新しくなった「SLやまぐち号」

SLやまぐち号

津和野付近を走るD51形牽引「SLやまぐち号」


1979年8月の運行開始以来、まもなく40周年を迎えようとするSL動態保存列車の老舗「SLやまぐち号」。長年、牽引機として活躍してきたC57形1号機をサポートするため、2017年11月にD51形200号機がデビューし、2018年から本格的に活躍を始めた。客車も、昨秋より、長年親しまれた12系客車にとって代わる旧型レトロ風の最新型客車(35系)が登場して注目を集めている。新しくなった「SLやまぐち号」の今をレポートする。

「SLやまぐち号」の牽引機

C57形1号機

40年近く「SLやまぐち号」を牽引してきたC57形1号機


1979年8月以来、「貴婦人」の愛称で人気のあるスマートなC57形1号機が一貫して列車を牽引してきた。当初は予備機としてC58形1号機も用意され、C57型との重連運転も何度か行われたが、その後、不具合が少なからず発生したこともあり、1984年正月の運転を最後に引退、現在は、京都鉄道博物館にて静態保存となっている。
C56形160号機

2017年5月で山口線から引退したC56形160号機


その後、梅小路蒸気機関車館(現・京都鉄道博物館)にて動態保存されていたC56形160号機が、C57形の予備機として「SLやまぐち号」の牽引やC57形との重連走行に当たってきた。ただし、C56形はポニーの愛称で親しまれているように小型機であり、山岳路線の山口線を単機で列車牽引するには力不足であった。

2014年10月に、JR西日本は、梅小路蒸気機関車館(現・京都鉄道博物館)にて保存中のD51形200号機を整備して本線運行が可能な状態にすると発表。C57形も1937年3月の製造以来80歳を超える老齢の身であるから、少しでも負担を減らすため、予備機の登場は不可欠である。

大がかりな整備の上、D51形200号機は、2017年11月に初めてSLやまぐち号の先頭に立つこととなった。2018年のシーズン(3月から12月まで)は、C57形が整備中のため、3月の運転再開日からD51形が「SLやまぐち号」牽引機として活躍している。山口線は山岳路線であり、1973年までは、D51形が客貨両方に用いられていた実績があるので、D51形が「SLやまぐち号」を牽引するのに違和感は全くない。
津和野の町はずれを進む「SLやまぐち号」

津和野の町はずれを進む「SLやまぐち号」


当初の予定では、整備が終わったC57形が、2018年6月2日~11月18日まで「SLやまぐち号」を牽引することになっていた。ところが、運転再開直前になって、C57形の車軸に不具合が見つかったため、急遽、修理のため京都へ回送された。7月1日までは、D51形が引き続き「SLやまぐち号」を牽引する。

しかし、7月15、22、29日は、「SL北びわこ号」(米原~木ノ本)牽引の予定がすでに入っているため、「SLやまぐち号」は7月7日~16日は運休が決定している。その後は、C57形の修理次第だが、今のところ運行スケジュールは未定となっている。

「SLやまぐち号」の客車

青い12系客車

1979年からしばらくは青い12系客車が使われた


1979年以来、当時最新鋭の青い12系客車が5両編成で使われてきた。本当は旧型客車が雰囲気的にはぴったりなのだが、エアコンがなく、ドアは手動、トイレは垂れ流しのため、特別のイベント以外では使われることはなかった。やがて、オリジナルの12系客車では、汽車だか電車だか乗っていて分からないとの声もあったため、レトロ風に大改装して2017年まで使われてきた。
レトロ風に改装された12系客車の展望車

レトロ風に改装された12系客車の展望車


近年、12系客車の老朽化が目立つようになったため、JR西日本は、SLやまぐち号用の客車を新製すると2015年に発表した。新しい35系客車は、2017年の9月から、「SLやまぐち号」の客車として使われている。外観は、蒸気機関車全盛時代を彷彿とさせる茶色のレトロな車両である。
新型の35系客車

