交際中から「違和感」があるにはあったのだけれど……
つきあっているときに「あれ?」と思うことがあっても、「結婚」という大きな目標の前には「これはたいしたことじゃない」と自分に言い聞かせてしまうもの。ところが結婚後、その小さな違和感はどんどん肥大していくのだ。経験者のリオさん(40歳)はついにそれに耐えかねて離婚した。
自分の勘違いだと思い込んでいた
「今思えば、つきあっているときから、針の先ほどの違和感はあったんです」リオさんはため息をつく。たいしたことではないと思っていた。たとえば彼には、「~してあげる、してあげた」という言い方が多いこと。彼女が何か新しいことを始めようとすると、「それをするとどうなるの?」と聞かれること。
「彼はいつもニコニコしながらそういうことを言うんです。だから聞いたほうはいやな気持ちになりにくい。実際、人望もあると思います。だけどほんの少し、どこかがうっとうしいというか押しつけがましいというか」
世話好きで親身になってくれる人ではある。彼女の父親が入院したときは、婚約者という立場だったが「内縁関係」と押し切って病状説明などに同席してくれた。
「まあ、それも私と母だけでじゅうぶんだったんですけどね。当時はありがたいと思ったけど、あとから考えると、彼がそこまでしなくてもよかったし、何もかも把握していたい性格だったのかなとも思えてきました」
それでも彼の親切はうれしかった。熱烈プロポーズを受けて、3年間の交際を経て35歳のときに結婚した。
「ふたりとも仕事をしていたから気づいたほうが家事をやることにしていました。彼もよくやってくれたけど、何かするたびに『掃除しておいてあげたよ』『ゴミ捨てておいてあげたよ』って。『ここはふたりの家庭なんだから、~してあげたよというのはおかしい。本来、私がすべきことをあなたがしたような気にさせられる。対等じゃない』と抗議したんです。すると彼はニコニコしながら、『そうやってムキになるリオがかわいい』と頭を撫でたんですよ。バカにするなと言いたかったけど、なぜか言えなかった」
かわいい女じゃないと愛されない?
リオさんの心の中には、「彼を怒らせないほうがいい」「かわいい女でいたほうが愛される」という思いがあった。おそらく多くの女性が、知らず知らずのうちにそういう価値観を刷り込まれているはずだ。「だからそれ以上、言い返せなかったんだと思う。男に逆らうより従っているほうが得をする、楽でもある。そう感じていたんでしょうね」
しかし、「愛され方」は重要だ。幼い女の子のようにかばってもらったり守ってもらったりする必要はない。大人なのだから。
「仕事のことで思わずちらっと愚痴ってしまったとき、彼がことの顛末を詳しく聞いてきたので、ついしゃべってしまったんです。そうしたら『きみはそういうとき、こう言うべきだった』『そのときはこうやって対処すればよかったんだ』と、まるで新入社員に教えるように仕事のイロハみたいなことを言い始めたんです。彼と私は職種が違うし、私にもそれなりに経験がある。私の業界のことは私のほうが知っている。それでカチンときたんですよね」
思わず、リオさんは自分の仕事について熱く語り出してしまった。すると彼はニコニコしながら聞き、最後にこう言ったのだ。
「リオはえらいね」
褒めてほしかったわけではない。彼の子どもに対するような接し方には、愛情よりむしろバカにされているような感覚を覚えたと彼女は言う。
「自分以外の他人に対する最低限のリスペクトみたいなものが、彼にはない。彼はまた違う意図があったのかもしれないけど、私は愚弄されている気がしました」
そのときは必死に抗議をした。議論になっても彼が怒ってもかまわないと思った。ところが彼は最後まで、同じ土俵に上がろうとしなかった。
「彼は2歳年上なだけなのに、『かわいい子どもが必死に抗議しちゃって。それもまたかわいいけどね』という態度を崩さなかった。我慢できませんでしたね」
結婚生活は2年で破綻。最後に彼は、「僕はこんなにリオを愛して受け入れてきたのに。きみの気持ちがわからないよ」と言った。
「わかってもらえなくてけっこう」というのがリオさんの感想だった。こういう男性は一生、リオさんのような女性の気持ちがわからないに違いない。