伝統のハーレーはどう進化した?
「遺産」という名がそのまま冠された ハーレーダビッドソンの現モデルの中でも特別な部類に属する一台、ヘリテイジ。大きなタンクにクラシカルな前後フェンダー、前後16インチのスポークホイール、ビッグヘッドライト&スポットライト、大きなウインドスクリーン、そしてレザーシートやレザーサドルバッグと、「ハーレーダビッドソン」と聞いて誰もが想像する姿そのものを体現しているモデルです。
2017年、ハーレーのソフテイルファミリーはフルモデルチェンジを敢行、エンジンとフレームを新型化しました。よりパワーアップしたVツインエンジン「ミルウォーキーエイト」と高いスポーツライドを実現するカーボンスチール製のニューソフテイルフレームを備えたヘリテイジは、どう進化したのでしょう。試乗してきました!
30年以上もラインナップを飾るベストセラーモデル
まずスタイリングですが、昨年以前のヘリテイジと比べても変更点がほぼありません。これは良い意味での表現で、何十年も前のスタイルを今に継承するヘリテイジなので、変わりすぎるわけがないのです。
それでいて、テイストはガラッと変わっています。以前はギラッと輝くクロームパーツが多用されていたゴージャスなイメージのヘリテイジでしたが、現在ハーレーダビッドソンが推し進めている「ダークカスタムスタイル」を踏襲したのか、ブラックな部位が増えました。以前だとビンテージハーレーに見られる白いラインが入ったホワイトリボンタイヤは黒一色となり、エンジン、ヘッドライト、フロントフォーク、ハンドルバーなどなど、ブラックパーツが各所に用いられ、重厚な雰囲気を漂わせています。
何より興味深かったのは、「ハーレーダビッドソンらしい進化」が随所に見られたこと。それは、伝統のスタイルを崩すことなく機能面を高めるセンスが優れている点です。
例えばこのフロントマスク。以前だとハロゲンヘッドライトだったところをLED仕様としつつ、クラシカルなラウンド型を保ち、なおかつ以前よりもコンパクトにしたビンテージウインドスクリーンを採用。そのスクリーンも、アスファルトによる太陽光の照り返しを遮るブラックコーティングが施されているのです。このディテールだけで「お見事!」と唸らされます。
ダーティな衣をまとった2018年版ヘリテイジ。見た目の進化に加えて、マシンとしてはどうバージョンアップを果たしたのでしょうか。いよいよ走り出してみます。
オーバースペックではない完成度高きクルージングハーレー
2018年版ヘリテイジは2タイプのモデルが用意されています。それはエンジンで、107ci(排気量1745cc)タイプと114ci(排気量1868cc)タイプのいずれかを選べるのです(「ci」とは「キュービックインチ」の略で、アメリカで主に用いられる体積の単位)。当然パワーの高い方がクルージング能力に優れつつ、もちろん価格も上になります。今回お借りしたのは114ciタイプ。
ここで頭をもたげるのが「1800ccオーバーのパワーって本当に必要?」。「大は小を兼ねる」とは言いますが、軽自動車を軽く上回るハイパワーエンジンを果たして使いこなせるのか? 107ciでも過不足ないのでは? と思ってしまうところ。以前のツインカムエンジンでもパワーが有り余っていたので、どうコントローラブルに仕上げてきているのかを探りました。
ヘリテイジよ、お前もか……。先ごろ試乗したソフテイルスリムに続き、このヘリテイジもシーソーペダルではなくなっていました。シーソーペダルとは字のごとくシーソー型のギアチェンジペダルのことで、本来つま先だけでギアチェンジするペダルに「かかとで踏むもうひとつのペダル」を付け加えたアメリカンクルーザーに見られる機能。ハーレーダビッドソンらしいディテールのひとつで、ブーツやシューズを痛めなくていいというメリットがあります。
聞くと、シーソーペダル化はオプション(有料)扱いで残っているとのこと。エンジニアブーツを履いてのクルージングスタイルがよく似合うヘリテイジなので、ここは有料でもオプション導入でシーソーペダル化したいポイントです。
走り出してもっとも印象に残ったのが「軽い」でした。それは取り回しの軽さ、ハンドリングの軽やかさ、スポーツライディングを可能にしている軽さと、あらゆる意味での「軽さ」です。2017年以前のツインカムエンジンモデルと重量を比較すると、なんと17kgも軽くなっていました。ひとえにカーボンスチール製の新ソフテイルフレームによるものでしょう。
この軽やかさが快適なスポーツライディング性能を引き出しており、今回約120kmに及ぶストライドを行ったのですが、降車時にあまり体が疲れた感じがしませんでした。そう、2017年以前のヘリテイジ試乗時と比べてみて、です。前モデルだと安定感ある重量でズシッとクルージングを楽しめるバイクという印象でしたが、新ヘリテイジは「ライダーの負担を軽減しよう」というハーレー開発陣の意図を感じる仕上がりとなっています。
疲れにくいスポーツバイクとして進化していることもあって、排気量1800ccオーバーのパワーエンジンでも十分クルージングを楽しめました。ギア4速で時速100kmに達してしまうので、最大6速というギア設定を使う機会はあるのか?と思ってしまう部分はあります(実際、5~6速ギアに入れたのは1~2度でした)。
「やっぱりハーレーに乗るなら、スピードじゃなくて気持ちよくドコドコ鼓動を感じながら走りたい」という人には、107ciモデルで十分だと思います。高速道路で時速100km前後で流すならちょうどいい排気量だからです。一方、過去にメガクルーザーや国産スポーツバイクに乗ってきた経験を持つ方は物足りなさを感じずに済むよう、114ciモデルを選ばれると良いでしょう。そういった意味で、選択の幅ができたことは有り難いですね。
結論:理想的な正常進化を果たしたハーレーダビッドソン
期待していた以上の仕上がりでテストライドを楽しませてくれたヘリテイジ。ダーティなエッセンスをまといつつもヘリテイジ本来の佇まいはそのままに、オートバイとしてしっかりバージョンアップを果たしていることを見せつけてくれました。「旅するバイク」というヘリテイジのキャラクターにマッチした正常進化を遂げているのは間違いありません。現車を見るだけでは伝わらないヘリテイジ、その本質を知るには試乗をおいて他にありません。ハーレー試乗会や最寄りのハーレー正規ディーラーなどでぜひ体感してみてください。
[HARLEY-DAVIDSON FLHCS HERITAGE SOFTAIL SPECIFICATIONS]
全長/2415mm
ホイールベース/1630mm
シート高/680mm
車両重量/330kg
エンジン型式/ミルウォーキーエイト114ci
排気量/1868cc
フューエルタンク容量/18.9L
フロントタイヤ/130/90 B16 53H BW
リアタイヤ/150/80 B16 77H BW
【メーカー希望小売価格】(消費税込/2018年5月現在)
[ビビッドブラック]279万3000円
[ツイステッドチェリー]283万5000円
[シルバーフォーチュン]283万5000円
[レッドアイアンデニム]283万5000円
[オリーブゴールド/ブラックテンペスト]287万3000円
[インダストリアルグレーデニム/ブラックデニム]287万3000円
[レジェンドブルー/ビビッドブラック]287万3000円
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