亀山早苗の恋愛コラム

学歴も稼ぎも、実家の経済力も…“男なのに”妻より格下は不憫なのか

コンビニ大手ファミリーマートの「お母さん食堂」というネーミングを巡って、賛否両論が巻き起こった。ジェンダー問題なのか言葉狩りに近いのか、実際の意図はよくわからない。現実として日常生活では、男女問わず「モヤモヤ」しているようだ。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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男も女もつらいのかもしれない……「らしさ」に縛られてモヤモヤ

お母さん食堂

コンビニ大手ファミリーマートの「お母さん食堂」というネーミングを巡って、賛否両論が巻き起ったのは記憶に新しい。こうなると、「おふくろの味」という言葉も死語になり、「ミルキーはママの味」も否定され、「地震雷火事親父」の言葉も淘汰されていくのだろうか。

ジェンダー問題なのか言葉狩りに近いのか、実際の意図はよくわからない。企業的には「お母さん」はただの象徴とも考えられる。だが、もはやそういった曖昧なことでは許されない時代が来ていることだけは確かなようだ。

現実として日常生活では、男女問わず「モヤモヤ」しているのだから。

 

「手伝うよ」って何?

家事育児は当然、協力し合ってすすめていくもの。そうした認識に乏しい男性は「家庭における夫・父としての立場」が危うくなる。

「うちの夫、悪い人じゃないんですが家庭を一緒にやっていくという意識がイマイチなんですよね。共働きなのに子どもができるまでは家事は8割方私でした」

そう言うのはコハルさん(36歳)。29歳のときに同い年の男性と結婚、今は5歳と3歳の子がいる。

「さすがに子どもができてからは、私ひとりじゃ何もかもはできない。自分ができることは率先してやってくれないと私がつぶれ、家庭が回らなくなるという大変な事態に陥るんだからねと夫に懇々と言って聞かせたんです。夫も理解はしたみたいなんですが、それからは『何すればいいの、指示して』『今、オレはどうすればいいんだ』と指示待ち男に変身。ちょっと考えればわかるでしょうと言いながら、ああ、この人、実は会社でも仕事ができないんじゃないかしらと心配になりました」

仕事ではどうやら期待されているらしくホッとしたというコハルさんだが、ひとり暮らしをしてこなかった男性がいきなり家事育児を担うのはむずかしいものだ。

「家事は教えました。ただ、機転が利かないんですよね。洗濯しながらご飯を作りながら子どものめんどうを見ながらテレビでニュースをキャッチすることくらいできるじゃないですか。夫は洗濯機が止まってもずっとそのままにしてるし、子どもにかまけて鍋を焦がすし。それでもがんばっているので、なんとか一緒にやっている状態です」

だが、まだまだ夫は自分がサポートしていると思っているようで、それがときにコハルさんを怒らせる。

「先日もご飯のときに子どもがぼろぼろこぼしたので、しかたがないなあと片づけていたら夫が『手伝うよ』って。仕事が繁忙期だったこともあって、もともとイラついていたので、その一言に『はあ?』となりました。手伝うんじゃなくて、オレやるよってどうして言えないのって」

確かに。家庭内では夫というのはいつでも自分がアシスタントだと思っているようだ。こういった声は多くの女性から聞こえてきた。

 

夫もつらかったと知った夜

「うち、私の両親と二世帯住宅に住んでいるんです。結婚して13年、両親と夫はずっとうまくやっていると思っていました」

エリコさん(44歳)はそう言った。父は有名企業の役員として70代になった現在も働いている。別の大学ながら、学生時代から友だちだった夫は、中堅企業に就職したが30歳前に会社が倒産、苦労して新たな就職先が見つかったとき、ふたりは結婚した。

「子どもができたころ、実家が二世帯住宅にするというので渡りに船と入り込んだんです。私はひとりっ子ですし、夫も納得していました」

両親は1階、エリコさん一家は2階に住んでいる。2階だけでも広めの4LDK。ゆとりをもって暮らすことができているのは両親のおかげだ。

「でもこの家の土地は、もともと母の両親のもの。父が有名企業で働いていようが、母が資産家の娘であろうが、もはや私たちには関係ない。私はそう思っていました。家があるのはありがたいけど、私自身もたいして給料のいいところで働いているわけではないですしね。だから夫がそんなにプレッシャーを感じているとは思っていなかった」

12歳の娘と10歳の長男がいるエリコさん、つい先日、うっかり長男に「ちゃんと勉強しないといい大学に入れないよ」と声をかけてしまった。

「長女がいい大学に入らないといけないの、というので、女の子はいいの、男の子は入らないといい会社に行けないでしょって。言ってからハッとしたんです。男女差別みたいなことを言ってしまった、と。なにげなく夫の顔を見ると、夫が暗くなっていて。大学のランクでいうと私のほうが上の大学なんですよね。私は気にしてないけど、夫は相当気にしていたみたいです」

その夜、夫とふたりになったところでエリコさんは夫に謝った。大学名も会社名も気にしていない、あなたはあなたでいいのだ、と。

「今さらながらこんなことを言わなければいけないのはつらいなと、ちょっと思っていたんです。すると夫は涙ぐんでいた。『男なのに妻より大学のランクが下、妻と収入がほぼ一緒、妻の金持ちの両親に住まわせてもらってる。オレって男として本当にダメだよな』と言い出して。夫はそんなにつらかったんだと初めて知りました。誰もそんなこと言ってないでしょとたしなめると、『お義父さんだってお義母さんだって、きみの親戚だってみんな実はそう思ってるよ。高校時代、どこの予備校に通っていたのと聞かれたことがある。予備校には行ってなかったと言うと、お義父さんがきみの田舎に予備校はないだろうって笑ったんだ。親戚が男の子なのにあの大学じゃねえって不憫そうに見てた』と。そんなことがあったなんて私は知らなかったからショックでした」

男なんだから。この言葉に傷つき、劣等感を抱える男性も少なくない。エリコさんは夫をやさしく抱きしめたという。

「つらかったら両親と別居してもいいんだよ、あなたにコンプレックスを抱えてほしくない、と言いました。大変なのはいつも女、男はつらくないと思っていたことを反省しましたね。うちは家事も夫がよくやってくれているし、子どものことも夫のほうが把握している。この人を大事にしなければと改めて思いました」

さまざまな抑圧に苦しんでいるのは女性だけではない。夫婦がお互いの苦悩に気づくことが重要なのではないだろうか。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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