一見すると旧型客車としか思えない新型の35系客車


車内も内装やシート、洗面所など往年の汽車旅をイメージしている。しかし、エアコン付きで自動ドア、トイレは車いすでも使える温水洗浄便座付きの最新型だ。また4人向かい合わせのボックス席には大きめのテーブルが設置され、ひとつだけだが電源コンセントもあり、スマホなどの充電が可能だ。他には、旅行者向けにスーツケースなどが置ける荷物スペースやベビーカーなどの荷物置き場もある
1号車

1号車は展望車でグリーン車


客車は5両編成で、津和野へ向かう時は、先頭(機関車の次位)が5号車、最後尾は1号車である。1号車はグリーン車で、通路をはさんで2人掛けと1人掛けのゆったりとしたスペースで、応接間のような展望室もある。展望室の先には、展望デッキがあり、ガラス窓がないので外気を吸うことができるし、カーブでは先頭のSLの雄姿を撮影することもできる。1938年に製造され、東京と下関を結んでいた特急「富士」の展望車マイテ49をモデルとして復刻したとのことだ。グリーン券は980円、「SLやまぐち号」は快速列車なので、ほかには乗車券のみ必要。特急券や急行券は不要である。
2~4号車の車内

2~4号車の車内


2号車~4号車は、戦前から戦後を通して全国で活躍したオハ35形をモデルとしたもの。座席のモケットは青色だ。5号車のみが戦前を代表するオハ31形をモデルとしたもので、板張りの背もたれに緑色のモケットで異彩を放っている。オープンデッキの展望スペースもあり、1号車と異なり普通車なので誰でも利用できる。ただし、展望スペースは、5号車も1号車も最後尾となったときのみデッキへ行くことが可能で、機関車が連結されたときは安全上閉め切りとなるので注意したい。

社内販売や展示コーナーなどフリースペースも

3号車フリースペース

3号車フリースペースではSLの仕組みや歴史も学べる


3号車は、座席のほかにフリースペースがある。SLの仕組みや歴史をパネル展示したコーナーのほか、SLの運転を体験できるシミュレータ、SLの缶焚きができるゲームコーナー、それにお土産やドリンクを販売するコーナーもある。
売店で購入したもの

車内の売店で購入したもの、SLキーホルダー、黒いワッフル、津和野名物源氏巻


「SLやまぐち号」の新しい旅

新山口駅のSLやまぐち号

発車前の「SLやまぐち号」(新山口駅にて)


「SLやまぐち号」は土休日を中心に1日1往復。新山口駅を午前10時50分に発車する。ホームではSL関連グッズ、それに駅弁の販売がある。車内ではお弁当を売っていないので、弁当が必要な人は、新山口駅で買っておこう。グリーン車、普通車を含め全車指定で自由席はない。乗車するには事前に指定券を準備しておかなければならない(普通車指定券=520円)。
駅弁は新山口駅で買っておこう

駅弁は新山口駅で買っておこう


汽笛一声、新山口駅を出発。汽車特有のガタンという衝撃も、ガタゴト機関車に引っ張られていることを体感できる小刻みな振動もない。静かでスムーズな発車は、電車と同じであり、レトロな乗り心地を期待すると裏切られてしまうかもしれない。車内放送の「ハイケンスのセレナーデ」だけは、機関車牽引の客車である証だ。窓の外を煙が流れ、汽笛が響くのは紛れもなく汽車の旅だと実感できる。

民家が点在する山口市内を走り、15分で最初の停車駅湯田温泉に到着。温泉旅館に前泊し、この駅から乗車する人も結構いる。続いて山口駅に停車。それほど大きな駅ではないけれど、市役所や県庁の最寄り駅である。
仁保駅に停車中

仁保駅に停車中の「SLやまぐち号」


山口駅を出て、宮野を通過する頃から住宅がまばらになり、やがて山深くなっていく。最初の山越えにかかる手前の仁保駅で7分停車。機関士と助士は機関車の整備に余念がない。乗客はホームに出て記念写真を撮ったり、機関車を眺めたりと一息つく。「SLの煙以外は禁煙」なのでホームの片隅で煙をくゆらす愛煙家の姿もある。

