亀山早苗の恋愛コラム

大人の女性に話題の映画『シンプルな情熱』みたいな恋だった。年下男にのめりこんだ強烈な体験談

『シンプルな情熱』というフランス=ベルギー合作映画が大人の女性たちの間で話題になっている。映画では少々設定を変えているが、どうにもならない恋にはまっていき、自分を孤独の淵に追いやっていく心理は原作同様、丁寧に描いている。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

恋愛ガイド

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大人だから恋に埋没してしまうこともある

©2019L.FP.LesFilmsPelléas–Auvergne-Rhône-AlpesCinéma-Versusproduction

(C)2019L.FP.LesFilmsPelléas–Auvergne-Rhône-AlpesCinéma-Versusproduction, (C)Julien Roche


『シンプルな情熱』というフランス=ベルギー合作映画が大人の女性たちの間で話題になっている。原作はアニー・エルノーの同名小説で、ひとりの女がただひたすら既婚者である恋人を待ち続ける心理をえぐるように描いた作品。映画では設定を小学生の息子をもつシングルマザーで時代を現代に変えているが、どうにもならない恋にはまっていき、自分を孤独の淵に追いやっていく心理は原作同様、丁寧に描いている。

 

快楽のために男に依存する?

パリの大学で文学を教えるエレーヌ(レティシア・ドッシュ)は、ある日、ロシア大使館に勤める年下のアレクサンドル(セルゲイ・ポルーニン)と恋に落ちる。彼はいずれロシアに帰る人であり既婚者だ。一方のエレーヌは離婚して幼い息子と暮らすシングルマザー。だが一度、炎が燃え上がったら男と女は止まらない。

多くを語らない男、そんな男にある種のいらだちを覚えながらも体を交えることをやめられない女。

撮影カメラはふたりの表情、体をこれでもかとアップにしていく。セックスだけがふたりをつなげる証であり、それ以外はクロスしようがないふたりの人生なのに、交わるシーンではスクリーンから体臭が立ちこめてくるような肉感がある。「これは別れられないでしょ」と納得せざるを得ないものがあるのだ。レティシア・ドッシュはその睫毛ですら演技する。震える睫毛が彼女の心理を細かく伝えてくる。

「快楽のために男に依存するなんて」

エレーヌの女友だちはそう諫めるが、「恋をすれば従順になるわ」と彼女は言い返す。それが正当な理屈だとは思っていない表情で。彼女自身もわかっているのだ。こんな状態はおかしいと、自分が自分でなくなる感覚、仕事をしたりスーパーへ行ったりと日常生活は送っているのに、彼を待つこと以外には現実感がともなわない感覚。それを「恋」と言い切っていいかどうかも彼女にとっては定かではないのだろう。

ただ、ひとりの男にはまってしまった女は、「恋」という言葉の語感より、もっと深くねっとりとした「情念」に支配されていく。情熱よりも深く激しい情念は、ただひたすら自分の内へとこもっていくしかない。

こんな恋、意味がないと思うか意味があると思うかは人それぞれだろう。だが「意味のないことを知った意味」も存在するかもしれない。

この映画と自身の体験を重ねて話してくれた女性がいる。

 

ひたすら彼にのめり込んだ日々

「わかるんですよね、この感覚」

そう言うのは、まさにこの映画のような「恋」をしたというミキコさん(41歳)だ。20代で一度、離婚経験のある彼女は、38歳のとき5歳年下の既婚男性と知り合った。

「私はもう結婚する気もないし、仕事と趣味と、たまに恋があれば楽しく生きていける。それでいいと思っていました。ところが彼と出会って生活が変わってしまった」

彼は不意に連絡を寄越す。

「1時間後に行っていい?」

その瞬間、彼女にスイッチが入る。残業をしていても切り上げる、友だちと食事をしていてもあわてて帰る。彼以外のことで予定を入れたくないと思っていたというから、映画のエレーヌと一緒だ。

「次はいつ会えるのかわからない。そういう関係って、一瞬一瞬がすべてなんです。だからなによりも彼が優先になる。友人たちには『そんなに男の言いなりになるのはやめたほうがいい』と言われていましたから、だんだん彼のことは話さなくなりました」

年下の彼は、いつか転勤でいなくなってしまうとわかっていた。彼女のところに来ても泊まっていくこともない。必ず終電で帰っていく彼の背中を、ミキコさんはいつも切ない思いで見送るしかなかった。それでも彼に執着したのは、「彼と抱き合っていることで、自分が女として満たされていると感じたから」だ。もちろん、彼との間で生まれ出る快楽にも耽溺した。

そんな彼と連絡がとれなくなったのは、関係をもって1年半ほどが経過したころ。

「1年過ぎたころから連絡が間遠になってきていたんです。焦ったり落ち込んだりと精神的に不安定になりました。最後に会ったとき、彼が『来週から海外なんだ』とぽつりと言いました。家族と一緒なのと聞いたら、『うん』って。そして言ったんです。『まだ1歳の子がいるからいろいろ大変なんだ』と。私とつきあっている最中に子どもが生まれていたのをまったく知りませんでした」

怒ることすらできなかった。何があっても不思議ではないくらい不思議な関係だったから、納得したふりをしたが、釈然とはしなかった。

「その日、彼は長い間、私をじっと見つめていました。これで終わりなのという言葉が喉から出かかったけど、私は言わなかった。彼も何も言わなかった。そしてそのまま1年がたちました」

あれが「恋」だったのかどうか、彼女は今のところ判断をしないようにしているという。彼から強烈な「何か」を受け取った。自分の「何か」が変わった。それも何であるかはまだわからない。

「だけど彼に会わないほうがよかったかと言われると、答えはノーなんです。出会ってよかった。というか出会うことが運命だったんだと思う。彼との時間が強烈すぎて、その後、他の男性には目がいっていませんが……」

こういう関係は望んで手に入れられるものではないのだろう。そして拒絶しようとしてもしきれるものでもない。まさに「シンプルな情熱」によって導かれてしまった関係なのかもしれない。それをどう分析するか、あるいはしないまま生きていくのか。それは彼女次第なのだろう。


DATA
『シンプルな情熱』 7月2日(金)Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
(C)2019L.FP.LesFilmsPelléas–Auvergne-Rhône-AlpesCinéma-Versusproduction
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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