お金のちょっとしたすれ違いは、ときには人を悩ませ、ときには縁の切れ目にも……。ここでは、男女の人間関係に関する著書も多いフリーライター、亀山早苗さんが、お金にまつわる複雑な人間模様のお話をお届けします――。

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経済DV

子どもの出産祝いなどもすべて夫が「管理する」と取り上げ……


新型コロナウイルスの影響で家という閉じられた空間で過ごすことが増えたことに伴い、懸念されていたのがドメスティックバイオレンス(DV)や虐待の問題だった。実際、内閣府の調査によると、2020年度のDVに関する相談件数が、2019年の件数をすでに上回り、13万件を超したという(4~11月の暫定数。参照:内閣府男女共同参画局「コロナ下の女性への影響について」「配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数等(令和元年度分)」)。

DVというと肉体的な暴力、精神的な言葉の暴力などが思い浮かぶが、たとえば夫が専業主婦の妻に必要な生活費を渡さないのも立派な経済的DVだ。必要額を渡さないことで、妻に「自分に従うしかない」と思わせる無意識の抑圧が働いているのかもしれない。
 

夫は金融のプロだから

結婚して15年、中学生と小学生の子がいるエイコさん(43歳)。金融関係に勤務する夫は5歳年上で、職場の先輩にあたる。

「新卒で金融関係に入社したときの先輩なんです。私は結局、金融には向かず3年で退職、美容関係に転職しました。会社も近かったので退職して1年後にばったり再会、そこからつきあうようになったんです」

夫はどうやら当時、結婚相手を探していたらしい。つきあって半年もたたないうちにプロポーズされた。

「職場ではけっこう厳しい先輩だったし、それほど親しいわけではなかったんですが、つきあってみたらまじめで責任感が強いことはよくわかりました。恋愛感情はあまりなかったけど結婚するにはこういう人がいいのかなと思ってプロポーズを受けたんです」

職場関係の人たちを招いて「ごく普通の結婚式」をした。彼女は自分が仕事に向いていないという思い込みもあり、夫に言われるままに専業主婦の道を選んだ。

「子どもをもって家事や料理をしているほうが私には合う。もともと家の中のことは好きなんです。母が今でいうバリバリのキャリアウーマンだったんですよね、当時としては珍しく。それで寂しい思いもしたので、私は家族のために生きたいとも思っていました」

結婚後、夫に言われたのは「家計はオレに任せてほしい。金融のプロだから」。それをエイコさんは信頼して承諾した。

「最初にもらったのは月に5万円。ふたり分の食費と生活用品にかかるお金です。夫はすでにマンションを購入していたので、ローンや光熱費など毎月の固定費はすべて夫側が管理していました。貯金がどのくらいあるのか、収入がどのくらいなのかは知りません。教えてと言ったらやんわり拒否されました」

給料日になると、夫は彼女に5万円を渡す。彼女はそれを「ありがとうございます」と押し頂く。

「なんとなく違和感がありましたね。飼われているような感じ。そのお金を使って彼の朝晩の食事を作り、家の中を調え、彼の洋服をクリーニングに持っていったりするのは私なのに、私はお礼を言われない。もちろん対価ももらえない。なんだか間違った道を選んでしまったと漠然と不安を感じたのを覚えています」
 

子どもができても同額

結婚して1年半後には子どもが生まれ、その2年後には下の子が生まれた。それでも生活費は相変わらず5万円。さらに子どもの出産祝いなどもすべて夫が「管理する」と取り上げていった。

「おむつ代だってかかるのに夫は一向に生活費を上げてくれない。何度か訴えたんですよ。これでは無理だと。だけど夫は『給料だって上がってない。あとはやりくり次第じゃないのかな』って。家計簿をつけて見せながらどうにもならないことを話しても、むしろ『おむつは布にすればいい』『離乳食は全部手作りにしたら?』『食材の使い方が下手なんだよ』と責めるばかり。言っても無理なんだと思いました。独身時代の貯金を切り崩したり、実家に足繁く行って食材をもらったりしていたんですが、みじめでたまらなかった」

子どもを保育園に預けて働こうと思ったこともあるが、夫からは強力に反対された。彼女自身も子どもを預ける気にはなれなかった。

「夫は私がお金のことを言わない限りは、それほど不機嫌ではないんです。子どもたちが小さいころはよく遊びにつれて行ってくれたし。だけどそういうときもお弁当を作らないといけないし、帰りは外食もせず一目散に帰ってくる。食べて帰ろうと夫が言ったことは一度もありません」

倹約家でもあるのだろうが、エイコさんがいちばん悲しかったのは「塾に行きたい」と言った子どもの気持ちを夫が無視したことだ。上の男の子は私立の中学を受けたがっていた。成績がよかったので5年生になったら塾に行きたいと父親に頼んだことがある。

「すると夫は、塾に行かなければその学校に行けないなら、それはきみの実力が足りないからだ。勉強は自分でするものと突っぱねたんです。息子のがっかりした様子に私は泣くしかなかった。結局、受験もせず近くの公立に通っています。本当は行きたい私立高校もあるみたい。なんとか行かせてやりたいんですけど……」

エイコさんの両親は何かを察しているようで、「戻ってきてもいいよ」と言ってくれることがある。ただ、年金暮らしの両親には頼れない。心配をかけるのも心苦しいから、「大丈夫よ」と笑顔を見せるしかない。それでも両親が手を回しているのだろう、長年、地方に住む親戚からはときどき米や野菜が送られてきて助かっている。

「15回目の結婚記念日だって、もちろん特別なことは何もしませんでしたが、私、その日に賭けたんです。夫に『15年、ありがとうございました。ただ、これほど生活が苦しいともうやっていけないので、やはり私が働くか生活費を上げてもらうしかないと思います。ずっと言い続けてきたけどあなたは私の言葉を受け止めてはくれなかった。子どもたちにも望む教育を受けさせてやりたい。これでダメなら、お義父さんお義母さんに相談してみます』と言ったんです。そう、うち、ずっと敬語なんですよ。もうそれだけで関係性がわかるでしょ」

昨年春のことだ。ちょうどステイホームで夫は週に1度出社する以外は家で仕事をしていた。仕事終わりを狙って、夫の書斎へ出向いて一気にそう言った。

「すると夫は、『だったらきみが出ていけばいいんじゃないか? オレはそれを望まないけれど』って。話し合う余地もないんですかってブチ切れました。夫は少しビックリしたような顔をして『何が不満なのかよくわからない』と。私は15年間、洋服ひとつ買っていません。姉からもらったりバザーで1000円で買ったりしたものばかり。子どもの洋服はときどき夫がどこかから調達してきていたけど」

自分は夫にとって何なのか。子どもを産み育て、家事をするだけの存在なのか。エイコさんは不信感にとらわれながらも、「やはり私がわがままなんだろうかとも思う」とつぶやいた。

それでも今月も給料日には5万円を押し頂く儀礼が続く。それを見て育っている子どもたちの心がどうなっていくのか、それも彼女の不安のタネになっている。

教えてくれたのは……
亀山早苗

 


亀山 早苗さん
フリーライター。明治大学文学部演劇学専攻卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、講談、浪曲、歌舞伎、オペラなど古典芸能鑑賞。All About 恋愛ガイド。
 

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