優しくなったモンスター・ニンジャH2 SE
年間で50台前後試乗していますが、今までで「これやばいな」と思ったバイクは2台。ヤマハのVMAXとカワサキのニンジャH2です。バイクの性能は年々向上していっているわけですが、体感的に一番感動するのはやっぱり加速性能。全てのバイクの試乗は神奈川県川崎市の自宅から東京都江戸川区の事務所までの25km。同じコースを一週間走り続けるわけですが、VMAXとニンジャH2の試乗は常に緊張感が付きまとい圧倒的な加速感は感動と共に恐怖を感じさせるほどでした。
緊張感を感じさせたのは両方の車種の価格もあります。VMAXは237万6000円。ニンジャH2は302万4000円。メーカーの広報車に乗り慣れている私でも「一コケいくらだろう」と頭によぎる事も……。
外見的にも一目でニンジャH2だとわかる独特なカウリングデザインは禍々しさすら感じさせるほど。様々なバイクを試乗する中でも一番注目を浴びた一台でした。 ニンジャH2の最大の特徴はスーパーチャージャーを搭載していること。ターボと言えばわかりやすいでしょうか?空気を圧縮してエンジンに送り込むこの技術は空気が薄くなる高高度で必要とされることが多く、航空機などの生産を行う川崎重工ならではの技術力とも言えます。
スーパーチャージャーシステムによる圧倒的な加速性能は驚きの一言。ニンジャH2は2018年には世界最高速を記録するなど話題が尽きないバイクです。
国内メーカーで唯一スーパーチャージャーを搭載するバイクを生産するカワサキですが、実はニンジャH2は逆輸入車。国内のラインナップには加わったことがないのです。そのカワサキが満を持して国内ラインナップに加えたスーパーチャージャー搭載バイクがニンジャH2 SXです。
正直ニンジャH2の試乗では圧倒的な加速性能に圧倒され「乗りやすさ」など感じることがありませんでしたが、ニンジャH2 SXはバランス型チャージドエンジンを搭載していると言います。今回もニンジャH2の試乗コースと同じ通勤ルートで一週間使ってインプレッションをお届けします。
ニンジャH2 SXとニンジャH2 SX SEの違いとは?
今回試乗車を用意していただいたのはニンジャH2 SX SE。「SE」がつくのはハイグレード版で様々な装備が追加されています。電装系でいえばLEDのコーナリングライト。バンク角に応じて点灯するLEDライトなのですが、街中で車体をあまり倒さないシチュエーションでも点灯が確認できました。ただ基本的には暗い山道などあかりがない場面の方が効果を体感する事ができそうです。 液晶はフルカラーTFT液晶を採用しており、表示はツーリングモードとスポーツモードの2パターンの切り替えが可能です。メーター部分は常に目に付く部分なので高級感のある仕上がりは歓迎したいところ。ドライバーのライディングをサポートする装備としては2500回転以上でクラッチ操作無しでギア操作が可能なクイックシフターが採用されています。シフトアップのみ対応のクイックシフターもありますが、ニンジャH2 SX SEのクイックシフターシフトダウンもOK。実際に使ってみましたがシフトダウン時に回転を合わせてくれるので変速ショックが少なく運転しやすく感じました。
ユーティリティ装備としてはDCソケットが採用されています。殆どのライダーは携帯電話の充電などに使うと思われますが、セパレートハンドルを採用しているのでハンドルに装着するタイプの携帯ホルダーは使用不可。なんらかのオプション品を装着する必要はありそうです。
ウインドスクリーンも専用の大型サイズが採用されています。試乗中に突然の雨に降られてビショビショになってしまった事がありました。タンクにおなかをつけて伏せた状態で走行したところ体に風が殆ど当たらず、あまり体を冷やす事がありませんでした。ツーリング中はもちろん、突然の雨にも効果を発揮します。
タンクを傷つけないようにタンクパッドとニーパッドも採用。後から装着する人も多い装備ですが不器用な人は貼り付けに苦労するだけにメーカーが純正で採用するのはありがたい! 質感も高くさすが純正品というクオリティです。
冬場に助かるグリップヒーターも採用しています。後からグリップヒーターを装備しようとすると一回りグリップが太くなってしまうこともありますが、ニンジャH2 SX SEのグリップヒーターは一般的な太さと変わりません。
ニンジャH2 SX SEのセンタースタンドはリコールが出ています!気をつけて!
