FLSBスポーツグライドを試乗してみた
国産バイクばかりインプレッションしてきた私のもとに、ハーレーダビッドソンの最新車両のインプレッション依頼がきました。私自身はハーレーダビッドソンのXL1200Rロードスター・2008年モデルを所有しておりカスタムして乗っています。ハーレーダビッドソンの歴史やバックボーンを知っている人であれば、そのあたりの話を交えながら上手に説明するのだと思いますが、私はそのあたりはさっぱり知らないのでバイクとしての性能をしっかりと評価してみたいと思います。
「基本的に一週間通勤で使う」「週末はもしかしたらちょっと遠出するかも」という企画意図を伝えたところ、ハーレーダビッドソンの広報が用意してくれたのがFLSBスポーツグライドです。
排気量はなんと驚きの1745cc。国内メーカーのラインナップでこれに近い排気量のあるモデルといったら、ヤマハ・VMAXの1679ccかホンダ・ゴールドウイングの1833ccぐらいしか思い当たる節がありません。VMAX試乗時はあまりにも圧倒的なパワーに「街乗りはあかん」と思ったほど。
今回用意して頂いたFLSBスポーツグライドの走行性能やいかに。いつも通り通勤で試乗してインプレッションします。
FLSBスポーツグライドのスマートキーは初めは驚くかも……
ハーレージャパンのオフィスにてFLSBスポーツグライドの鍵を受け取ると、鍵を持ってさえいれば鍵操作なしでエンジンを始動できるスマートキーでした。最近では国産車でも採用している車種があるので驚きはしなかったのですが、車両に跨りエンジンをかけようとした時にどうやってエンジンをかけたらよいのかわかりませんでした。国産バイクのスマートキーの場合、鍵を差し込む場所はありませんがメインスイッチノブが存在し、スマートキーを持っていればノブを回すことでバイクの電源が入る仕組み。
FLSBスポーツグライドにはメインスイッチノブが見あたらなかったのです。しばらく迷った後「もしかしてスマートキーを持っていればセルモーターが回るのか?」と思ってセルモータースイッチを押してみたところ、エンジンが始動しました。
メインスイッチノブが無いことには驚きましたが、それ以上に驚いたのはメインスイッチノブがないのにハンドルロックにはアナログの鍵が必要な点です。どうせだったらハンドルロックもスマートキーで操作できるようにしてほしかったところ。
一際目を引く脱着簡単なパニアケースとフロントカウル
FLSBスポーツグライドの装備の中でも一際目を引くパニアケースは、簡単に脱着可能。ツーリングの時だけ装着し、混雑した街中を走行する際は簡単に外せるので非常に便利です。このパニアケースはハンドルロック用の鍵と共用なので、持ち歩く鍵が更に増えることはありません。更にフロントのカウルも簡単に脱着可能となっています。実際にパニアケースとフロントカウルを脱着してみましたが、コツがわかればどちらも1分以内に脱着可能。ただし、フロントカウルはコツをつかむまではちょっと苦労するかもしれません。パニアケースは鍵とは別に蓋をしっかりと閉めるためのレバーがついていますが、走行中は鍵を絶対に閉めないといけません(一度走行中にパニアケースが開いてしまうトラブルがありました)。ちなみにこのパニアケース、なんとダンパー付きでゆっくりと開きます。
FLSBスポーツグライドを受け取った当日は雨が降り、寒の戻りで急に寒くなった日でした。フロントカウルはハーレーのツーリングモデルに採用されている物ほど大きくはありませんが、着座位置が低いこともあり防風効果はなかなかのもの。寒い日やツーリングの際には役に立ちそう。デザインのアクセントにもなっています。
FLSBスポーツグライドの電装系装備をチェック
ヘッドライトは流行のLEDタイプを採用しています。丸型ヘッドライトの外周がポジションランプになっており、真ん中に高輝度のLEDが仕込まれています。テールは、ウインカーがテールランプの役割を兼任する一体式を採用しています。ハーレー以外にあまり純正採用している車種を見たことがありませんが、一体式のおかげかテール周りはスッキリしています。
