コロナ禍でメンタル乱高下な人たち
緊急事態宣言が出たり延長されたり。あげく、劇場は開いていて映画館は閉まっているなど、私たちはずっと政府や自治体の混迷した政策に振り回されている。いつになったらワクチンが行き渡るのか、なかなか光が見えない。そんな中で、情緒不安定、メンタル乱高下だと嘆く人たちもいる。
急に気分が落ち込む
独身で在宅ワークになっているハナさん(39歳)。出社するのは月に数回だという。
「コロナ禍以前は会社帰りに友人と食事をしたり、週末は映画を観たりスポーツジムに行ったりしていました。まとまった休みがあれば旅行にも出かけていた。それがすべてできなくなったんですよね。特に今年に入ってからは、なんだか気力も衰えてきてしまって」
40歳までには結婚したいという思いもあった。だから昨年春までは足繁く婚活パーティーに出席し、友だちとの飲み会にも顔を出していた。だが、今はそれもできない。
「人に会えないってつらいですよね。最初はリモート飲みもしていたけど、実際に会って話すのとは違う。昨年秋くらいに久しぶりに友だちに会ったときは涙が出そうになりました」
地方に住む両親がいるが、帰るわけにもいかず、たまに電話で話す程度だ。両親は実家で姉夫婦と住んでいるので、精神面ではそれほど心配していなかったのだが、姉に聞くとやはり地域の老人会などが取りやめとなっているので、両親も沈みがちだという。
「30歳のときに1LDKのマンションを購入したんです。仕事が好きだし、今の会社なら一生勤められると思って。結婚するときはマンションを売ってもいいなと思っていたんですよね。だけど残業代がなくなってローンを払うのがしんどくなってきました。在宅でコンクリートに囲まれた狭い部屋にいると、なんだか急に不安に襲われるようになってきて」
深夜にひとり、わけもわからず涙が出て止まらなくなることがあるという。みんな同じ状況なのにと思うと友人に相談することもできない。こんなときに家族がいればいいのにと感じ、「今まで結婚できなかった自分には決定的に何かが欠けているのではないか」と悩むことも増えた。
「かなり暗いです。でも今は医者にかかるのも怖い。行き場がない感じがしますね」
ハナさんとはリモートで話したのだが、その顔に笑みが浮かぶことはほとんどなかった。
夫や子どもに八つ当たりしてしまう
独身者には、独身ならではの不安や孤独がある。では家族がいれば孤独は覚えないのかというと、そんなことはない。結婚して12年たつナオコさん(43歳)はこう言う。「コロナ禍で家族に振り回されています。子どもの学校は休みになったり時短になったりとコロコロ変わるし、夫はもはやいつ会社に行くのか家にいるのかわからない状態。私自身のパート仕事もシフトチェンジが多かったりして、壁に大きな白板を貼って、それぞれの翌日の予定を夜、書き込んでもらっています。そうしないと把握できない」
さらに同じ敷地内に住むナオコさんの両親も、ストレスがたまるのかときどき具合が悪くなる。今年に入ってからは、目が回るような忙しさだとため息をついた。
「ずっと私ががんばらなければ、みんなダメになってしまうと必死だったんです。だけど今回、東京の緊急事態宣言が延長になると聞いたとき、緊張の糸がプツッと切れた気がしました。その翌日から頭痛やめまいが止まらなくなって数日寝込んでしまって」
寝込んでも夫が何かしてくれるわけでもない。10歳と8歳のふたりの男の子はリビングで遊んで散らかしてばかり。
「夫と子どもたちに、『あんたら、いいかげんにしろよ』と叫んでしまいました。私、ふだんはそんな言葉遣いをしないので、男たち3人、ぎょっとしていましたね。でも私、止めらなくて『私が具合悪いときくらい、あんたがちゃんと子どもの面倒をみなさい、食事くらい作れるようにならないと生き抜けないんだから』と夫に怒鳴り、子どもたちには『おまえら、自分がやれることはやれ!』と叫び……。私はすっきりしましたが、男3人はものすごくびびったそうです。あとで夫が苦笑交じりに言っていました」
12年のストレスが、このコロナ禍で一気に吹き出してきたのかもしれない。「家族のために」とがんばってきた人ほど、今の状態がメンタルに影響を及ぼすのではないだろうか。
「それ以来、怒鳴り散らしたことを反省しつつも、なんだか気が収まらないまま。八つ当たりだとわかっていながら、夫に冷たくしてしまう。とうとう昨夜、夫が『このままだと家族関係が危ないんじゃないか』と言い出して。『どうしたいんだ』と言われたけど、そんなの私だってわかりません。とにかくイライラが止まらない」
我慢を続けていればよかったと思うこともあるというが、こうなったら今までのことを夫と話し合い、再構築するような気持ちで家族と向き合うしかないのかもしれない。