ニンジャH2 SX SEにはセンタースタンドが採用されておりメンテナンスの際などに便利なのですが、なんとリコールが出ています。最悪の場合センタースタンドが降下して路面と接触してしまう可能性があるそうなので、リコール対応済みかどうか必ず確認しましょう。
ニンジャH2 SXにはライダーをサポートする装備が満載!
ここ数年で飛躍的にライダーをサポートする電子制御が進化しましたが、ニンジャH2 SXにも沢山の電子制御が組み込まれています。まずはトラクションコントロール。リアタイヤの空転を緩和させる装備です。路面が滑りやすいシチュエーションなどで効果を発揮します。
もちろんABSは標準装備。ブレーキング時にタイヤがロックしてしまうのを緩和させる装備はトラクションコントロールとセットで装備されていると安心感があります。ニンジャH2 SXのABS装置はKIBS(カワサキインテリジェントアンチロックブレーキシステム)と名づけられリヤホイールのリフトの抑制や作動時のキックバックの最小化、過剰なバックトルクに対応するなど機能性に富んでいますが、全て自動でバイクが考えて制御してくれるのでライダーは難しい事を考える必要はありません。
エンジンブレーキの効き具合もライダーが選択する事ができます。街中ではあまり使わないシステムですが、スポーツライディング時などにエンジンブレーキの効きを抑えて走行する事が可能です。
パワーモードも採用され、フル、ミドル、ローの3モードから選択可能。走行のシチュエーションに応じて選ぶ事ができます。モンスター級のパワーを出力するエンジンを搭載していますが、雨の日などは出力を抑えて走行する事も可能です。
またニンジャH2 SXにはクルーズコントロールシステムが搭載されています。左ハンドルスイッチのボタンで設定するとスロットル操作することなく一定のスピードで走行する事ができる機能です。アクセルを開け続けると多少なりとも手首に負荷がかかるので長距離走行時には疲労を軽減する便利な装備です。
多くのカワサキ車に採用されているクラッチの操作を軽くし、シフトダウン時などに急激なエンジンブレーキによりリアタイヤがロックするのを緩和するアシスト&スリッパークラッチも標準装備。初期型のニンジャH2には装備されていなかったのですが、クラッチ操作が国産車でもトップクラスに重く、街乗りでは非常に苦労しました。ニンジャH2 SXには標準装備となりクラッチ操作も軽くて扱いやすくなりました。
ニンジャH2 SX SEに乗るならサスペンションセッティングを試してもらいたい!
ニンジャH2 SX SEの前後サスペンションはフルアジャスタブルタイプを採用しており、初期の沈み込み量を調整するプリロード、伸び側・圧側両方の減衰力調整が可能となっています。足つき性が不安ならプリロードを調整する事でライダーが座った時にサスペンションが沈み込む量を大きくして改善することが可能ですし、走行中のサスペンションの動きも「柔らかく」感じるようになります。圧側、伸び側の減衰力調整はサスペンションが縮む際と伸びる際の負荷の調整が可能でサスペンションの動きを大きく変える事ができます。
ニンジャH2 SX SEの出荷時のセッティングはリアが比較的柔らかく、フロントが硬いセッティングとなっています。アクセルオンで後ろにトラクションがかかり、ハードなブレーキングでも姿勢が大きく崩れないスポーツ走行向けのセッティングですが、ツーリングや街乗りではフロントがやや硬めです。かなりプリロードがかかっているので調整すると乗り心地が大きく変わります。
コーナリング時にきっかけが作りにくい時などはサスペンションセッティングをしてみると良いでしょう。ただ調整できるポイントが多いのでバイクショップに相談しながら進めたほうがベターです。
ニンジャH2 SX SEの足つき性は?
