スポーツスターの源流 アイアン883
直訳すると「スポーツ野郎」となるハーレーダビッドソンのファミリー「スポーツスター」。今から約60年前の太平洋戦争終結時、ヨーロッパから引き上げてきた米兵が持ち帰ったイギリスのバイク(トライアンフやBSA、ノートン)がアメリカで爆発的な人気を博し、それまでクルーザーバイクばかり作っていたハーレーが「このままじゃいかん!」と、スポーティなネイキッドモデルを手がけたことがスポーツスターファミリーの始まりです。
ホイールサイズこそ時代によって若干の変動がありましたが、Vツインエンジンを軸に、フロント19/リア18インチ、シャープなスポーツスタータンク、小ぶりなラウンドヘッドライト、細身の39mmフロントフォーク、ニュートラルなハンドルバーと、このアイアン883に受け継がれているシルエットは伝統のスポーツスタースタイルそのものなのです。
かつてスポーツスターのスタンダードモデルとして「XL883」という 前後サスペンションが長く保たれたスポーツバイクが存在しましたが、それがカタログ落ちしたことにより、アイアン883がスポーツスターの伝統を受け継ぐモデルとなったのです。XL883に比べたら前後サスが短くなってクルーザー然としているモデル。何より、ヘッドライトからリアエンドにかけて流れるようなシルエットを形成しているのが特徴的ですね。
ハーレーダビッドソンにとっては「スポーツバイク」にカテゴライズされるスポーツスターですが、実際同ファミリーモデルの車重は平均260kgと、200kg前後とされる国産メーカーのスポーツバイクよりもやや重いというのが実状。
私たちにとっては「スポーツクルーザー」という捉え方がもっともしっくり来ると思います。スポーツバイクらしい要素を含んだクルーザーバイクですね。このアイアン883、他のスポーツバイクに比べると車高が低いローダウンモデルなので、クルーザー感が強いと見てもらって差し支えありません。
アイアン883の特筆すべき点は「スポーツスターの伝統フォルムを継承するモデル」「コントローラブルなニュートラルモデル」「いろんなスタイルに変貌できる豊富なバリエーション」の3点。それぞれの特徴を紐解いていきましょう。
【1】伝統フォルムを継承するモデル
フロント19/リア16インチホイールに長細いスポーツスタータンク、ナローなフロントマスク、流麗なシルエット、そして空冷Vツインエンジンと、車高こそ低くなっているものの、60年以上に及ぶ歴史を育み日本でも大いに人気を博するスポーツスター本来のフォルムを持つことこそがアイアン883の魅力。このデザイン、日本のメーカーが逆立ちしても生み出せないオリジナリティの高い完成度を誇ります。
2015年のマイナーチェンジにより、イーグル(ハクトウワシ)のニューエンブレムにビレットホイール、そしてオリジナルのタックロールシートと個性を強めてきたアイアン883。「綺麗に磨き上げるのもいいんですが、むしろデニムのように汚す楽しみも秘めているのが新しいアイアン883です」とは、このマシンのデザインを手がけたハーレーダビッドソン米本社の日本人デザイナー、ダイスナガオさん。よりダーティなグラフィックへと生まれ変わったアイアン883がもっとも似合うのは、ツーリング先よりも夜の都会かもしれませんね。
【2】コントローラブルなニュートラルモデル
「乗りやすさ」という点では、ハーレーのラインナップでもっとも秀でるモデルなんじゃないでしょうか。それも、“日本人の私たちにとっては”という前提で、です。
256kgという重量ながら、ローダウンスタイルなので足つきに難もなく、その重心の低さから安定感に優れたアイアン883。883ccという排気量が生むVツインエンジン「エボリューション」のパワーは、リッターバイクのエンジンのような「扱いきれない感」もなく、ちょうど使い切れるようなパワーをライダーに供給してくれます。排ガス規制の関係で日本輸入時にはややパワーセーブされているので、インジェクションチューニングで本来のパワーを引き出せるようになれば一層面白さが増すでしょう。
2015年のマイナーチェンジでバージョンアップした前後フットワークにニュートラルなハンドルバー&ミッドコントロールステップから成るポジションは実にコントローラブル。そして心臓となるのが、過不足ないパワーをもたらしてくれる排気量883ccのVツインエンジン「エボリューション」。こと“乗りやすさ”という点ではアイアン883より秀でるモデルはない?
過不足ないパワーを操りやすくしているのは、そのニュートラルなポジション。ハーレーと聞くとチョッパーバイクのようなハンドルを想像されるかと思いますが、やはりオートバイである以上 操りやすくてナンボ。その点でいえば、派手さはないもののライダーが腕を伸ばした先に来るちょうどいいシルエットのハンドルバー、そして両足をストンと落としたところにあるミッドコントロールステップと、実はライダーがバイクをコントロールするのに最適なポジションとなる設計になっているのです。
個人的には「もう少しシートは細身の方がいいな」「もうちょっと車高が高い方が面白いのにな」などと考えたりしますが、それも“もう一歩先”のスタイルをイメージするからこそ。最初の一歩バイクとして見れば、実によくまとめられたバイクだと言えます。やはり「乗りやすい」と長く付き合えますからね。
【3】いろんなスタイルにカスタムできる!
同じスポーツスターのフォーティーエイト(右上)、ロードスター(左下)、セブンティーツー(右下)と比べると、アイアン883(左上)のフォルムには派手さはありません。それがバリエーション豊かなカスタムに変身できる要素
フォーティーエイトやセブンティーツー、ロードスターと個性的なファクトリーカスタムモデルがラインナップを飾るスポーツスターファミリー。「ボバー」「チョッパー」「ストリートレーサー」と、この段階ですでに方向性が決まってくるので、好みがピッタリ合う人にはもってこい。
一方、派手さはなくニュートラルなスタイルのアイアン883は、こと「カスタム」という遊び方で言えばあらゆるスタイルを取り入れることができる万能モデルでもあります。60年もの歴史のなかで確立したスタイルなので、どんなメニューでも注入可能。この懐の深さがアイアン883ならでは、なのです。
ロードスターとはまた違う車高が高いストリートバイク、意外にも似合うチョッパースタイル、実は得意分野なツーリングバイクなどなど、イメージがどんどん膨らんでいくのが、このアイアン883です。ウェブ上にいっぱいカスタム事例が出ているので、自分のライフスタイルにぴったり合うカスタム・アイアン883のイメージを膨らませてみてください。
まとめ
乗ってよし、いじってよしなアイアン883は、初心者はもちろん玄人でもいろいろと遊び方を見つけられる万能バイクです。無限の可能性を求めつつも“ハーレーらしさ”を楽しませてくれる一台、興味がある方は最寄りのハーレーダビッドソン正規ディーラー、もしくは試乗会イベントなどで実車に触れてみてください。
[HARLEY-DAVIDSON XL883N Iron883 SPECIFICATIONS]
全長/2185mm
ホイールベース/1515mm
加重時シート高/760mm
車両重量/256kg
エンジン型式/Evolution(空冷)
排気量/883cc
フューエルタンク容量/12.5L
フロントタイヤ/190/90 B19 57H
リアタイヤ/150/80 B16 77H
【メーカー希望小売価格】(消費税込/2018年6月現在)
[ブラックデニム]126万9000円
[インダストリアルグレーデニム]126万9000円
[ウィキッドレッド]126万9000円
[ボンネビルソルトデニム]126万9000円
[ハードキャンディーキャメレオンフレーク]129万7000円