会ったことのない彼に本気で恋している私、ヘンですか?
「バーチャル恋愛」というと言葉が悪いが、会ったこともないのに恋しているという女性の話をときどき聞く。会ったことがなくても好きになることはあり得るのかもしれないが、その恋愛の行き着く先はどこなのか疑問も感じてしまう。
婚活に疲れたとき出会った彼
33歳になったころ、結婚相談所に入ってリアルで婚活を始めたナオコさん(37歳)。2年間、必死にがんばったが、なかなかいい人に巡り会えなかった。
「相談所の人には『理想ばかり追い求めても結婚できませんよ』と言われたりしましたが、どうせ結婚するなら、好きになれる人でないと……という思いは強かったですね」
結婚して家庭を作って、“普通”の人生を送りたいとずっと思っていた。キャリア志向もないし、手に職があるわけでもない。それよりむしろ、家族のために家事をするほうが自分には向いていると彼女は信じていた。
「周りの友人たちは、20代でさっさと結婚していったか、『結婚はどっちでもいいや』という2パターンに分かれていました。私もできれば20代で恋愛して結婚したかったけど、28歳のときにつきあっていた彼に浮気されて……。彼は泣いて謝ってきて、『結婚したいのはナオコなんだ。結婚しよう』って言ったんです。でもつきあっているときに浮気するような男は、きっと結婚してからもするだろうなと思って別れました。あのとき結婚していたら、また違った人生だったんでしょうけどね」
少し悔いを残しているような言い方だ。結婚相談所に入ってみて、恋愛期間の長かった気の知れた彼が懐かしくなったのかもしれない。
「35歳になったころ、ネットのSNSで知り合ったのがタツヤさんです。彼は私より2歳年下。好きな音楽を語るコミュニティサイトで知り合って、ふたりでメッセージのやりとりをするようになりました。音楽はもちろん、好きな映画も似通っていた。でもどこがよかったとかというと、意見は異なる。でもそれで意見交換をするのが楽しかったんです」
彼女は東京在住、彼は北海道だという。遠く離れているため、なかなか会う機会はなかった。
いつか会えると信じて
半年ほどたったころ、彼から「会いたいね」と言ってきた。「ただ、当時、私は失業中だったんです。会社が危うくなってきて、早期退職者を募っていたので応じました。次の仕事が見つけるのに必死だった。そういうことも彼に告げました」
そのとき、彼女は早期退職でもらった金額まで言ってしまったのだという。
「彼はすごく慰めてくれました。毎日連絡をくれて。『仕事が忙しいけど、ナオコのことが心配で』と。ありがたかったです」
とはいえ、電話ですら話したことがなかった。一度、彼女が電話で話したいと言ったのだが、「自分は声がよくないしぶっきらぼうに聞こえるみたいだから、会ったことのない人には悪い印象を与える。だから会えるまではメッセージにしてほしい」と言われたそう。
「それからしばらくたって、やっと私の仕事が決まってすぐに彼の誕生日があったんです。何がほしい?と聞いたら、何もいらない、と。でも私としては支えてくれた彼にお礼もしたい。そうしたら、『安物でいいから腕時計がいい。つい先日、壊れちゃったんだ』と。本当に安物でいいと言うんだけど、言葉の端々から、Apple Watchをほしがっているのがわかった」
価格を調べると5万円前後だ。会ったこともない人にそんな高いものを贈るのはどうかとも思ったが、「彼に好かれたい気持ち」が勝ってしまった。住所を聞き、彼に贈ると、数日後、「どうしてあんな高いものを」とメッセージが来た。
「それが去年の初めくらいでした。お正月休みをずらしてとったので、1月中に1度、北海道に行くと言ったら、彼が『1、2月は繁忙期でむずかしい』と。そうこうしているうちにコロナ禍になって」
会えないままメッセージだけは続いている。
「どんどん彼のことが好きになるんです。でも今は我慢するしかない。友人は『絶対騙されてるよ』というんですが、彼が私を騙すはずがない。クリスマスだってプレゼント交換したんですよ。まあ、私のほうが高いものを送ってしまったけど」
彼女は10万円近くするプラダの財布を送り、彼からはノーブランドのスカーフが送られてきた。正直、シルクですらなかったことで少しへこんだという。
「でもお金じゃないと思う。気持ちですよ。彼はおそらく女性に慣れていないから、何を送ったらいいかわからないんだろうし……」
そう言いながらも一抹の不安を隠せないナオコさん。友人には、とにかく連絡を断ってみろと言われているらしい。
「今さらだけど、あなたがあなたである証拠を見せてほしいと言ったほうがいいよって。でもお金を貸してといわれているわけでもないし、プレゼントは私が勝手にしていることだし……。気持ちとしては愛されていると思っていますよ、私」
最後はムキになって彼を庇うナオコさん。本人もどこかがおかしいと気づいているのだが、見て見ぬフリをしたいのだろう。人は信じたいことを信じるものなのかもしれない。