ニンジャH2 SX SEのシート高はカタログスペック上820mm。車両重量も260kgなので身長が低いライダーは足つき性も気になるはず。 身長165cmの筆者が足の前半分ぐらいが地面に着くぐらいですが、ニンジャH2 SX SEは初期のサスペンションの沈み込み量を調整するプリロードの変更が可能。しかも工具を使うことなく調整できるリモートプリロードアジャスターが装備されているので沈み込み量が大きくなるように設定すると片足ならべったり、両足もつま先が設置するぐらいに調整する事ができました。ニンジャH2 SX SEにまたがってみて足つき性が不安ならリモートプリロードアジャスターを操作してプリロードを調整してみて下さい。工具を使わずにできるので試乗会などでも試す事ができるはずです。
ニンジャH2 SX SEの燃費は?
今回は一週間都内の通勤で試乗しました。高速時の巡航具合を確かめるのに一部高速道路を走行したりしましたが、殆どがストップ&ゴーの多い街中の走行。決して燃費を図るのに良い状況ではありませんでしたが、計測結果は18.2km/Lでした。ニンジャH2 SX SEの燃料タンク容量は19L。そのため連続航行距離は345kmとなりました。下道での走行がメインでこの数値なので高速道路を使った長距離ツーリングの際などはかなり連続航行距離が伸びそうです。
驚異的な乗りやすさにビックリ! ツアラーとしての完成度がめちゃくちゃ高い!
ニンジャH2 SX SEにはバランス型スーパーチャージドエンジンが搭載されており、日常での用途を目的に作りこまれています。ニンジャH2のエンジンは特定の回転域から強烈に加速しはじめる特性がありました。「すごい!」と感じる反面で街中では扱いきれないと感じさせるほど。
しかしバランス型スーパーチャージドエンジンは加速がビックリするほど滑らか! パワーモードで3つのエンジン特性を選択する事ができますが、どのモードでも普通に運転している限りは恐怖心などありません。4気筒エンジンならではの非常にシルキーな加速を体感する事ができるのです。
ただ本来高回転でパワーを出力する4気筒エンジンながら低回転でもしっかりとトルクがあります。メーターにはスーパーチャージャーの効き具合が常に表示されるのですが、低回転から常に動作しており、アクセル開度に応じて効き具合がどんどん強くなる印象です。本来トルクが失われる低回転域をスーパーチャージャーがサポートするので細かいギアチェンジは不要。 実は今回試乗中にチェンジペダルを支えるボルトが抜けてしまうハプニングがあったのですが、その時点でギアは5速。どうしようかと思ったのですが、目的地までの1km程度を5速のままたどり着くことができました。信号待ちで停車した後も5速で発進する事ができました。
優しくなったモンスターですが、200PS/11000rpmを出力するエンジンです。その気になってアクセルを多めに開ければ一気にスーパーチャージャーが加給し、恐ろしい加速でダッシュします。このエンジンは二面性があり普通に運転していると従順なエンジンですが、アクセルの開け方を多めにし始めると途端に凶暴な面を見せてくれるのです。
パワーモードはどのモードでもアクセルをゆっくり開けている限りはあまり変わりません。どちらかと言えばアクセルを多めに開けた時の加速感がモードによって異なる感じです。特に最も出力が出ないモードにすると多少多めにアクセルを開けてもスーパーチャージャーのサポートが少なく、体が後ろに引っ張られるような強烈な加速感はありません。
ツーリングから街乗りまで快適に走れる優しいモンスター
ニンジャH2 SX SEのハンドルは形状こそセパレートハンドルですがポジションのきつい前傾ポジションではありません。そのため長距離走行でも楽に走行する事ができそうです。アクセルワーク一つで二面性のある動きをするので、街中では従順な扱いやすいバイクとして走行する事ができますし、スーパーチャージャーならではの強烈な加速で走行する事ができます。
サスペンションセッティング一つでスポーティーなセッティングにも扱いやすいセッティングにもできますし、これなら緊張感を持たずにライディングすることが出来そうです。
圧倒的な性能で乗るもの全てに驚きと感動を与えるニンジャH2。そのバリエーションモデルともいえるニンジャH2 SX SEはライダーの扱い方一つで見せる顔を変える快適なマシンでした。
ニンジャH2 SX SE関連リンク
ニンジャH2 SX SEの各部詳細やエンジン音、マフラー音はこちらニンジャH2の試乗インプレッションはこちら