ハーレーダビッドソンが2019年より販売開始する電動バイクを発表
2018年11月、イタリア・ミラノで開催された世界最大級のモーターサイクルショー「EICMA」(エイクマ)にて、ハーレーダビッドソンが2019年より販売開始すると発表していた市販型電動バイク「LiveWire(ライブワイヤー)」がお披露目されました。独特の鼓動感やトルクを奏でる「空冷Vツインエンジン」をアイデンティティとした、アメリカらしいモーターサイクルメーカーの画期的な取り組みで、今夏に「市販型モデルの電動バイク販売を開始する」という発表から注目を集めていました。電動ハーレーの開発中心地となったのは、ハーレーの本拠地である米ウィスコンシン州ミルウォーキーではなく、カリフォルニア州シリコンバレー。AppleやGoogle、Yahoo!、FacebookなどのIT最大手企業のほか、テスラ(電気自動車メーカー)も軒を連ねるような、最先端技術が集結する地から生み出された……と聞くだけで、ハーレーが新たな未来を見据えているのが伺えるよう。
アメリカンスタイルのクルーザーモデルが並ぶイメージが強いハーレーダビッドソンですが、このLiveWireはスポーツバイクそのもの。これまで鉄製フレームを使用していたハーレーでは珍しくモノショック型の軽量アルミフレームを採用や、ユーザーの好みに合わせて切り替えられるライディングモードを搭載など、モーターサイクルとしての仕組みそのものが最先端となっています。
電動バイクの構造は従来のガソリンエンジンモデルとは異なり、ボディの中心部分がモーターとバッテリーで形成。燃料(ガソリン)を貯めるフューエルタンクも不要となるのです。
電動バイクと聞くと、「無音なの?」と思われるかと思いますが、動力源が専用モーターであることから、従来のガソリンエンジンバイクとは異なる特殊なサウンドで疾走するようです。こちらのムービーをご覧いただければ、そのサウンドを聞くことができます。
気になる充電方法ですが、現在アメリカで用いられている急速充電システム「Combo1(コンボ・ワン)」を採用。現在世界にはこのCombo1のほか、「Combo2」「チャデモ」「メネケス タイプ2」「テスラスーパーチャージャー」といった急速充電規格があり、日本で今普及しつつあるのはチャデモと言われています。電気自動車だと、日産リーフ、三菱アウトランダー、トヨタ プリウスPHVなどに用いられている規格です。
左がチャデモ、右がCombo1のコネクタ。LiveWireの差し込み口はCombo1のそれで、日本で販売されるとなると「Combo1の普及率アップ」か「コネクタの変更」(チャデモ対応型)などが求められそうだ。
差し込み口を見比べると、LiveWireは発表どおりCombo1仕様に。こちらはアメリカやオーストラリアなどで普及している規格ですが、日本国内でも普及している「SAE J1772」にDCプラグを装着すれば使用可能のよう。コネクタや充電タイプの適合以外に問題がなければ、LiveWireの充電はできそうです。
電動バイク市場の今
人力での運転をサポートする「電動アシスト自転車」、電力のみで動く「電気自動車」と、世界のモーターカー事情は目まぐるしく進化しています。バイクの世界も同じく、「電動スクーター」が市場に現れるようになっていますが、日本の公道を走行するためには以下の問題をクリアせねばなりません。1, 免許制度の整備
現在、日本でオートバイに乗るための免許は以下のように区分されています。
- 原付免許(原付一種):排気量50cc以下
- 小型二輪免許/AT限定小型二輪免許(原付二種):排気量125cc以下
- 普通二輪免許/AT限定普通二輪免許:排気量400cc以下
- 大型二輪免許/AT限定大型二輪免許:排気量制限なし ※AT限定大型二輪免許は650ccまで
- 0.60kW:原付1種
- 1.00kW:原付2種
- それ以上:軽二輪
2, 充電拠点の増加
チャデモやCombo1のように充電が可能な拠点増加が挙げられます。また「車両にどの規格が用いられているのか」も大きなポイントになりそうです。バッテリー切れ寸前でようやく充電場所を見つけても、「規格対応外です」となったら……悲しさしか湧いてこないでしょう。
拠点そのものは増えてはいるものの、ガソリンスタンドの数と比べるとまだまだ足りません。今後増えてくる電気自動車に比例して拠点が増えてくることが必要になります。
十数分ほどで給油できるガソリンエンジンの車(バイクだと5分程度)に対し、バッテリーの容量にもよりますが急速充電に30分以上かかるとも言われる電気自動車。電動バイクの場合、「急速」でなくていいにしても、自宅に一台充電機を設置し、翌日に備えて一晩充電させておく……といった対応も必要になるでしょう。
進化真っ最中! 電動バイクの世界
2017年9月に東京・表参道で日本市場への導入発表会が催された台湾の電気スクーター「Gogoro」(ゴゴロ)は、バッテリーを取り替え式にしています。
バッテリーはレンタル制で、一年間で同じ距離を走るガソリンエンジンのスクーターのガソリン代と比べても安いレンタル料を車体販売価格に含んでいます。これにより、どこでバッテリーを取り替えても良いという、画期的なシステムになっているのです。
現在、沖縄・石垣島で観光用レンタルバイクとして試験的に導入されており、ここを皮切りに首都圏でのレンタルバッテリー設置場所が整い次第、市場導入が図られていくようです。このGogoroと戦略的パートナーとして日本展開を進めているのが住友商事で、すでにドイツ・ベルリンやフランス・パリへの参入が決まっていることから、このバッテリー交換スポットを東京で見る日もそう遠くないことでしょう。
ガソリン車の製造が法律で禁止される時代が来る
環境問題への対応を第一義に、イギリスとフランスでは2040年までに「ガソリン車とディーゼル車の販売禁止」とする予定です。欧米の主要都市でも2030年までにガソリン車とディーゼル車の排除を掲げています。オランダに至っては2025年からEVのみしか販売してはならないとしており、インドや中国もその動きに続く模様。日本では東京都が「2040年までにガソリン車の販売ゼロ」を掲げており、トヨタ自動車も同様に2040年を目標にガソリン車の製造中止を宣言しています。
自動車に遠く及ばない台数のバイクではありますが、この波は確実にバイクの世界にもやってきますし、そうした世界の流れを見据えた上での「ハーレーダビッドソンの電動バイク」なのでしょう。
すぐそこまで来ている“未来の乗り物”の世界
現在、ハーレー以外では「zecOO」(ゼクウ)という電動バイクも登場しています。そのデザインはタイヤこそ2つ付いているものの、従来のオートバイから大きくかけ離れた“未来の乗り物”のイメージそのもの。ホンダやヤマハ、スズキ、カワサキといった、聞き慣れたバイクメーカー以外の企業による新規参入もますます増えていくことでしょう。
もしかしたら2040年を過ぎた頃には、日本の首都圏からガソリンスタンドが消え、今目にしているものとはまるで異なるデザイン、異なる挙動、異なる音の乗り物が走るようになるのかもしれませんね。
2019年から販売開始という電動ハーレー LiveWire ですが、日本で導入されるか否かは今のところ未定。すべてはインフラが整い次第になるかと思われます。もしかしたら数年ぐらい待たねばならないかも……?