「自分を卑下するのは傲慢」だと女友だちに感じて
謙虚さも行き過ぎると卑屈になり、それを繰り返していると周りがある種の傲慢さを感じとることもある。人間関係というのはむずかしい。
最初はいい人だと思ったけれど
「近所に越してきたアイコさん一家。子どもの年齢も近いし、すぐに仲良くなったんですが、なんだかこの人、いい人なのかただのかまってちゃんなのかわからなくて……」
警戒心を抱き始めたと語るのは、チエさん(38歳)。8歳の長男と5歳の長女がいるが、アイコさん宅の上の子は長男と同じ学校、下の子は4歳で保育園が一緒だという。
「何もわからないので教えてくださいねという感じで、教えると『ありがとう』と丁寧にお礼を言う。いい人だなと思ったんです。ところがだんだん親しくなってくると、『チエさんは親切だからうれしい。私はどこに行っても嫌われ者だから』『ごめんなさいね、そんなこともわからなくて。私、バカだから』と言うようになったんです。最後の一言はいらないでしょと思って」
アイコさんがどういう人生をたどってきたのかわからないが、それでも「謙虚が行き過ぎると卑屈になる。卑屈な雰囲気は人を遠ざける」とチエさんは感じた。
「だから言ったんですよ。あんまり卑屈にならないでって。友だちなんだからって。でも彼女は、学校の行事などでみんなが集まった場でも『ごめんなさい。私は何もできないグズで』とうつむくんです。だんだん周りも引いてしまうのがわかるだけに、みんな同じ年齢の子を持つ仲間だと思ってと声をかけたら、『本当にダメ女ですよね、私』と言い出す。こういうことばかり言っていると、本当に嫌われちゃうのにと悲しい気持ちになりました」
周りの反応は
どうやらアイコさんは、どこへ行ってもそんな感じだったらしい。次第に彼女のことを悪く言う声がチエさんの耳に入ってきた。
「彼女が相変わらず自分を卑下していたとき、誰かが『そんなことないよ』と言ったらしいんです。そうしたらアイコさん、涙を流していたって。それがもとで『実はただのかまってちゃんなんじゃない?』と噂が広まってしまったんです。そういう噂って広まるのも早いから、だんだん彼女にはいろいろな誘いがいかなくなった」
あるときアイコさんとばったり会い、少し立ち話をすると、やはりアイコさん自身、周りに疎まれているのをわかっていたようで愚痴をこぼしたという。
「『やっぱり嫌われてますよね、私』と彼女が言うので、はっきり言ったほうがいいと思ったんです。『謙虚でいい人だけど、ちょっと謙虚が過ぎるのかもね』って。そうしたら『いえ、私がダメなだけで』と言うから、『ほら、そういうところが周りから見ると、ちょっとめんどくさいなってなっちゃうのよ』と柔らかく言ったんです。自分を否定する言葉を吐くと、ネガティブだなと周りが思っちゃうのよって」
するとアイコさん、ため息をつきながら言ったそう。母親に否定されて育ったので、肯定的な言葉が浮かんでこないのだ、と。
「話を聞いてなるほどと思いました。彼女はずっと母親から『あんたはグズ、バカ』と言われ続け、結婚するときも『あんたが幸せになれるはずがない』という言葉を投げつけられたそうです。実は母親自身が夫にモラハラを受けて、そのストレスをひとりっ子のアイコさんにぶつけていたんですって。それがもとで彼女は人とうまく関係が築けないみたい。自己卑下は習い性になっていて、どういう言葉を使って人と接したらいいかもわからないと」
否定的な言葉を使わないほうがいいと言われても、アイコさんは代わりにどう言えばいいかわからないのだ。ただ、今のままでは子どもにもいい影響がないし、ママ友ともうまくいかなくなるのは目に見えている。
「私もお節介なんですが、本気で考えたほうがいいよと真剣に言いました。役所にもそういう窓口があるから相談に行ってみたらと勧めたりして。根は素直な人なんでしょうね、その後、相談に行き、カウンセリングを受けられるようになったそうです。最近、否定的な言葉が減ってきたなとわかります」
アイコさんの夫は単身赴任が多く、夫婦関係もうまくいってなかったそうだが、それも少し改善の兆しがあるとか。
「根が明るいとか暗いとか、そういう問題じゃないと思うんです。物事を何でも深く考えちゃう人は根が暗いと言われがちですけど、それが嫌われる原因にはならない。以前の彼女みたいに周りに傲慢だと受け取られるほど自己卑下が進むのが問題なんじゃないかと思うんですよね」
チエさんはこの一件で、周りから疎まれてしまう人にはそれなりの深い原因があると知ったという。
「パート先にもいろいろな人がいる。お節介だと思われてもいいから、そういう人たちにも声をかけていきたい。嫌うのは簡単だけど、その人だって苦しんでいるかもしれませんから。そんなふうに思っています」