しかし不思議なのは、ヘッドライト、テール、リアウインカーはLED化されているのに何故かフロントウインカーはバルブなのです。思わず「え?なんで」と口からでてしまいました。私がオーナーになったら確実にフロントウインカーはLED化します。
タンクの前下辺りにはUSB電源があります。DCソケットではないので、直接携帯電話の充電ケーブル等を接続することができます。この位置にUSB電源があるとハンドル回りに携帯電話を装着しても使い勝手が良いですが、配線をたるませすぎるとエンジンのフィンなどで溶けてしまう可能性があります。使用する際にはタイラップで配線を固定するなど一工夫すると安心です。
メーターはタンクに装着される伝統的デザイン。個人的には、この配置だと視点を大きく動かさないとメーターが見えないのであまり好きではありません。ただこのメーター、意外なほど多くの情報を映してくれます。アナログな速度計のほかにデジタルで表示される部分は表示の切り替えが可能で、時間や航行可能距離、タコメーター、トリップメーターなどが表示可能です。
そのほかにクルーズコントロールも装備されていますが、今回は使いませんでした。長距離ツーリングの際などには使えそうです。
FLSBスポーツグライドの足つき性と価格は?
リアショックはプリロードの調整が可能となっており、工具を使わずに調整が可能なリモートプリロード調整機構が採用されています(国産バイクでも大型のスポーツツアラーバイクの中には同調整機構が装備されている車両もあります)。状況に合わせてプリロードを調整してサスペンションの硬さを変更することが可能です。ただこの調整機構のダイヤルはめちゃくちゃ硬いです。女性は苦労しそう。シート高は680mmと低めですが、アメリカのバイクらしくシートが広いので、股が開き気味になってしまい数値ほど低くは感じないかもしれません。ですが身長165cmのガイドが跨っても片足はべったり。両足をつけようとすればつま先がしっかりつくぐらいですので、足つき性の不安はありません。
FLSBスポーツグライドの価格はブラックが227万5400円。今回借りたモノトーンが231万7400円です。正直このクラスのクルーザーは国産バイクでは存在しないので比べようがないのですが、価格が適正なのかどうか? 実際に走って走行性能をチェックします!
身長が低いライダーはシートを変更したい
早速車両を動かしてみると、さすが車両重量317kg。取り回しはなかなか重いです。なにやらフレームなどが改良されたことでかなり軽量化されたそうですが、以前のモデルを知らない私としては300kgを超える巨体が軽いわけがありません。ですが、重心が低いからか数値よりも軽く感じるのも事実です。平坦なところであればバイクに跨ったままで前後に動かすことが可能でした。エンジンをかけてみると思ったよりも静か。ハーレーと言えば爆音というイメージがあるかもしれませんが、アイドリングはジェントルな感じです。
ただ相変らず若干不安定ともいえる独特なアイドリングはハーレーらしいといえます。アイドリングは850rpm付近で安定していますが、爆発の感覚が不安定な感じは「やっぱりハーレーだな」と感じるポイントです。
走り出してみると、なんと足がチェンジペダルに届かずいきなりワタワタしました。そういえば以前スズキのブルバードM109Rに試乗した際もそうでしたが、排気量の大きいフォワードコントロールの車両に乗ると腰を中心にして完全に体が「くの字」になってしまうのです。
上半身は伏せれば腕に余裕ができるのですが、足が完全に伸びきってしまうのでギアチェンジやブレーキの操作が大変です。特にFLSBスポーツグライドの場合シートが前に行くほど高くなっているので、お尻の位置をタンクのすぐ後ろぐらいにしても加速時にずれてしまうのです。
足つき性は問題ないので、身長が低いライダーはお尻の位置をタンクの後ろに持ってきても着座位置がずれないような形状のシートに変更しておきたいところです。
