で減少し、50代・60代でも10ポイント以上減っています。この世代では「旦那・旦那さん」が10ポイント以上増えており、「主人」からよりカジュアルな感じの「旦那」にシフトしたことがうかがえます。
さらに20代~40代を見ると「旦那」も減少し、より平等感を感じる「名前」や「夫」にシフトしている傾向があります。
以上をまとめると、時代の推移とともに主流は、
・女性パートナーの呼び方:家内・女房→嫁→名前・妻
・男性パートナーの呼び方:主人→旦那→名前・夫
と、フラットな関係性を感じさせるものに変わってきていることがわかります。
シチュエーション3.「他人のパートナー」を呼ぶとき
多くの人にとって、呼称を選ぶ際に最も悩ましいのはこのシチュエーションではないでしょうか。シチュエーション1、2は自分のパートナーに対する呼び方ですが、この場合は自分が“会話している相手”のパートナーですから、気を遣わざるを得ません。
「日経xwomanパートナーの呼び方、どうしてる?」(2021年6月実施)によると、女性の呼称は「奥さん」が73.8%で圧倒的です。男性の呼称は「旦那さん」が47%、「ご主人」が24.4%という結果でした。
筆者の周囲に聞いても「この言葉に違和感がない」という声だけでなく「周囲が使っているからその場に合わせて」「他に適切な言葉がないから仕方なく」「仕事上ではこの言葉を使わざるを得ない」など、さまざまの声が聞かれました。
最近ときどき耳にする「妻さん」「夫さん」に関しては、この調査ではそれぞれ1.8%と7.8%で、まだまだ一般的とはいえない呼び方のようです。
各種アンケートからは、時代の背景やライフスタイルの変化に合わせて、よりフラットな夫婦関係を示す方向に呼び方が変わってきていることが伺えます。しかし、各呼称には、漢字の持つ意味や歴史的な背景など、独自のカラーがあります。例えば「嫁」という言葉に「親しみ」や「かわいらしさ」を感じる人もいれば、「下に見られている」「よそ者扱いされている」と感じる人もいるなど、受け取り方は様々です。
平等な関係性を目指しつつ、相手の受け取り方やその場の雰囲気などを踏まえ、柔軟に使い分けていくのが令和流なのかもしれません。
ただし、夫婦円満化、セックスレス改善を専門にアドバイスしている筆者自身の意見は、「二人きりの時、男と女を意識したい時はなるべく名前で呼ぶ」のが最適としています。
寝室まで「かあさん、ママ」を持ち込むなかれ。ハニー、ベイビーは無理だとしても、せめて愛を込めて相手の名前をささやく。シニアになっても仲良しで艶っぽいご夫婦はそれを実践しています。
「おい、婆さん、電気消してくれ」なんて言いませんからね、絶対に。