発車後、すぐにトンネル。そのあとも長大な田代トンネルまでトンネルの連続だ。煙が充満し窓の外は何も見えない。そのためか、アテンダントさんが登場して抽選大会となる。当選者は3号車のフリースペースで投炭ゲームなどができる。

峠を越えると、篠目駅に停車。駅のはずれには煉瓦造りの給水塔が立っている。SL時代の名残で今は使われていない。
長門峡駅を発車直後

長門峡駅を発車直後、驀進する「SLやまぐち号」


紅葉の名所長門峡(ちょうもんきょう)を出ると汽笛を鳴らして鉄橋を渡る。このあたりは駅から近いこともあってSL撮影の名所で、大勢のカメラマンの姿を見ることができる。

しばらくは高原状のゆるやかな地形の中を進む。地福駅では14分停車。仁保駅では忙しかった機関士さんも、ここではのんびりしているので運転台をのぞかせてくれたり、一緒に記念写真を撮ったりしてくれる。閑散とした駅も、SLやまぐち号停車中だけは賑わう。
地福駅で14分休止する「SLやまぐち号」

地福駅で14分休止する「SLやまぐち号」


鍋倉駅から徳佐駅にかけてはリンゴの産地である。車窓からのりんご農園が見える。SL弁当に入っているデザートのリンゴもこのあたりで採れたものである。
SL弁当

車内で食べるなら「SL弁当」


徳佐駅を出るとS字カーブに差し掛かる。このあたりもSL撮影の名所で常時大勢のカメラマンが待機している。
C57とC56重連「SLやまぐち号」

徳佐付近を快走するC57とC56重連「SLやまぐち号」(2012年9月)


船平山駅を出ると2回目の山越えである。長い白井トンネルを抜けると山口県から島根県に入る。短いトンネルをいくつも抜けるうちに、赤茶色の石州瓦の屋根が連なる津和野の集落が見えてくる。

飛行機が着陸するときのように列車は徐々に高度を下げ津和野の町へと入っていく。汽笛を鳴らして津和野川を渡ると、速度を落としてゆっくりと津和野駅のホームへと滑り込んでいく。2時間余りの旅は意外にあっけなく終わってしまう。

津和野到着後の楽しみ方

転車台で方向転換をするD51

津和野駅の転車台で方向転換をするD51


津和野駅に到着後、列車は入換を行い、駅舎脇の側線に留置される。その後、機関車が客車から切り離され、駅のはずれにある転車台へと向かう。転車台広場は、改札口を出て左へ進み、踏切を越えたところにある。歩いて5分はたっぷりかかる。機関車が転車台で向きを変えるのは到着して20分後とアナウンスがある。時間があるなら、ぜひ見学したい。
津和野駅で整備中のD51

津和野駅で整備中のD51


その後、機関車は排煙装置のある場所で復路に備えて整備を受ける。
津和野は山陰の小京都と呼ばれる美しい街だ。通りの脇には鯉が生息する用水路が流れ、神社や教会もある。また、森鴎外、西周、絵本作家の安野光雅など有名人を多数輩出した町なので彼らゆかりの記念館など見どころも多い。温泉旅館もあり、のんびり過ごせる観光地だ。
鯉のいる津和野の街並み

鯉のいる津和野の街並み


新山口と津和野の間をSLやまぐち号で往復してもいいけれど、少し足を延ばして萩や秋芳洞など観光地をめぐると変化に富んだ旅が楽しめる。SL列車やほかの列車、バスなどを組み合わせて山口県や島根県を巡ってみたいものである。

新山口へは、山陽新幹線で新大阪から約1時間50分、東京駅から「のぞみ」で4時間20分、鹿児島中央駅から九州新幹線「さくら」で2時間15分

SLやまぐち号専用サイト  (運賃、料金、運行日、運行ダイヤ、予約状況、沿線の観光情報など)


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