金銭感覚の不一致も夫婦仲の致命傷になりかねない
「手取り収入(可処分所得)」は自由に使えるお金と捉えている方がいるかもしれません。しかし、手取り収入と同じ額を使ってしまえば貯蓄は増えず、手取り収入以上の額を使えば赤字になるものです。可処分所得の額は人それぞれだとしても、「可処分所得から先に一定額を貯蓄して、残りを生活費として自由に使う」のが貯蓄するためには定石ではないでしょうか。2人以上の世帯のうち勤労者世帯の世帯主の年齢別、1カ月の収支と貯蓄の平均データ(出典:総務省「家計調査年報(家計収支編)2020年」/All About記事『生活費は収入の何割かけてよい?』より)
今回は、「お金の使い方をめぐる考え」にすれ違いが生じている夫婦のお話――。
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男女問わず見栄を張りたい人はいるもの。他人なら知らん顔もできるが、見栄っ張りが夫となるとさまざまな問題も起こってくる。
つまらないところで見栄を張る夫
「うちの夫、どうでもいいところで見栄を張るから困るんです」ため息をつくのはマサコさん(38歳)だ。2歳年上の男性と結婚して9年。7歳の一人娘がいる。夫が見栄を張るのは、夫自身の友だちに対してだったり近所の人にだったり。
「つい先日、友だち家族と一緒に近場にキャンプに行ったんです。その家族もうちも車はもってないからレンタカーをそれぞれ借りていこうということになりました」
友だち一家には小学生の子が2人で、借りてきたのはごく普通の国産車。ところが、夫は高級外車を借りてきた。
「すごいだろって威張るんですが、値段を聞いたら国産車の3倍だって。馬鹿みたいですよね。車なんてちゃんと運転できるものであればいいだけなのに。それだけ出すなら最高級の肉が買える。そう言ったら夫は途中で肉屋さんに寄って、最高級の肉をたっぷり買ってきました。友だち一家の分も。あちらは大喜びでしたけど、私は恥ずかしくなりましたね」
バーベキューで見栄を張って、最高級の肉を買っても、たいして味はわからないとマサコさんは言う。それならレストランで食べたほうがずっといい、と。
「でも夫はふだんはとても質素なんです。私たちにも質素を強制するくらい。なのに人前だと見栄を張る。以前、近所の人数人がうちに来ることがあったんです。町内会の会議みたいなものだったんですが、夫は前日、『近所の人に見られないように高級なバラを買っておいて』と。1本500円もするバラを10本も買わされました。近所の人が来たとき、うわ、きれいと言われて、『妻がバラ好きなので、いつも飾っているんですよ』って。バラなんか買ってもらったことはないのに」
マサコさんは夫の見栄による損失を考えては、「あれだけのお金があれば、こんなものも買えたのに」と変換する癖がついてしまったという。
家族だけが我慢させられる
マサコさんの夫は、サラリーマンの平均年収を少し上回る程度は稼いでいる。だが家のローンもあるし、今後の子どもの学費などを考えると、いくらあっても足りないのが現状だ。だから彼女もパートで働いている。「家計のことなど考えずにそうやって浪費する夫には、ときどき文句を言っています。文句を言えるだけマシかもしれませんが……。あなたが他人に見栄を張るために家族が我慢させられるのはおかしいでしょと言うと、そのときは『わかったよ』と言うんですよ。だけど、いざとなると同じことの繰り返し。価値観が違うというよりは、夫の見栄っ張りと軽さが問題なんですよね」
数カ月前も、夫は高級なカニを仕入れて帰宅した。翌日、部下が2人、食事に来ると言う。そんなことは聞いていなかったマサコさんは、当日になってからバタバタと買い物に出かけた。
「人を招くなら早くから言っておいてくれないと、こちらにだって予定がある。だけど夫はいつも唐突にそういうことをするんです。本人は『サプライズだよ』と平然としているけど、そのために私が忙しくなるだけ。カニはもちろん、私と娘の口には入りませんでした」
しかも部下の2人が、「奥さんとお嬢さんも一緒に」と言ってくれたのに、夫は「大丈夫、2人の分は別にあるから」と言い放った。もちろん、余分にはなかったのだ。
「娘がかわいそうだったので、挨拶だけさせてあとは自分の部屋にこもらせました。娘の好きな冷凍ピザを部屋までもっていきましたが……。今はまだ小さいからわからないかもしれないけど、大きくなってもこういうことが続くと本当にかわいそうです」
夫に悪意はないのだ。だが悪意がないだけに始末に負えないとマサコさんは切り捨てる。確かに悪意がないからといって、人を傷つけていいことにはならない。
「どこかで夫にバシッと言ってやらないといけないんですが、言ってもわからないからどうしたらいいものか、と。自分の実家に帰るときも見栄を張って高価なプレゼントを両親や親戚に持っていくので、みんな夫がものすごい高収入だと思っているんです。すごいねと言われることに味をしめて、ますます見栄を張るという悪循環ですね」
息子がエラいと思い込んでいる親に本当のところを知らせるのはかわいそうだと思ってきたが、今後は本音を打ち明けることも考えているという。
「人を喜ばせるのは悪いことじゃないけど、そのために我が家が火の車になったら意味がない。すでに自転車操業みたいな状態になっていることを夫と、夫に関わる人たちにわかってもらう必要があると考えています」
勇気を出さなければと、マサコさんは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
教えてくれたのは……
亀山 早苗さん
フリーライター。明治大学文学部演劇学専攻卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、講談、浪曲、歌舞伎、オペラなど古典芸能鑑賞。All About 恋愛ガイド。