圧倒的なトルクがありつつも操作は難しくない
なんとか着座位置を調整し、走り出してみました。雨のため1745ccのエンジンが出力するパワーで後輪がズルズル滑るのでは……と若干恐怖心があったのですが、走り出しは意外なほど滑らか。アクセルワークは慎重にしないと駄目か?と思っていたのですが、アクセルに対して少し遅れてエンジンの回転がついてくる感じが扱いやすく、アクセルの操作にあまり気を使うことはありませんでした。しかし少し多めにアクセルを開けるとエンジンがうなりをあげて圧倒的な加速をしはじめます。さっきまでアイドリング時にジェントルサウンドを奏でていたエンジンはハーレーらしい迫力のあるサウンドを奏ではじめ、マフラーも重低音が効いたパワフルなサウンドでライダーを楽しませます。
ギアは6速までありますが街中で使うのは4速まで。5速と6速は60km/h以下ではギクシャクしてしまうので高速道路でしか使うことがないかもしれません。一番使うのは3速という感じです。
意外だったのはコーナリング時のニュートラルなハンドリング性能。スポーツグライドと名前がついている割にはフォワードコントロールですし、コーナーではハンドリングに癖があるのかな?と思っていましたがこれまた意外なほどにスムーズ。コーナーではそれなりにバンクしても摺ることがないので、確かにこれなら多少の山道でも楽しく走行することができるでしょう。
ブレーキはハーレーらしくリアブレーキが良く効いて、フロントブレーキがそれなりという感じです。特にリアブレーキはシングルディスクの2ポッドキャリパーを採用しており、車速をコントロールしやすい印象です。フロントはシングルディスクに対向の4ポッドキャリパーですが、このクラスならダブルディスクでいいのでは?と思ってしまうのが本音です。
そういえば走行して気がついたのがの、意外なほどに不快な振動が少ないということ。ハーレーと言えば振動が強いという印象がありますが、走行中に振動でミラーが見えにくいということもありませんでした。
ただし、ハーレー全般に言えることですが極低速時は1速でもノッキングしてギクシャクします。以前インジェクションのチューニングをしたハーレーを試乗した事がありますが、スムーズになっていました。FLSBスポーツグライドもインジェクションだけは調整したいところです。
意外なほど乗りやすくジェントルな一台
1日目は雨が降っていた関係でレインウェアを着ていたこともあり、着座位置を前に固定することができずポジションに苦労しました。滑りにくい素材のパンツを履くことである程度対策になり、少しポジションに余裕ができました。アクセルをゆっくり開ける分にはジェントルに出力されるので怖さがなく、コントロールしやすいのは驚きました。コーナーも腰を入れて曲がっていけますし、ニーグリップも右はエアクリーナーカバー、左はタンクにしっかりとすることができます。
やはり一番の魅力は直進時の安定性。重心が低く剛性の高いフレームの恩恵もあって非常に安定しています。通勤時横風の強い海の上にかかる橋を走行しますが、多少の横風ならびくともしません。300キロを超す巨体は矢のようにまっすぐに走ります。
圧倒的な直進安定性と小さなヤッコカウルが疲労を軽減し、目的地まで楽に走行することが可能。更にちょっとした山道でも腰を入れながらスポーティーにコーナリングを楽しむことができます。
エンジンはハーレーのイメージとは異なり大げさな振動がありませんが、鼓動感や加速時のサウンドはユーザーにハーレーダビッドソンを所有する喜びを感じさせます。
今回お借りしたモノトーンの車両は231万7400円。決してお安い価格ではありませんが、全てのパーツの質感が高く、特に後から購入すると高額なデタッチャブルタイプのパニアケースが装着されているのは魅力的です。
前述しましたが、国産バイクでFLSBスポーツグライドに該当しそうな車両がないので価格を比べることができませんが、走りの魅力やパーツの質感を考えれば決して高い金額ではないかもしれません。